表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/87

第81話 『最後の選択』

 ろうそくの火は、相変わらず不思議な重力に逆らうように、空間の真ん中で静かに揺れていた。

 アコウとミコトは、沈黙の中にいた。

 けれど、もう“迷い”というよりは、“受け止める”段階にいた。

 

 ──君たちに、最後の問いを。

 

 壁も床も存在しない空間に、ミメイの声が響く。

 その声は、感情のないAIのようでありながら、どこか温かさを含んでいた。

 

 ミメイ『第七層は存在しません。あなたたちが選んだ選択が、あなたたちの現実になります』

 

 ミコトが息をのんだ。

 アコウは、そっと顔をあげる。

 

 ミメイ『最後のカードの選択は……“記憶を保持し、ユウの存在を失う”か』

 ミメイ『あるいは、“記憶を失い、ユウがどこかで生きる世界を残す”か』

 

 その瞬間、空間の色が変わった。

 暖かな光と、冷たい闇が、空間の左右に分かれて伸びていく。

 まるで、どちらの世界も“真実”であると告げるかのように。

 

 アコウは、ミコトと目を合わせる。

 何も言わずに、ただ目を見るだけで、分かった。

 

 ――きっと、私たちは、同じ答えを出す。

 


■アコウの想い──「ありがとう」の意味

 ユウのことを思い出す。

 猫耳メイド姿の写真。

 暴走していた狐火の攻撃。

 スマホ片手にテンションMAXで自撮りしてた顔。

 そして――何も言わずに背を向けて、消えていった後ろ姿。

 

 アコウ(思い出せなくなっても、きっと……私、描くと思う)

 

 この手が覚えてる。

 笑ってた顔も、泣きそうだった目も。

 その温度だけは、絵にできる。

 

 「さよなら」なんて言わない。

 だって、そんなもの言ってしまったら、本当に終わってしまうから。

 だから、

 アコウ(ありがとう、ユウ。……私、ちゃんと前に進む)

 


■ミコトの気づき──近くにいた誰か

 ミコトはアコウを見つめながら、自分の中の何かが変わっていくのを感じていた。

 

 あの頃、近寄れなかった子。

 あの頃、ただ眺めていただけだった世界。

 でも今、自分はその隣にいる。

 そして一緒に、選ぼうとしている。

 

 ミコト(私は……ユウのこと、ちゃんと好きだった)

 

 異性とか、友達とか、そういう枠じゃなくて。

 もっとこう、空に浮かぶ月みたいに――当たり前に、そこにあって、安心できる存在。

 

 でもそれを守るために、“思い出せない”道を選ぶ。

 彼女が、ちゃんとどこかで“生きる”ために。

 

 ミコト「……絶対、また会えるって、思えるよ」

 


■選択──未来を信じる

 2人の手が、同時にカードに触れた。

 選ばれたのは、光の側――

 “記憶を失い、彼女がどこかに存在する未来”

 

 その瞬間、空間が音もなく崩れていく。

 まるで光が霧になって解けていくように、ろうそくもカードも、そして空間そのものも消えていく。

 

 最後に残ったのは、ユウの声。

 

 ユウ『……バイバイ、って言わないよ。

 ……だって私、また出会うつもりだから』

 

 ――そして、完全な闇。

 


■現実世界──静かな朝

 日曜の朝。

 駅前のコンビニには、何の異常もなかった。

 学生服を着たアコウは、手帳を開いて――ふと首を傾げる。

 

 「ん……? なんで、ページがちょっと空いてるんだっけ」

 

 隣にいたミコトが、フライドポテトをかじりながら同じように言う。

 

 「なんか、予定あったような……でも忘れちゃったね~」

 「うん……ま、いっか」

 

 2人は笑い合って、駅に向かう。

 空は雲一つない、真っ青な晴れ。

 だけど、通学路の途中にあった白いカラスだけが、少しだけ涙ぐんでいた。

 


■遠くの誰か──ユウのいる場所

 風の通り抜ける小さな町の図書館。

 本棚の陰で、狐耳の少女が、静かに本を並べていた。

 

 「……会えるよ、いつかきっと。

 そのときは、“最初”から仲良くなろうね、アコウ」

 

 少女は本の隙間からこっそり2人の後ろ姿を見て、そっと笑った。

 その目には、ちゃんと光が戻っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ