脅迫と準備【バルス視点】
魔眼持ちという理由だけでレイスを追放した事がバレると、命すら危うくなる可能性があるリングベルド家。
バルス達は、レイスを家に連れ戻し殺害をしようと計画をしている。
捜索依頼という形で信頼できる者達に任せたが、見つからなかった。
そんな中……。
「ご主人様、王宮から使いの者が来ておりますが……」
レイスを見つけられず、隠しきれない程の苛立ちを露にするバルスに、突然その報せは届いた。
「何事だ? またもや使いの者が我が家にまで来るとは。こんな時に……」
悪態をつくバルスだが、王宮からの使者ともあれば無下にはできない。
バルスは急ぎ支度を整えて迎え入れる。
「遠路はるばるご苦労であった。して、いかがなされたかな」
「はい……ザガル伯爵からの手紙です。直接渡すように命じられました」
「ザガル伯爵だと!?」
ザガル伯爵と同じ地位のバルスはお互い仲が悪く敵対している。
当然良い知らせではないという事くらいはバルスも理解した。
手紙を受け取ると、使者は次の報告のため、すぐにいなくなった。
バルスは黙読を始めて顔色が悪くなっていく。
「ルーラ、ミルト! 直ぐに王都まで馬を使う!! 急ぎ準備を!」
手紙には脅迫状ともいえる文面が綴られていた。
「なんでこんな時に王都に行かなければならないのよ!?」
「それには理由がある。まずは落ち着くんだルーラ……」
「ならあのクソガキを早く連れてきなさいよ!! あなたの選んだ捜索隊が使えなさすぎなのよ! あんなゴミ共はクビよ!!」
「ルーラ……お前というやつは……」
バルスとルーラが揉めている。この二人を無視して、ミルトは手紙を言葉にして読み始めた。
「リングベルド伯爵! 家族全員連れ、大至急王宮に来られたし。特別任務を与えよう。従わぬ場合は貴様の魔眼息子を家から追放させた事、書庫に監禁していた事をヨハネス第四王子様に全て報告する……か。あいつ、やっぱり既に王都に行ってたんだ」
ヒステリックに叫んでいるルーラも、判断が出来るようになったのか、読み上げた手紙を聞いて、慌ててミルトから手紙を奪い、ルーラ自身で読み始めた。
「終わったわね……あのクソガキ……! よくも……」
「早まるなルーラ! ザガルは私とて憎い存在。だが、奴も魔眼の存在は憎んでいる者。ならば、王都に出向き、奴を利用しない手はない! 目的はレイスを連れ戻し抹殺することが最優先なのだろう? 接触した可能性のあるザガルの元に出向いた方が早い」
「というと?」
「奴にレイスを殺害してもらうまでだ。更にその後、愛する息子をザガルが殺したとでも言えば問題ないであろう」
ミルトはバルスの提案に反対はしなかった。だが内心は……。
「わかったわよ! 行けばいいんでしょ! 行けば!! あのクソガキさえ死ねば私の怒りだって鎮まるのよ!」
「決まったな。では急ぎ準備を」
リングベルド家の三人は、それぞれ王都に出向く準備を始めた。
この時、ミルトは密かにリングベルド家の財産の大部分を持ち出した事はザガルもルーラも知らない。
脅迫状のような手紙に従い、王都に向かう選択を選んだリングベルド家。想像も出来ないような未来が待っていることを知るわけがなかった。




