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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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番外編 葉月ちゃんとの出会いと私

本日2話目の投稿になります。

今話は短編に上げた作品に加筆したものになります。短編の方は取り下げることにしましたので御了承の程お願い致します。

 私、秋川真理と葉月ちゃんが初めて姉妹のように仲良くなれたのはある初夏の日で葉月ちゃんが小学校四年生、私が中学校一年生の頃だったと思う。それまでは従姉妹のお姉ちゃん・可愛らしい女の子程度の認識で、自分の妹の愛と園樹の家の燐様と姉妹のように仲が良い女の子という感じだった。それがお互いに実の姉妹のような関係になったのはとある出来事があった為だった。


***


「もうやだぁっ!もうやめるもんっ!!」

「こらっ!葉月、何をしとるかぁっっ!!もう一度構え直せ!!」

「嫌なものはイヤなのっ!お友達と遊びたい、お父さんなんて大嫌い!!ばかぁっっっ、うわぁぁぁぁぁんっっっっ!!!」

「あ、こらっ!待ちなさいっっっ?!」


 可愛らしい道着を着た女の子が泣きながら弓道場から駆け出して来て私の目の前を横切り、夏海家の離れにあるその女の子の部屋へと駆け込んでいく。


「……夏海のおじ様。こんにちは。まだ葉月ちゃんは小さいのですから……あまり厳しくしては可哀想ですよ?」

「ん?……おお、秋川の真理ちゃんか。恥ずかしいところを見せてしまったな。……お父さんのお使いかい?」

「ええ。新しい“矢”が出来ましたのでお届けに。それから葉月ちゃんの御守りも」

「そうか。いつもすまないな。ありがとう」


 葉月ちゃんのお父さんが麦茶を淹れてくれたのでありがたく受け取り、初夏の日差しに照らされて火照った身体を冷やす。


「……それで、葉月ちゃんはどうしたんです?」

「ああ。実は……明日、夏海流弓術の試験日なんだが、どうやら友達と遊ぶ約束をしていたようでな。それで今日課題をクリア出来れば行っても良いと伝えて見ていたんだが……」

「明日の試験のことは前々から伝えてらしたのですか?」

「……いや。忘れていてな」

「……おじ様。いくらなんでもそれは……ちょっとひどくありません?」

「面目ない。だから課題を出す代わりに行っても良いと……」


 私は軽くため息をついてジト目で葉月ちゃんのお父さんを見つめる。


「……おじ様?悪いのはどちらですか?それに……葉月ちゃんの年頃の子にとって約束がどんなに大切か分かってらっしゃいます?」

「…………う」

「夏海のおば様が知ったらなんて仰るんでしょう、ね?」

「え」

「私のお母さんとか、春野のおば様とか、園樹様のおば様とか……」

「ちょっ、まっ、待ってくれ?!」

「……葉月ちゃんと仲の良い園樹様の燐様、とか」

「悪かった、私が全面的に悪かった!!だからもう勘弁してくれ、いや、してください!!!」

「……よろしい。じゃあ葉月ちゃんは明日はお友達との約束を最優先で構いませんね?」

「……はい」


 葉月ちゃんのお父さんは私の眼前で土下座をするかの勢いで膝を付き、敵に回したら怖い四家の女性陣にだけは言わないでくれと頭をペコペコさげていた。


「……厳しくするのは中学に上がってからでも大丈夫ですよ。まだ、大丈夫……ですから」

「むぅ……真理ちゃんがそう言うなら……そうなのだろうが……燐様はお身体が弱い。早く葉月にも伝授させてお側付きにさせたいのだが」

「……焦ってもダメなのですよ。魔を祓うには本人の強い意志が大切なのですから。うちの愛も同様に、ゆっくりと見ていきましょう」


 ガックリとうなだれたままの葉月ちゃんのお父さんに優しく声をかけたあと私は葉月ちゃんの部屋へと赴く。


「……葉月ちゃん」

「……っく、ひっく、だぁれ……?」


 襖越しに声を掛ければ涙声の嗚咽を漏らしていた葉月ちゃんが返事を返してくれる。


「秋川愛のお姉ちゃんで、真理というのだけれども……入ってもいいかしら?」

「……愛ちゃんの……?うん……いい、よ」


 ゆっくりと襖を開けて中を見ればベッドの上で大きなテディベアのぬいぐるみをぎゅうっと抱き抱えて真っ赤に泣き腫らした顔の葉月ちゃんがこちらを見ていた。


「こんにちは、葉月ちゃん。……ひどいお父さんは私が懲らしめておいたからもう大丈夫だよ?」

「……本当?でも……明日は遊びに行けないの……」

「大丈夫。遊びに行ってらっしゃいな?私がちゃんと保障してあげる」

「……いい、の?……本当、に?」


 泣くのを止めて私の方をじっと見つめる葉月ちゃんに私はとびきりの笑顔で優しく微笑みながら、そっと抱きしめると小さなお顔を見つめながらはっきりと伝える。


「本当よ。だって葉月ちゃんは私の大事な妹たちの一人だもの。だからもう泣かないで?私の大好きな葉月ちゃんの、素敵な笑顔を見せて頂戴?……ね?」

「……わたしの、お姉ちゃんに……なってくれるの?」

「ええ。……葉月ちゃんがよければ、だけれどもね」

「……本当?……嬉しい……真理お姉ちゃん、ありがとう……」


 ようやく笑ってくれた葉月ちゃんの笑顔は本当に素敵だった。私はその柔らかなほっぺたに自分の頬を寄せたあともう一度抱きしめ直してからその耳にそっと囁いた。


「……可愛い葉月ちゃんのお姉ちゃんになれて嬉しいよ。これからよろしくね……」


***


 それからは燐様を中心とした仲良し三人組のグループに私も時折混ぜて貰いながら皆の姉として過ごす日々を送りつつ、葉月ちゃんに対しては秋川流結界術に縁が深い夏海流弓術の訓練について助言したり練習を見てあげたりもして、その他のプライベートとしてはお菓子づくりを中心に家庭料理も含めて色々とお料理も教授することもあった。

 葉月ちゃんが中学生になってからは葉月ちゃんたっての願いと言うこともあるし、また将来的に燐様をお側にて愛とともに生涯お守りするという立場になる可能性も高いと言うこともあって秋川流結界術の初歩から手ほどきをし始めていた。この頃には葉月ちゃんも夏海流弓術についての修行を真面目に取り組むようになっていたし、その修行の意義も理解できるようになっていたらしくて本来の才能を発揮しつつあったのも加えて道場ではめきめきと頭角を現していったのを覚えている。

 秋川流結界術はその前提として夏海流弓術の会得が必要でもちろん私も中学生を終える頃には会得していたけれども、葉月ちゃんの場合は中学生に入って少しの頃にはほぼ会得の前段階に居たというのだから流石と言うほかに言葉が見つからない。本来の儀式の場合は秋川家の神職に就いている人間が奉納舞を舞った後に夏海家の規定以上の実力を持ち聖気を保つ者が“刻止矢ときとめのや”を四方に放ち結界を作るのであるが、常に二人で居られるという保証も無いと言うことを考えて秋川家の人間は一人でも出来るようにと両方の修行をするのである。

 だから私たち秋川家の人間にとっては普通のことではあったけれども葉月ちゃんのように夏海家の人間が奉納舞をも会得しようとするのはとても珍しいことだった。私も最初のうちは愛も居ることだしそんなに焦らずともと考えていたのだけれども何度か熱心にせがまれているうちに、それじゃあと自分が最近会得した“神域”を教え始めて葉月ちゃんの弛まぬ努力と熱意で彼女が高校生になる頃にはほぼマスターしかけていた。そしてそのあとにあの失踪というか神隠し事件である。

 私の“予知夢”能力は基本的には燐様に絡む出来事になるほど精度が増すこともあり葉月ちゃんのあの事件は全く以て予想外だった。多分前兆のような夢は見ていたのだろうとは思うけれど私には気付くことが出来なかった。私の持つこの異能は一族に時折現れるという話でその内容も大半は抽象的なものが多く私のようにある程度明確な光景が浮かぶのは珍しいと未だ現役の一族の長、曾祖父に言われていただけにあの時は情けなくて悔しくて周囲が慌てるほどに手酷く自分を責め立てた。大事な妹一人助けられなかったのかと。

 それから月日を経て今度は愛に聖気を失わせるようなおぞましい事件が起こり、さらにその後数ヶ月後には燐様も失うことになり私は失意の余り病床に長く伏せることになってしまった。そして長年にわたり愛に看病して貰ったが快復することもなく愛が第一子を設ける頃に息を引き取ったのだった。


「葉月ちゃんをね。こちらの世界で初めて見た日から不思議な世界の不思議な夢を見るようになったわ。最初のうちはよく分からなかったのだけれども……ウィンちゃんが以前話してくれた異世界の情景だって気付くにはそんなには時間掛からなかった」

「それから図書館で何度か葉月ちゃんを見るたびに記憶が蘇ってきてね。そして妙に親近のある舞を見て。そして今度は葉月ちゃんにあの奉納舞を教わって舞い続けるうちに秋川真理という私を思いだしたのよ」

「……そうなんですか。運命って不思議なものなのですね、真理お姉さま」

「そうね。…………またよろしくね、葉月ちゃん」

「はいっ、よろしくお願いします真理お姉さま」

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