第53話 『カラスからの置き手紙』
■次の日・昼休み / 校舎裏のベンチ
学校の昼休み。日差しはまぶしく、セミの声が響く。
アコウとミコトは、いつもの購買前の混雑を避け、校舎裏の古びたベンチに座っていた。2人だけの、ちょっとした秘密の休憩所だ。
アコウはパンの袋を開けながら、ぽつりと口を開いた。
「……なんかさ。やっぱり、ユウ……いなくなっちゃったよね」
「うん……昨日、また手紙だけで消えちゃった感じだよね」
ミコトも、紙パックのジュースをストローでくるくる回しながら答える。
「なんで……私たちが引き止めたのに」
「たぶん……“ユウ自身”がまだ“そっち側の存在”だからじゃないかな。普通の人間じゃないっていうか……」
アコウは膝の上で指を組み、しばらく黙っていた。
ふと、少し苛立ったように口を尖らせた。
「だったら、ちゃんと説明してくれてもいいのに……」
「ユウなりに、私たちに“変に期待させないように”してるのかも。……優しさ、なのかもしれないね」
その言葉にアコウは「むぅ」と唸った。
パンをちぎりながら、空を見上げる。
――と、その時。
「カー、カー……」
頭上から聞こえてきたのは、カラスの鳴き声。
学校ではよく見る風景……のはず、だったのに。
「……あれ? あのカラス……」
ミコトがポツリと呟く。
黒く艶やかな羽根。だけど、その目だけが妙に鋭く、知性のようなものを帯びていた。
「えっ……え、ちょっと待って……あれ、ユウじゃない!?」
カラスはひと鳴きしたあと、ベンチの前にふわりと降り立ち、首をかしげるようにして2人を見た。
その動きが、妙にユウらしい。
「マジで!? カラスに!? 乗り移ってるの!? ていうか乗り移れるの!?」
アコウが驚きで立ち上がると、カラスはくちばしで器用にくるっと回り、足でベンチを軽くつついた。
すると、そこに一枚の小さな紙が落ちた。
「……また手紙……?」
ミコトがそれを拾い、読み上げる。
『ごめんね。今はまだ、人の姿でいられない。でも、ちゃんと見てるよ。次の“扉”が開かれるまで、もう少しだけ待ってて。──ユウ』
読み終えたミコトが、静かに息を吐く。
アコウは複雑そうな顔で、それでも笑ってつぶやいた。
「なんだよ……姿見せないなら、せめて声で返事してよね……カーカーって……」
すると、カラス――ユウは少し首を傾げたあと、まるで「ごめん」と言うように1歩近づいて、アコウの足に軽くくちばしを当てた。
「……今の、なぐさめ……?」
アコウがそう尋ねると、カラスは何も言わずにふわりと飛び上がり、空へと消えていった。
2人は、その小さな影をしばらく無言で見送っていた。
「……ちゃんと、見てくれてるんだね」
「うん。だから――こっちも、諦めないでいよう。今度は、ちゃんと“話”できるようにさ」
風が吹いた。夏の気配を運びながら。
そして、空の向こうでは――また次の“層”が、静かに目覚め始めていた。




