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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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67.学内パーティー

 それから数日が過ぎて春先のコンペで優秀な成績を修めたり技官から推薦を受けた学内パーティー以外のパーティーが一度解散となったあとに残りの最上級生だけで再編成が行われた。

 今回は正式に卒院後に自分たちが所属する事になるであろう、冒険者ギルドのラドル支部からの依頼とあって少しでもギルドへのアピールを良くしよう・生存率を上げようとパーティーの構成や相性などを充分過ぎるほどに考慮しているようだった。


「まぁ、うちは屋内ダンジョンじやなければ問題なさそうだけどな」

「とはいっても今更特殊技術持ちを加えたりは出来ないから……なるべくそういう場所を避けるわよ」


 ドゥエルフ君の自嘲混じりの台詞にパーティーリーダーのラミエルちゃんが実質的な問題点を述べて仕方がないという風に溜息を吐く。ミランダ侯爵令嬢とそのお付き様ご一行がいるということの重要性、そして安全性を考えれば部外者を入れるわけにはいかない。あとはジーナに期待するしかなさそうだ。


『はい、雑談はそこまで。全員揃ったわね?じゃあ依頼を受けに行きましょうか。学園事務局の窓口で受けられるそうだからみんなで行きましょう。そして全員でよく考えて選びなさい』

「はい!先輩。さ、みんな行くわよ」


 ラミエルちゃんがみんなを率いて事務局のある事務棟へと歩いていくその後ろを他のメンバーが粛々と無駄話もせずに歩いていく。さらにその後ろを私がついていく。他のパーティーはがやがやと廊下を歩いていくのにこの今年結成されたばかりの、しかも一年生がいる《氷翼を追う者》はもう既に“冒険者としての心構え”を理解し始めている。頼もしい限りだと思う。


「あら、デューじゃない。何してるのこんなところ……って、何この険悪な雰囲気」

「やぁ。見ての通りいわゆる交渉頓挫から失敗にむかいつつあるような失言を以下略」

「あぁなるほど。確かにクレアさんの笑顔、引きつっているわねぇ……」


 ラミエルちゃんが話し掛けた男子生徒はデュリー君。確かハーフドワーフという最近はなかなか見なくなった種族で(とは言っても北方地域ではの話で南方、特にユールシアのランディア島には結構居る)ラミエルちゃんの幼なじみのような存在だったはず。そんな彼がやや嘆息気味に苦笑いしながら引きつり気味のクレアさんの方を見やる。通常であれば事務局職員が依頼斡旋と情報提供をするのだけれど、今回はギルドからわざわざ本来の窓口業務に就いている人たちに来てもらっている。クレアさんもその一人だ。

 二人の会話から察するに情報収集の手間を省こうとぞんざいな口調で事に当たったらしく、小さな舌打ちが聞こえたような気もする。クレアさんもクレアさんで笑顔は貼りつけているけれど目付きが珍しく剣呑で機嫌が悪そうだ。よくよく見れば居眠りしかけているメンバーまでいるし。常にとは言わないけれど、冒険おしごとの時くらいは手間暇を厭わずに気を入れて事に当たらないといつか肝心なところでミスをしてしまうだろうし、それが致命的なものだったら最悪死者が出てしまうだろう。勿論間に合えば死者蘇生リザレクションも可能ではあるけれど出来なければそこまでの人生いのちだ。


「あれ?リフィーじゃない。元気ー?」

「あ、リリー。これから?」

「そだよ。あ、丁度いいからクッキーあげる」

「え、本当?やったぁ!」


 リフィーと呼ばれた少女はリリーちゃんの幼なじみで身につけている聖印から察するにノヴァの信徒らしい。身なりや言葉使いから性格も真面目そうだ。どうやらこのパーティーは真面目と不真面目が半々で成り立つなるべくして成ったような感じのようだ。所謂、腐れ縁とかいう。

 待ち時間を潰すつもりで人物観察をしていると私を見つけたらしいクレアさんからアイコンタクトで助けを求められたので仕方なく口を割り込ませて貰うことにした。


『すみません。《氷翼を追う者》ですが、もう少し待ったほうが良いなら出直しますか?』

「え?あ、いや。うちはもう終わりますからどうぞ」


 そそくさと立ち去る面々をクレアさんが溜息を吐きながら見送ると、やれやれねぇ。と小さく呟いているのを聞いて相当な事を言ったらしい。今回、いたせりつくせりな学院斡旋ではなくギルドから斡旋受付の本職を招いている理由の一つに交渉事の練習があるとの事で、彼女らには事前に具体的に聞かれた事に答えるよう要請してあるそうだ。


「はぁ、助かったわ名誉導師さま。最近は口の聞き方が情報収集に与える影響を知らない子が増えてるって聞いていたけど……」

『クレアさんが引きつるとか珍しいじゃない。なんて言われたの?』

「それがねぇ。“時間がもったいないから知ってる情報全部吐け”って言われたのよ。さすがにそれは……」

『……無いわよねぇ。さてみんな。どうしてダメなのか分かるかしら?んーと、ミランダさん』

「はい。怒らせる事によって相手によっては正確ではない情報を意図的に与えられてしまう可能性もありますし、重要な話を貰えない事もあるかもしれません。それから、全部情報を貰えたとしても逆にその精査に時間がかかりそうですし……」

『そうね。他には?えーと、ラミエルさん』

「はい。会話力を培い気配りや気遣いを織り交ぜる工夫をする事で欲しい情報を確実に得る為の下地や信用を積み重ねる事に繋がるので手間暇を惜しむのは問題があります」

「……へぇ。さすが名誉導師さまお気に入りのパーティーね。そこの一年生なんか若いのに大したものだわ」

『まぁね。ところでクレアさん、さっきの子たち。どこに行くの?』

「えーと、確か雨の森よ。向こうの最寄り騎士団駐屯地から報告で、森周辺から小動物が消えたという情報が来ているから恐らく増えすぎたであろう巨大ジャイアント種の討伐依頼が来てるわ」


 思わず噴きそうになったのを必死に何事もないような顔で堪えた私を褒めて欲しい。クレアさんにはふぅん?と返したけれども内心は少し取り乱してしまっていた。うーん、戦闘に介入されたりしませんように……。


「さてと。あなたたちは一年生がいるので調査系の依頼をお願いしてもいいかしら?」

「内容をお聞きしてもいいでしょうか?」

「申し訳ないが、屋内型の調査は難しいぜ?」


 クレアさんの提案にラミエルちゃんとドゥエルフくんが受け答えしている。依頼を受ける前の内容確認と不得手な分野の提示はしておくに越したことはないからだ。


「大丈夫よ、ベテランパーティーならともかくあなたたちみたいな特殊編成に無理はさせたりできないからね」


 それならば、とみんながクレアさんの前に集まって依頼内容の確認などを聞き、必要事項を冒険者手帳にメモを取ったりしているのを横目に確認すると私はクレアさんにアイコンタクトを取り少し席を外して隣室の事務局にいるはずの代理補佐執務室にいるお父さんに会いに行く。


『お父さん、ちょっといい?』

「あぁ、ウィンテルか。どうした」

『雨の森近辺の依頼って除外できないの?私たちの戦闘に他のパーティーが巻き込まれると面倒なのだけれども……』

「その点は既にギルドには依頼してあるが全ての除外は無理とのことだ」

『そっか、それじゃあ仕方がないね。それからもう一つ。今回の暗殺騒動、やっぱりミランダちゃんが狙われていることはメンバーにきちんと対策も含めて説明したほうがいいと思うのだけれど……だめ?』



明日からはまた不定期投稿になります。今年もよろしくお願いします。

いつもお読み戴きありがとう御座います☆

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