表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/47

16 困惑する聖騎士と思い出の叔父様



「あー…聖女様方は俺達をお人形かなにかだと思っておられるよな絶対。」


「まぁな…でもこれも聖女様を国へ連れ帰るのに必要なら、お人形遊びに付き合うのが俺らのお仕事だろ?」


「タルスル~…というか貴様また新しい聖女様方に囲まれてたな…」


「あぁ俺魔力と顔で選ばれてるから聖紋消えるの早いんだよ。向こうからお声がけいただくんだから仕方ないだろ?お断りは出来ないしな。ま、今回は聖女様同士で牽制されて結局どなたからも求愛は頂けなかったけどな。」


そう言ってタルスルは聖紋の消えている右手をヒラヒラさせた。


「てかそういうお前だってルーシャ様といちゃいちゃしてただろ?ノノマ様が一瞬すげー顔で睨んでたぞ。ルーシャ様を。」


「ノノマ様の聖紋がもう消えてたんだ仕方なかろう?それに…「おい貴様!ルーシャ様の新しい聖騎士となったからと言っていい気になるなよ!!銀級が!!」


コカソリュン帝国の聖騎士タルスルらが軽口を叩きながら花園を出て騎士達の居住区へと移動していたその後姿へ、突然横柄な声が投げかけらた。タルスルらが足を止めて振り返るとそこには肩章を金色に光らせた聖アリミア教国の金級の聖騎士が5人立っていた。


「これは金級の聖騎士様方。いかがなさいましたか?」


同僚に向けていた気安い雰囲気を瞬時に切り替えてタルスルが穏やかに問い返すと、その金級の聖騎士は顔に怒気をはりつけたままタルスルの横の聖騎士を指さした。


「いいか!ルーシャ様はこの金級の聖騎士であるこの俺様に求婚してくるんだ!序列下位の銀級がしゃしゃり出てくるな!!」



「それは…聖女様の御意向ですので」


「うるさい!!おまえら銀級はどいつもこいつも媚びをうることばかり達者で恥を知る者がいない!貴様らのような下半身のゆるい聖騎士は娼館にでも行って金を持つ女にでも買われておればよいのだ!!」


「はぁ?」


「そこまでだ。」


金級の聖騎士のあまりに下品な言い草に聖騎士である仮面が剥がれ落ちそうになったタルスルを制すように、花園から降りて来たもう一人の銀級聖騎士の鋭い制止の言葉が投げ込まれた。


「…グリワム」


「金級のオッド聖騎士。いくら上位の立場とはいえ我が国の聖騎士に対する無礼な物言いは控えて頂きたい。」


「あぁ?何だと!?」


「ですが。…同じ聖騎士として聖女様の関心を誰よりも得たいと望むのは当然でしょう」


そう言いながらグリワムは胸元からメモ帳を取り出し何事かをサラサラと書きつけるとそれを気色ばんだ金級の聖騎士に手渡した。


「我々に煩わされるより、聖女ルーシャ様により一層お時間を使われる方が有意義なのでは?」


金級の聖騎士はムッと眉を寄せ乍らそのメモを受け取り中身を確認すると、ハッと顔を上げてグリワムを見た。


「なぜ俺にこれを…?」


「上位であるあなた方が我々に対してあまり良い印象を持っておられない事は承知しておりますので、心づけのようなものです」


「お、おれを貶めるためか?」


「まさか。」


この聖騎士グリワムがそのような事をする理由が自分にあると思えるのか?と、そう問う様な視線に、金級の聖騎士は気圧されたように視線をそらし「そうだな」と小さく呟いた。金級、銀級と序列分けされていても、今いる聖騎士の中で最も優れている聖騎士が誰なのかは口に出さずとも皆当然不愉快ながらも理解していた。


そのままその聖騎士はグリワムから受け取ったメモを胸元に入れ込むと「行くぞ」と言って他の聖騎士らを引き連れ反対側へと歩いて行ったのだった。


それを若干面白くも無い風で見送ったタルスルは「グリワム。余計なことすんなよ」と口を尖らせた。もう一人の聖騎士も複雑な表情でグリワムに視線を向けて来る。


「…貴様ら。ここはまだ騎士の舘の中ではない。あのような輩に構われる隙を見せ、コカソリュン帝国の騎士らしい振る舞いを忘れた貴様ら自身に問題があると心得ろ。」

「っ!」

「はっ!申し訳ありません!」


しかしグリワムがタルスルの言を無視するように冷たく言い切ると、二人はあわてて背筋を伸ばし、サッと騎士の礼をとって見せたのだった。


だが、誰よりも聖騎士らしい聖騎士。黒銀とまで呼ばれ現在特別視されている聖騎士グリワム=オーダナイブは、その時タルスルらに投げかけた言葉を自身への戒めとして発したのだという事は、グリワムだけが心得ていた。



聖女キーラ=ナジェイラ



あの全く聖女らしくなく、自分に対してなんの関心も示さなかった68番目の聖女の事をグリワムはぐるぐると考え続けていたのだった。



*****



ー危なかったですわ!思いのほかのんびり過ごしてしまいましたわ!!


聖域に戻って来たキーラは午後のノルマを果たすべく祈りの間へと駆け込み、そのままフンフンッと聖水生成に励みながら先ほどの出来事を思い返していた。


ー久しぶりに花園へ降りてみた感想としましては何ですわね…聖騎士様の美々しさに無用な気力と精神力を消耗した気がいたしますわ。


特に聖女トティータを囲むようにして側にいた4名の聖騎士。彼らは誰も彼も美しく、その中でもグリワムとかいう聖騎士は頭一つ分飛びぬけて麗しかった。キーラのぼろぼろ聖女っぷりにも全く怯む様子も無く穏やかに傅き挨拶をしてくる理想の聖騎士らしい振る舞い。だが、とキーラは眉を寄せた。


ーあれは腹黒ですわ。


そう、キーラにはああいった人物に免疫があった。

母の弟があんな感じの青年だったのだ。


今は隣国にいるその叔父は、あの辺境のふるさとなどではそうお目に掛かれないような飛びぬけて見た目の美しい男だった。その上だれにでも愛想がよく、どんな人とも分け隔てなく付き合え、だれからも愛された男。


だが、そんな叔父が他人の目がなくなると一変して態度を崩すのだ。そんな叔父に幼いキーラは「叔父様はどうしてお家とお外とでそんなに態度を変えておられますの?」と聞いてみた事があった。


「キーラ。他人はいろいろと面倒なんだよ。どいつもこいつも自分勝手だ。おじさまは顏が良いだろう?めちゃくちゃな美形だろう?そして頭も良い。おまけに金もそこそこある。そうなるとさらに面倒なんだ。つまりこれは処世術ってやつだ」


「しょせいじゅつ…?」


「おまえさんも可愛い顔をしているからな。身に着けた方がいいぞ?内と外とで自分を使い分けるんだ」


「そうなんですの?」


「だめよキーラそんな事をきいては。ロランは腹黒なのよ。外でニコニコしながら後で嫌な態度をとって来た相手の名前を日記に書いたりして呪っているのよ。我が弟ながら怖いわ」


「姉さん!」


「…呪いを日記に…」


「そうだぞ!ロランは腹黒だ!人はもっと正直にまっすぐ生きる方がいい!結局後で面倒な事になる!そういうことだ!」


「お義兄さん!」


「なるほど。叔父様は腹黒い」


「キーラちゃん?!」


話しに割り込んできた父と母の言葉にキーラが頷くと、叔父は困った様に眉を下げた。その顔に皆で笑ったが、キーラも父の意見に賛成だった。



人は真っすぐ生きる方がいい。


とはいえキーラはそんな叔父が嫌いではなかった。叔父もキーラ達家族には自然な態度で接してくれていたからだ。


そこまで思ってキーラは聖水瓶を手にしたまま、先ほどの聖騎士の事を思い浮かべた。


ー聖騎士として正しい振る舞いをしているだけの彼を、腹黒だなどと勝手に断じるのは失礼でしたわね。きっと彼も自分の家族には自然に接するのでしょうし。たとえ…そう、例え部屋に呪いのノートがあっても、それが彼等の処世術?なのだから他人がどうこう言う事ではありませんわね。


ただ、そんな相手とキーラは間違いなく合わない。叔父は家族だから受け入れられるが呪いのノートを内に秘めた腹黒美形はよろしくない。精神衛生上。キーラは(少し悔しいが)父たちのように裏表のない真っすぐな心根の筋骨隆々とした逞しい殿方に惹かれるタイプなのだ。


ーとはいっても彼等はトティータ様の聖騎士ですもの。きっと皆さまトティータ様との結婚を希望されておられるのよね。わたくしとの相性が良かろうが悪かろうが関係ありませんでしたわね。


キーラはフフっと笑って、そういえば昔、仲良くして下さっていた先輩聖女様も2人の聖騎士様のどちらと結婚すればいいのかしら?なんて悩んでいらっしゃったわ…などと昔の事を懐かしく思い出しながら、キーラは新しい聖水瓶を手に取ったのだった。



そうしてキーラは翌日も昨日と同じ昼の時間に婚活の為、契約婚の為、花園に降りて来ていたのだが


ーえっと…これは一体どういう状況ですの????


今、キーラの目の前では聖女トティータの聖騎士であるはずのグリワムが、にこやかな笑みを浮かべて立っていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ