王都と出逢い
「王都だ!!」
魔眼を活用したので、王都まで馬を使うよりも短時間で移動ができた。
実家では表立って使うことのできなかった力だが、この力、【空間干渉】は非常に使い勝手がいい。
移動に利用すれば瞬間移動、収納面では無尽蔵の容量を誇るマジックボックスを作れる。
この力を使って閉じ込められていた書庫に放り込まれる食料と水を、少しずつマジックボックスに収納していたストックがあるが、そう長くは保たない。
「急ぐか。まずはヨハネス第四王子様に会う為のキッカケを!」
と意気込んだものの、王都について考えの甘さを痛感する。
すでに新国王の即位が確定したことで、王都はお祭り騒ぎ。その騒ぎの中心にいる新国王のもとに、今の俺のような小汚い人間が会えるはずはない。
どうしたものかと途方に暮れながら王都を歩いていると、遠くから俺の方へ向かって走ってくる影があった。
「そいつ捕まえて!!!!」
「え!?」
深く考える時間などない。ただ、聞こえてきた声だけを信じて、咄嗟に隠していた左眼を解放した。
魔眼を使い、走ってきた男の地面に、マジックボックスに収納していたガラクタを出す。
「ぎゃふん!!」
走ってた男は急に出現したガラクタに気がつくこともなく見事つまずいて転げた。その隙に、男を取り押さえる。
「今のうちに!」
「任せて!」
追っかけていた女性が、男をロープでぐるぐる巻きに縛り上げた。
追いかけていた女性は見るからに高価な装束に身を包んでいて、おまけに絶世の美少女。
この選択が間違っていなかったと思わせるのに十分すぎるほどの風格をただよわせていた。
「助かったわ。アンタ、やるじゃない! 名前は?」
「レイス……です。貴女は……?」
「フィリム=フォン=ドゥラストよ」
思わず俺は固まってしまう。ドゥラスト……名前くらいは知っている。
「公爵令嬢様!?」
「何よ。そんな畏まることないわ」
「ひ……ひざまづくべきですか……?」
フィリム様は笑いながら首を振っている。
「ふふっ。良いわよ別に。公の場じゃないし。それに助けてもらったのは私の方。頭下げるのは私の方なのよ」
フィリム様は、軽く頭を下げてきてから、俺の全身をジロジロと見てきた。
「失礼だけど、酷い格好してるわね……ちょっと臭うし……顔色も悪そうだけど、大丈夫?」
「あはは……」
俺は笑って誤魔化すしかない。
「家は?」
「もうないですね……」
フィリム様は更に俺を観察しながら何か考えているようだった。
「……大変なのね。コイツを警備兵に渡すから、一緒に私の家へ来てご飯食べて行きなさい。それから、風呂くらい貸すわよ」
思いもよらぬ言葉だ。
「い……良いんですか!? こんな得体の知らないような人間を公爵家などに……?」
「本来なら民間人を招くことなんてしないけど……でも今回はコイツ捕まえてくれたから特別。公爵家とは別に、私個人の家があって、そっちなら問題ないわ」
「ありがとうございます!」
俺とフィリム様は、拘束した男を連れて行き、警備兵に引き渡した。
「見れば分かるわよね? 例の空き巣よ! 連れて行って」
「は! かしこまりました! ご協力、感謝致します」
警備兵は直ぐに連行して行く。
「お待たせ。家に案内するわよ」
公爵令嬢のフィリム様。
この出会いが俺にもたらすものの大きさをまだ、自分ではこの時気づいていなかった。




