第58話 『イルミネーションは奇跡の光』
放課後・図書館 談話室
「ねぇ、やっぱりさぁ……どう考えても、あの司書さん、ユウじゃない?」
アコウは、ミコトの手を引きながら、駅前図書館の階段を駆け上がる。
「わたしもそう思ってた! 声とか、なんか雰囲気がさー……“落ち着いてる風に見せて超騒がしい人”っぽいもんね」
「それ、めっちゃ失礼だけど、めっちゃ正しい……!」
館内は相変わらず静かだった。
「静かにお願いします」のポスターが目に入るたびに、自分たちのテンションの浮きっぷりが気になってくる。
そして、談話室の奥。
そこに、“あの人”はいた。
いつものように眼鏡をかけて、髪をきちんとまとめ、膝に開いた本を静かに読み進めている。
机の上には、しっかり名前入りの名札――**「霧島 柚」**が置かれていた。
アコウが小声で囁く。「……名前が、ほぼユウ……」
ミコトが囁き返す。「それもう、ユウだよね……」
そして2人はそっと近づき、咳払いする。
「すみません、司書さん……」
司書は静かに顔を上げ、笑顔を向ける。
「はい、どうかされましたか?」
――完璧。声も、話し方も、全て完璧に“別人のふり”をしていた。
だがアコウの目は、そこに少しだけ滲んでいた“困ったときの笑いジワ”を見逃さない。
「……あの……変なこと聞いてもいいですか?」
「構いませんよ」
「最近、猫耳とか巫女服とか……あとプレゼントボックスとか……着ました?」
司書は、しっかり数秒間フリーズした。
「え……ええ……いえ、ありませんね……たぶん……夢でもないかと……」
「そっかー。ちなみに、最近スマホのカメラ、何使ってます?」
「いや、あの、それは……個人情報なので……」
その時、ピロリン♪ と可愛らしい通知音が鳴った。
司書――ユウのスマホの画面が、ちょうどアコウの視線に入る場所に置かれていた。
画面にはこう表示されていた。
「AI自動整理:『巫女撮影会(奇跡の光)』の新アルバムが作成されました」
「………………」
「………………」
「……奇跡の光、出てたんだ、あのとき」
「や、や、違うんです!これはその、AIが勝手に!勝手に!私は、えっと、その、ほら!スマホの進化ってすごいですよねぇーっ!」
ミコトが食い気味に突っ込む。
「えーと、これは“ユウちゃん、バッチリ見てたし撮ってたし保存してる”ってことでいい?」
司書は本を閉じ、両手で顔を覆った。
「バレたぁああああぁぁ……!」
アコウとミコトは顔を見合わせて爆笑した。
アコウは一息ついてから、そっと問いかける。
「……やっぱり、あのときのユウなんだよね?」
「……うん。ごめんね、ずっと隠してて」
ユウは、すっかり観念したように、静かに答えた。
普段のハイテンションとは違い、穏やかな声だった。
「現実の私は、“ここ”にいるには不安定な存在なの。だから図書館の司書としてなら、こっそり紛れ込めるけど、気づかれたら消えちゃうこともあるから……メールも送れるけど、返信は届かない。すごく不便なんだ」
アコウは目を伏せて、ぼそっと言った。
「……寂しかったよ。いなくなってから、ずっと」
ミコトも小さくうなずく。「なんかさ……変な格好させられても、あの人がいたから面白かったっていうか……楽しかったのに」
「ううぅ……そんなこと言われたら……!」
ユウは涙ぐんでから、突然スマホを構えた。
「じゃあ!せっかくだから、今からここで“再会記念トークショット”撮るからっ!笑って!笑ってー!!」
「図書館!図書館だってば!!」
2人がツッコミを入れた時、後ろから「静かにお願いします」と館長が怒鳴ってくる。
慌てて3人とも土下座のように伏せる。
その後、談話室の静けさを取り戻した中、ユウはもう一度だけ話す。
「……また会えるよう、頑張ってみる。でも、もしまた突然消えても……心配しないで。私は、どこかで見てるから」
「うん。じゃあ今度は、プレゼントボックス姿じゃなくて、普通の制服で会おうよ」
「やだ、それは逆に緊張する」
「わかるー!」
3人の声は、また笑いへと変わっていった。




