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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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53.湖水浴

最終改稿日2015/04/12

 王立地下図書館境界結界損傷発覚事件から数日後、ようやく両親とサーレント陛下が復帰されお母さんと宮廷魔術師さんたちの努力でなんとか結界の完全な崩壊は免れたようだった。

 けれども完全なる修復にも程遠く、しばらくは葉月ちゃんが張った神域と宮廷魔術師団の結界術で誤魔化しつつ森王国シェルファにいる古代の結界術に詳しい方の助力を得ながら時間を掛けて修復する事となり神域を張ったフロアは24時間体制での監視が必要とされ、ミッシェル隊長とレックスさんが頭を抱えていた。





「……ねぇ、ウィンちゃん。私たちここにいて本当にいいのかなぁ?」

『うーん……。でも、一応王命なんだよねぇ……』


 私たちは今、ハバル湖北岸の王都から東へ丸一日ほどのところにある王家が管理するプライベートビーチのひとつにお世話になっている。

 燦々と輝く太陽が照りつける白い砂浜に設置された色とりどりのパラソルの下にあるデッキチェアに私と葉月ちゃん、それからミランダちゃんが水着の上にもう一枚肩掛けを羽織って寝そべりながら。

 ミランダちゃんのお付きの令嬢さんたちははしゃぎながら冷たく心地よい水温の湖水浴を楽しんでいるようで、エレンたち四人組はビーチバレーに興じながらも足場の悪いところでの動き方を学ぶような事もしているようだ。……真面目すぎだなぁ、と苦笑はするけれども口出しはやめておこう。


『それにしてもアイシャちゃんは残念だね。学院長代理おかあさんたちの手伝いで旅程の後半から合流とか、ね……』

「本当なら私も残るはずだったんだけど。そうなるとウィンちゃんのサポートするのが妹さんだけになるからってアイシャちゃんにお願いされたんだよね。……普段から無茶をしているって事がよーく分かったよ、本当にもう」


 燐ちゃんだったらベッド生活長いからもう少し聞き分け良かったのに、と葉月ちゃんが左隣で苦笑している。右隣にいるミランダちゃんは興味深そうに私たちの異世界日本ぜんせでの思い出話を聞き入って、たまに分からないことを聞いてくる。

 ある程度似通った世界とは言ってもやっぱり相違点は結構あるから会話に加わらなくとも面白いらしい。また、未知の知識に食い付いてくるあたりは流石にフェンリル信徒らしく時折飲み物を持ってきてくれる初老の落ち着いた雰囲気な執事さんも加わって然程退屈する事もなく時間が過ぎていく。


『そう言えば相変わらずミランダちゃんは彼女たちと遊ばないんだね。……いいの?』

「え?……ぁ、その。先輩方と一緒のときは身分を捨てて楽しむというのはみんな理解しています。ですが、やっぱりまだ……」

「でもそこで尻込みしたら前に進めないよ?無理に、とは言わないけれど貴女からも積極的にならないと彼女たちは遠慮しっぱなしになっちゃうんじゃないかな?」

「うう、努力します……」


 ほら、行くよ?と葉月ちゃんがミランダちゃんの手を取って波打ち際にいる彼女たちの所へやや強引に連れて行くと、いきなりミランダちゃんに思い切り湖水を浴びせ始めた。いきなりの事に全身から水を滴らせながら目をぱちくりしているミランダちゃんだったけれども、葉月ちゃんに微笑まれて意図に気付きお返しとばかりに葉月ちゃんに水を思い切りかけるものの鍛え上げた筋力の差で次第に葉月ちゃんに浴びせ負け始めて来ている。

 そこまでくると侯爵令嬢と庶民の自国であればあり得ない、容赦のない水掛け合戦にしばし呆然と見ていたお付きのお嬢様方もミランダちゃんに加勢し始めて最終的に葉月ちゃんが降参して逃げ帰ってくるまで波打ち際に元気な歓声が響いていた。


『お疲れさま、葉月ちゃん。……ごめんね、手数かけさせちゃって。本当なら……』

「いいの、いいの。ウィンちゃんの体力じゃ途中で力尽きて水没しかねないし?」

『あはは……。否定したいのに出来ないのが恨めしいよ。本当にもう少し体力欲しい……な……』

「ほら、しんみりしない。笑って。一朝一夕にはどうにもならないと言うか、ウィンちゃんの病弱はもはや宿命レベルなんじゃないの?」

『うー……』

「私と愛ちゃんで昔みたいに支えるからさ。遠慮なく頼ってよ。せっかくまた3人組が揃ったんだし」

『うん。……お世話になるね、葉月ちゃん。だから葉月ちゃんも生活に何かあったら遠慮なく言ってね?』

「うん、ありがとう♪」


 王家は私たちが滞在しているようなプライベートビーチを他にも幾つか保有していて、本格的なバカンスシーズンに入ると国家的に貢献した人たちを家族ごと招待してその苦労を労うのが恒例となっていて、今年は先日のシルフィニアス討伐戦に参戦した人達をいくつかのグループに分けてそれぞれ招待しているみたいで今年はいつになく大変ですよと私たちを担当して下さっている執事さんが、働き甲斐がありますとにこやかに微笑んでいたのが印象的だった。


『……ん。もうそろそろで日没だね。みんな、お屋敷の方へ戻って着替えましょう?……晩餐までは各自お部屋で寛いでね』

「「「はーい!」」」


 みんなが思い思いにお喋りしながらお屋敷の方へ向かって歩いていくのを確認すると、私と葉月ちゃんは最後に忘れ物や落とし物が無いか辺りを再確認する。


「ん、大丈夫みたいだね。私たちも帰ろうか?ウィンちゃん」

『そだね。帰ろうか…………。??』


 湖に背中を向けたところで背後の方向から何かの波動を感じて思わず動きを止める。葉月ちゃんも何かを感じたみたいで同じように歩みを止めて、二人で思わず顔を見合せてしまう。


「ウィンちゃん、今の……?」

『葉月ちゃんも?……うーん。何だろう』


 何かを感じたのは本当に一瞬で今は何も感じられない。不審には思うものの見当が付かないので諦めてお互いに頷きあいお屋敷への道を辿り始めると再び。


『!……地震?』

「違う、と思うけれど……かすかに揺れたね。方向は……やっぱり、あっち」

『……でもあっちは湖しかないよ?何だろう……』

「取り敢えず、お屋敷に戻ったら学院と図書館に一報入れてみようよ。もしかしたら向こうでも何か感知してるかもしれないしね?」


 お屋敷に戻り私と葉月ちゃんは普段着に着替えると執事さんに頼み込んで王家の管理する遠隔通話護符コールのアミュレットを使わせて戴いてお父さんに連絡を取ってみると王都の方でも揺れを感じたらしく、また水の精霊が騒がしいというか落ち着きが無いという報告が上がって来ているらしくちょっとした騒ぎになってはいるけれども調査班が編成されるだろうから私たちは気にせず休暇を楽しんでいなさい、と言われてしまいじゃあ何か分かったら教えてと頼み込んで通話を打ち切ったのだった。


「……どうだったの?」

『王都の方でも不自然な揺れだったみたいで早速調査班が編成されるって言ってたよ』

「そっかー。それにしても偶然だとは思うけれど立て続けに事が起きてるよねぇ?」

『なんとも言えないなぁ。お腹空いてるから上手く頭が回らないよ……』

「はいはい。もう少し我慢してね。この前の大暴走の影響で疲労溜まっているんだから、このお休み中はきっちり休んでたくさん食べて回復するようにね?」

『はーい……』


 ……本当に、心の底から本当にこのステータス“病弱”をなんとかしたいと思う私だった。

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