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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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70.冒険の始まりと街道

「よし、総員準備はいいな?拠点となる雨の森最寄りの街までは徒歩にて二日ほどだ。街道沿いだし特に問題はないだろうが気は抜くな」

「じゃあ出発しましょうか。簡単な調査だけれども異常が発生しているとされる場所よ、充分に警戒していきましょう」


 朝もやに閉じ込められたような秋晴れの早朝、王都を取り囲む城壁の北口にある大きな魔法金属製の城壁門の前で私たちを含む幾つかのパーティーが開門を待ちながら最終チェックや点呼等を行っている。

 学院生徒によるパーティーの他にもギルドに登録しているような冒険者パーティーもちらほら見受けられては居たけれど、ほぼ女の子のみの編成だった私たちは注目を浴びていた。


『……一見、ドゥエルフ君のハーレムパーティーに見えるけれども、ねぇ』


 それぞれ秋冬物の旅装を装備品の上に身に纏いリラックスしている様子を見て感慨深く思うと同時に、パーティー《氷翼を追う者》を知らないパーティーからの、主に男性陣からのやっかみを耳にして苦笑を漏らす。流石に私を知らない人はいないらしくてちょっかいを掛けてくるような人はいなかったけれどもね。


《開門!!》


 そうこうしているうちに定刻になったのか巨大な城壁門が兵士の宣告の下滑るかのように音もなく、そしてゆっくりと内側に開かれて行く。魔法金属は軽量化の特性があるけれどもあれだけの巨大さで音もなく開くのはどれだけの軽量化がなされているのか見当も付かない。

 完全に開ききると待機していた各パーティーが状況をしる門兵たちに、生きて帰ってこいよ!と敬礼をされて出発していく。それは学院パーティーに対しても同様でなかには無理はするな、とか、逃げる事は恥じゃない、とか、とにかく生きることを優先しろよ、とか色々と心配の声をかけられた。


「……お姉ちゃん。これは思ったよりも人的被害が大きそうな雰囲気だね。ここまで生命を大事にしろって心配されるなんて」

『そのようね。心して行きましょう、そして全員で帰って来ましょうね?』

「うん、お姉ちゃんたちは私たちが守りぬくから。癒し手がたくさんいるもの、きっとなんとかなるよ」

『そうね、油断さえしなければなんとかなるわ』


 そうして全ての冒険者パーティーが王都ラドルから出発した後はいつもどおりの静かな朝の風景に戻るその城壁門前広場の片隅に、男はいた。


「無事に、ねぇ。ふふふ、逃がしはしないさ。一人残らず。殺し、奪い、絶望と苦痛を与えて、目標以外は処理用に売り飛ばす。女子供ガキども相手なら遅れを取るなどありえんしな」


 貴族の少女ともなれば高い値が付くに違いない。非合法とされる商売だが、それだけにまっとうな商売の数十倍の儲けが手に入る。使い込まれた古い旅装に身を包んだその男はウィンテル達を見失わないギリギリの距離を置いて城壁門をくぐり抜けて旅立つのだった。



***


 王都ラドルの城壁門は全部で三つ存在していて、私たちが通過した北門の他には大街道の出発点にもなっている東門と、バハル湖の水運業が盛んなバハムル桟橋に通じる南門がある。

 世界地図には大街道くらいしか記載されていないけれども各国が作成する地図には中規模から小規模な街道も記載されている。街道は一種の古代遺跡のようなもので現在では遺失された魔導技術にてつくられているようで、パッと見た目は異世界日本でいうアスファルト舗装の恐ろしいくらいに平坦なものに時間が停止しているかのように一切の劣化が見受けられない。そしてそれを裏付けるかのように微かにフェンリルの精霊力が感じられている。

 今、私たちが歩いているのは王都近郊都市へと繋がる中街道で道幅は大街道に比べれば狭いものの、やはり大街道と同じく同じ材質・技術で作られた古代遺跡であるけれど、都市から町や村に通じる小街道(若しくは街道)は近年の技術で整地された煉瓦や切り開いただけのでこぼこ道が大半だった。

 道の幅はというと大街道で異世界日本でいう片側三車線よりやや広いくらいで、中街道が片側二車線くらい。小街道で中街道の七割以下の様々で、中街道以上はある一定の距離ごとに高速道路にあったみたいな休憩施設が存在する。ただし、それぞれの国家の事情や地形的、気候的なものが関係するらしく必ずという訳でもないらしい。


「あら、休憩施設が見えるわね。時間も頃合いだしちょっと一息いれましょうか?」

『……そうね。出来れば入り口がよく見える壁ぎわの奥の席を見つけて貰えるかしら』


 意図察してくれたらしいラミエルちゃんが休憩施設の受付カウンターにいる女性のところにできている列に並んでいる間に私たちは掲示板に貼りだされている各種情報に目を通しておく。


「戻りました。二階の奧、角部屋にあたる大部屋を借りることが出来ました。街道に面した部屋ですね」

『ご苦労様。ひとまず行きましょうか』


 多分どのような形かは分からないけれど尾行はされているものと考えていい。ただそれが複数なのか、本人による単独なのか。それは現状判明していないことだけれども、それならば調べれば良いだけのことだから休憩する時は不意を突かれないような場所で、そして自分たちが観察しやすい場所が一番だと思う。もちろんこれは私の考え方であって、人によってやり方は様々だと思う。

 休憩施設の大半は一階部分が食料品や雑貨などを扱う売店スペースと食事が取れる料理店スペースになっていて、二階部分は広さの違う個室による休憩・宿泊スペースになっている。私たちはひとまず個室に荷物を降ろして一息つきながら窓から眼下の賑わう街道の様子を伺うことにした。


『ここは比較的王都に近いから規模としては小さいけれど、大きい所はびっくりするくらい大きいのよねぇ。本当に、このシステムを考えた人はすごいわね』

「そうですわね。……ところでウィンテルお姉様。今晩少しお話をしたいことがあるのですけれども、お部屋にお邪魔してもいいですか?」

『…………いいわ。いらっしゃい。どうやら大切な話のようだしね?』


 ありがとうございます、とお辞儀をして離れて行くミランダちゃんを視線で見送りながら、やはりミランダちゃんにも知らせが行ったのかと言うこととまた知らせたのは誰なんだろうと考えていた。


「ラミエル、レースのカーテンをゆっくり閉めてくれ。多分、あいつだ。あの、木の下に一人で座っているあの男。……さっきからさりげない風を装っているがこの建物の出入口を必ず視界から外していない」


 ドゥエルフ君に言われた通りに何気ない振りを装って薄いレースのカーテンをラミエルちゃんが閉めると、ドゥエルフ君は例の“手配書にがおえ”を見ながらリリーちゃんやエレンを小声で招き様子を窺わせている。


「どうします?先輩。しばらく時間を潰しますか?」

『そうね。マリア先輩の連絡がもう少ししたら入ると思うからそれまでは寛ぎましょう。貴方たちは交代でそれとなく観察を続けながら休憩しなさい』



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