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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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58.狩りの季節

 食欲の秋。収穫の秋。運動の秋。季節は野山を豊かに染め上げる彩り豊かな秋に移り変わっていた。

 そして、私たち冒険者にとっては狩りの季節。野山から人里へと降りてくる魔物モンスターたちを追い払い、場合によっては駆逐しなければならない。特にこの季節は夏から秋にかけての魔物たちの繁殖期にあたり魔物たちが殺気立つので気を抜く訳にはいかないのだけれども、それでも毎年いくつかの冒険者パーティーが悲惨な状況に追い込まれてしまう。そういったパーティーからの救援要請に対応するのが彼ら冒険者を纏め、依頼を斡旋手配する“冒険者ギルド”であり総本部はここウィシュメリア王都ラドルにある。


『それで、学院長代理おかあさん。どうして今年の“狩り”に学院生が駆り出されて私が監督する羽目になってるの?』


 賢者の学院ウィシュメリア校に王立地下図書館とは反対側に隣接する、ウィシュメリア国内で活動する全ての冒険者を統括管理する機関・冒険者ギルドウィシュメリア支部の支部長室に呼び出されたウィンテルはジト目で臨席している学院長代理に深いため息を吐きながら問いかけていた。


「その件については私が説明しよう。ウィンテル嬢」


 母子おやこの正面に座っていた50歳代くらいの男性が普段は穏やかな表情を少し心苦しげに歪めながら口を開く。


「端的に言えば人手不足だ。それから今年は新米の遭難率が例年に比べ高い。そこで学院と協議した結果、難度の低い討伐依頼を学院パーティーに請け負って貰う事にした」

『ですが支部長。難度の低い討伐依頼は別に私のようなベテランは必要無いと思いますが』

「うむ。だが、それは通常ならばの場合だ。さすがに学院パーティーを一人前とは認めるわけにはいかないのでな。誰かしらが指導監督する必要がある」

『それはそうですが。だからと言って私が出る必要性は……』

「言い方を変えよう、ウィンテル嬢。貴女が担当するパーティーは“氷翼を追う者”、つまりミランダ侯爵令嬢以下精霊王国コッタンの令嬢たちの護衛だよ」

『…………はぁぁ?!』


 来年卒院予定の最上級生が実地研修がてら依頼を受けると言うならまだ話は分かる。しかし今年入学したばかりの一年生を混ぜるのはさすがに無謀過ぎる。ましてや他国の、しかも高位の貴族令嬢だなんて。いくらミランダちゃんたちが優秀でエレンたちがサポートするにしても。


『…………理由を説明してください。下手すれば外交問題ですよ?』

「無論だ。ただし、他言無用にして欲しい。まず、人手不足の件から話そう……」


 支部長の話を纏めると事の起こりは吸血鬼卿襲撃事件頃に始まるらしい。大陸各地で例年になく魔物の大繁殖の兆候が見られたために冒険者ギルド各支部は早い段階から狩りの前倒しを計画し、手始めに都市近郊にある低レベル帯のダンジョンや遺跡の攻略を依頼として公布。経験の浅いパーティーを中心に各国とも順調に掃討が進んでいったそうだ。

 予定が狂いだしたのが吸血鬼卿復活事件により高位の冒険者パーティーが事件の対応に駆り出され、本来彼らが対応するはずだった依頼を中位の冒険者パーティーが、中位の冒険者パーティーが対応予定だった依頼を経験の浅いパーティーがそれぞれ対応せざるを得なくなってしまった平地王国ユールシアと古王国ウィシュメリアで、実力以上の依頼をこなさざるを得なかった彼らは当然の事ながら損耗が激しく。平地王国ユールシアの冒険者ギルド各支部は救援要請を総本部に出し、総本部は熱砂王国アスラン、海上王国シャーキン、魔法王国ケイオスの各支部に支援を指示し現在なんとか持ちこたえているらしい。

 森王国シェルファと精霊王国コッタンは計画通りに進行してはいるものの他支部への支援を送るほどは余裕が無いとの事で、ウィシュメリア支部は自力でカバーせざるを得ない状況に追い込まれてしまったとの事。

 吸血鬼卿襲撃事件の影響が未だに残っているウィシュメリアでは体制の回復が遅れていて、襲撃により一部損壊した王城が復旧するまでは騎士団は動かせず、王立地下図書館の境界結界が修復されるまで図書館探索隊も動かせない事態に陥っており、各神殿の神官戦士団は王命により動けぬ騎士団の補佐として都市の治安及び防衛を担うように通達されてしまったので支援を要請出来ないのだという。


『状況は理解しました。そして非常事態だというのも分かります。それでも、一年生まで投入する事には私は反対です。最上級生が半人前なら一年生ははっきり言って足手まといです。正気の沙汰とは思えません』

「勿論全ての一年生を投入しようなどとは私も考えちゃいないさ。選別は学院長代理とともにするつもりだ。しかし、侯爵令嬢達に関しては陛下の許可を得ている」

『…………つまり、学院内にいる事に不都合が生じる、と?』

「さすがは私の娘、ウィンテルね。察しが良くて助かるわ」


 フェルリシアがようやく私の出番ね、とばかりに冷めた紅茶を淹れ直して支部長とウィンテルに一息を入れてから口を開いた。


「ミランダさんが精霊王国コッタンの王太子妃候補なのは知っているわよね?」

『ええ。けれどもミランダちゃんは辞退したと聞いたわ』

「厳密にはまだ妃候補なのよ。それでね。ミランダさんの幼なじみで妃候補の最有力候補者が先日……襲撃されたわ。辛うじて命は取り留めたらしいけれども」

『…………』

「襲撃を画策したのはとある妃候補に連なる男爵家の者と言う事が判明したのだけれども、捕縛して取り調べた結果、二番目に有力候補だったミランダさんも襲撃対象にされていて、それは暗殺指示が既になされてしまっているらしいの」

「我々ギルドの情報網により調査した結果、既に内部に入り込まれた可能性がかなり高い。引き続き最優先で調査をしているが、あからさまに護衛を付けるわけにもいかないのだ。まだ我々が気付いていることを知らせたくはないからな」


 そして考え抜いた結果、春先に行われたコンペにおいて優秀な成績を修めた学院パーティー上位五パーティーと、一年生を除いて再編成する最上級生による学院パーティーをギルド支援に向かわせる形を取り自然な形で護衛させる事にするのだという。人質を取られる可能性を考慮し、支援期間中は本番さながらに常にまとまって行動するように通達する予定で、ミランダちゃんたちの侍女さんたちはその間はウィンター伯爵家にて伯爵夫人から侍女として役に立つ事柄を学ぶ合宿みたいな事をする名目で実質保護するのだという。


「学院長代理として学院名誉導師ウィンテル・ウィンターに冒険者ギルド・ウィシュメリア支部への支援を要請します。また王立地下図書館司書長よりの休暇許可証をここに提示します」

「冒険者ギルド・ウィシュメリア支部支部長アレックス・ハーンはB級冒険者ウィンテル・ウィンターに今回の指名クエスト受諾を要請する」

「「速やかに返答を」」

『…………。報酬は?』


 どう考えても拒否権は無いと悟ったウィンテルは未だに提示されていない報酬について尋ねる事で受諾の意を二人に伝える事にしたのだった。


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