王子と真贋【後半ザガル視点】
ヨハネス第四王子様のいる王宮までは、護衛付きで馬を使って移動。王宮は直ぐ近くだが、国務の時は、必ず馬を使う。公爵家クラスの身分の高い方々の移動の仕方だ。
王都のほぼ中心部分に位置する場所に、公爵家よりも更に何倍も広い敷地と王宮の中へと入っていく。
まさか王都に来て二日目で王宮に来れるとは思わなかった。
俺は緊張した足取りでフィリム様と護衛の後に着いていく。
「おやおや……フィリム様、何か御用で? そちらはただの平民では? クックック……相変わらず何を考えているか分からないお気楽な公爵令嬢ですな」
「……うるさいわねザガル伯爵! ヨハネス第四王子と対談って知ってるでしょ!? それより……私の恩人には失礼な事は言わないでよね!」
「ふ……魔眼如きの次期国王等と話す必要もないであろうに……」
そう言って嫌味を残し、不気味な笑い声で、その場から去っていく……。
何処となく父の雰囲気に似ていたな……。伯爵か……魔眼の事を言っていたし、あの伯爵も頭の固いお方なのだろうか。というより、次期国王にあの口ぶりが王宮で許されるというのは……。
「嫌な思いさせちゃってごめんね」
「俺は別になんともないです」
嫌味を言われても俺の事を気遣ってくれるフィリム様の優しさが嬉しかった。
そして……。
「フィリム! 昨日はお手柄だったな。……で、なるほど本題は同行者の方、と」
「何も言う前から……。まあいいわ。この人はレイス。昨日、空き巣を捕まえる時に手伝ってくれた恩人なの。アンタに会わせたくて連れてきたわ」
ヨハネス様は一目見た瞬間、吸い込まれるような、同性の俺が見ても思わずドキリとするほどの美しい容姿の持ち主だった。
その目で俺の事をじーーーーーーっと見つめてくる。
「ふむ。危険はないな。フィリム、そしてレイス君。ここではなくプライベートで話そう」
「プライベート?」
「まあ良いから付いてきなさい。認められたということよ」
二人に連れられて応接室に入る。
両者の護衛は部屋の外で待機しており、改めてフィリム様、ヨハネス様の三人になった。
テーブルの上には美味しそうな飲み物とお菓子が用意されているんだが……。
「少しその場で待ってくれ!」
「あぁ……始まったわね……」
ヨハネス様は、テーブルや椅子、さらにはお菓子や飲み物をじーーーーっと見つめている。
何をしているのか俺にはさっぱりわからない。
「……よし……今回も毒や異物は入っていないようだな。待たせてすまない、座ってくれ」
「それ、毎回やるつもり!?」
「当たり前だ! 客人をもてなすには当然のことだろう」
これまでの言動を見ていても感じだが、フィリム様はヨハネス様と仲が良いようだった。
「物騒な王宮になっちゃったわね」
「それも当然だろう。魔眼持ちの俺が国王になる事に納得のいかない貴族も多いし、俺はいつ命を狙われるかもわからない。実際最近は不審な動きが多いしな」
当然のような顔をしてヨハネス様はカップを手に取り、先程調べたはずなのに、もう一度魔眼を使っているようで、じーーーーーっと中身を確認してから、ようやく飲み始めた。
「【真贋鑑定】……ですか?」
「そうだ。フィリムから聞いたか? フィリムが魔眼の事を喋るという事は、レイス君も魔眼持ちか」
「はい……俺の魔眼は【空間干渉】です。物の収納や一定の範囲内ならワープのような事も出来ます」
「実に興味深い魔眼だ」
ヨハネス王子は、周囲を気にしながら話している。
「俺に会わせたいとフィリムが言うくらいだ。何か深い事情があるんだろう。だがその前にレイス君の事を知りたい」
昨日フィリム様に話した時と同じように話した。
フィリム様に話した時のように、ヨハネス様も、自分のことのように怒ったり悲しんだりしてくれた。
「フィリム、良き民を連れてきたな……。レイス君、今後どのように綺麗な世界にしたいか決めているのか?」
「ヨハネス様達と共に世界を変えていきたいです」
ヨハネス様は暫く無言で考えていた。
「レイス君。気持ちは嬉しいし嘘でない事も当然俺にはわかる。だが……」
第四王子ヨハネスがたっぷり溜めをつくったあと、少しだけ申し訳無さそうな顔をしながらこう言った。
「断る」
♢
「成る程……クックック……まさかヨハネスと接触した平民の小僧も魔眼持ちだとは……超聴覚を持ったウイガルが聞いていたとも知らずにベラベラと喋りおって……」
「お役に立てて光栄ですザガル伯爵様!」
ザガル伯爵の部下、ウイガルは聴覚が異常に発達した特異体質を持っていた。別部屋からレイスの過去や追放、魔眼の事、全ての会話を盗み聞きしていたのだ。
「ウイガル、あの魔眼持ちの者の身元を調べろ!」
「かしこまりました。ですがなぜ?」
「魔眼持ちのヨハネスが国王に就任してしまえば追放した家の者はただではすまない。家から追放した者を脅すのだ。使える駒は多いほうが良い」
「なるほど」
ザガルはウイガルの聴覚のことを王宮内で自分以外は誰も知らないと思い込んでいた。
他の相手ならそれで問題ないし、これまでも問題はなかった。
だが、ヨハネスと敵対するのであれば、ザガルの考えは甘いと言わざるを得なかった。




