第34話 『ユウとの別れ』
■コンビニ裏路地・夕暮れ
「……じゃあ、私、行くね」
ユウはそう言うと、アコウたちに背を向けた。
まるでその姿が、最初から“こちらの世界”に属していなかったかのように、足音もなく、風のように歩いていく。
「え、あ、待っ――ユウ!」
アコウが呼びかけたが、次の瞬間、ユウの姿は夕焼けの光の中に、ふっと溶けていた。
影すら残さず、まるで幻。
「い、今の……見た?」ミコトが言う。
アコウは頷く。「……うん。消えた。……夢みたいに」
しばらく2人は立ち尽くしていた。コンビニの裏にはもう、何もなかった。
冷蔵庫のドアも、扉の光も、そして――ユウも。
「……ユウってさ、学校にもいないし、名前も知らなかったよね」
ミコトが急に現実的なことを口にして、はっとしたように立ち止まる。
「……あれ……そういえば……私たち、あの子と“現実”で一度も……」
アコウも同じことに気づいて、心が急に冷えていく。
「えっ、じゃあ……連絡先も知らないし、住所も、電話も、何にも……!」
「ダンジョンの中でしか、会ったことない……」
目の前の事実が、ようやく心に沈んでくる。
ユウは、“あちら側”の存在だったのだ。
「……また会えるのかな」ミコトがぽつりとつぶやいた。
「……わからない。会いたいけど……どうしたらいいか、全然わかんない……」
アコウの手の中に残っているスマホを、ミコトがのぞき込む。
そこには猫耳メイド姿の3人が写った写真。笑って、ふざけて、ぴーすして。
その中央にいたユウは、どこか現実味がなかった。
あの笑顔すら、遠い夢のように感じてしまう。
「……会えるよ、また……会えるって思わなきゃ……」
アコウの声は震えていた。でも、その言葉は自分に言い聞かせるように、強く響いた。
2人はそのまま、言葉もなく並んで歩き出す。
もう一度、あの扉が開くことを信じながら。
夕暮れが静かに街を染めていた。




