第50話 『新春撮影会』
「ミコト~、その鈴、もっと右!そうそう、その角度!巫女っぽいポーズでお願いね!」
「え、え、こう? あ、ちょっと足つったかもっ……!」
「アコウも笑って~! 口角上げて~!年賀状はこう、ファンファーレ感! はい、ハイッ、ポーズ!」
ユウがスマホを構えてくるくる回りながら、境内の石畳を跳ねるように動き回る。
周囲の“正月らしい空間”は、もう戦闘の気配など微塵も残っていない。
神社風の鳥居の奥には鏡餅、屋台のような賑やかさすら残されていた。まるで「楽しかった記憶」だけを残すかのように。
「なんか、私たち本当に年賀状のCMみたいになってきた……」
アコウがぼやくと、ミコトも苦笑しながら巫女装束を整える。
「うん……でも、悪くないかも。さっきまで超シリアスだった気がするけど……なんかもう、夢みたい」
「そーそー、楽しい方が記憶に残るよ? ダンジョンって基本的にシリアス多いし、こういう回あってもいいよね☆」
ユウは笑っていた。
でも、アコウは見逃さなかった。
カメラ越しに、ほんの一瞬だけ遠くを見る目。
それは、全てが終わった世界に、一人だけ取り残された人のような目だった。
「……さっき、本当に、いなくなるとこだったんでしょ」
「え~? そんなことないよー。ちょっと、バグっただけ☆」
「……嘘が下手すぎる」
ユウは笑って誤魔化すしかなかった。
何を語っても、今この一瞬の「日常」こそが、一番大切なものだとわかっていたから。
「……じゃあ、もう一枚。今度は3人で!」
ユウがタイマーをセットして、三脚代わりの破魔矢にスマホを固定する。
「ちゃんと写ってね~、いっくよ~!5、4、3……」
ふわっと風が吹いた。
「2、1──」
パシャッ。
画面には、巫女姿のアコウとミコト、そして中央でピースを決めるユウの姿。
背景には、初日の出が柔らかく空を染め、少し照れたような笑顔の三人が並んでいた。
その瞬間だけは、何もかもが平和だった。
けれど──
「……さて。そろそろ時間かもね」
ユウがそっとスマホをしまうと、空の色が少しだけ変わり始めた。
「また……ダンジョン、閉じるの?」
アコウが訊ねると、ユウは肩をすくめた。
「わかんない。でも……たぶん、また変わる。私が居続けるには、もう少し時間が必要みたい」
「……やっぱり、ユウって“普通の存在”じゃないんだよね」
ミコトが言うと、ユウはにこっと笑う。
「うん。でも、普通の友達ごっこくらいは、もうちょっと続けてみたいなって思ってるよ」
そう言って、ユウは2人の頭をそっと撫でた。
「……また、すぐ会える?」
アコウの問いに、ユウは目を伏せて小さく息を吐く。
「会おうと思えば……きっと、またどこかで」
その時だった。
地面がゆらりと揺れ、空間の端がノイズのように崩れ始めた。
「帰り道、そろそろ出るよ~。はぐれないでね!」
ユウが笑いながら言う。
3人は並んで歩き出す──まるで、初詣からの帰り道のように。




