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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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50.お婆ちゃん

長らくお待たせしてしまいました。


最終改稿日2015/04/12

 時代というか世界を越えた再会をひとしきり喜びあったところで葉月ちゃんには一先ず、食事とお風呂でリフレッシュをしてもらうことにした。食事の方はリリーちゃんが以前私が死にかけた時に飲んだような栄養たっぷりな野菜スープを作ってくれるらしいのでお任せすることにした。


『葉月ちゃんが歩けるようになったら伯爵家行き付けの服屋さんに、葉月ちゃんの服買いに行かなくちゃね。下着から何から全部ね』

「あー、あのお店ね?私の家でも利用しているよ。オーナー、誠実だから丁度いいと思うよ」


 当面は私の衣服を着てもらうことにするしかない。さすがに高校の制服だけ着ている訳にはいかないし。


「それにしても本当に異世界なんだね……夢みたい」


 アイシャちゃんに支えられてベッドから降り私の部屋に移って来た葉月ちゃんを私のベッド傍にあるソファーに座って貰い、エレンに頼んでサイズに関係なく着られるような下着やパジャマを見繕って貰う。幸いショーツのサイズは私と同じだったのでしばらくは私ので我慢してもらうことにして、その着替えを持ってアイシャちゃんに後を頼みお風呂へ行ってもらうことにした。


『ゆっくり浸かって疲れを癒してね』

「ありがとう、燐ちゃん」

「さ、掴まって?葉月ちゃん。こっちだよ」


 アイシャちゃんに支えられて大浴場へと連れられていく葉月ちゃんを見送ったあと、エレンに葉月ちゃんのベッドメイクを頼んでみればエレンは二つ返事で快く引き受けてくれた。

 本当は自分でしたかったのだけれども、自分一人で歩けない以上分相応の事ではないし。……葉月ちゃんのお世話はアイシャちゃんにお任せしよう。アイシャちゃんもそれを望んでいるだろうし。

 それにしても、とふと湧いてくる今更ながらの恐怖に身を強ばらせ、ぎゅっと自分の上半身を抱き締める。


『……お父さんとお母さんを殺す寸前まで追い詰めたような相手に……』


 良く生きていられた、とゾッとする。それがたとえ、生かされたものだったとしても。……もっと強くなりたい。心も、肉体からだも、魔術ちからも。


『……取り敢えず、健康維持というか。倒れない事からかな……』


 思わずでる溜め息に前世の私も同じだったのかな、と苦笑いした。


 葉月ちゃんとアイシャちゃんはまだ当分は帰って来ないと思うから私は葉月ちゃんの今後を考えてみることにした。

 まずしばらくはこの世界の事を知って貰わなくてはいけない。日本と似たような文明レベルだけど相違点はたくさんある。……まぁ葉月ちゃんは飲み込みが早いからすぐに理解しちゃうんだろうけれども。

 身元保証は大丈夫だからあとは素質さえあれば学院生徒になることもできるだろうし、葉月ちゃんは頭の回転も早いからレックスさんの切望している司書長補佐官のお仕事も可能かもしれない。


『……最終的に葉月ちゃんは……元の世界に帰れるのかな?出来れば返してあげたいのだけれども……』


 きっと葉月ちゃんのお父さんも、お母さんも。真理さんも。みんな葉月ちゃんのことを必死に探して心配し続けている。私のように死んでしまったとはっきりとした区切りがないまま、僅かな望みに縋って生き続けるのは本当に心身へ大きな負担をかけて続けてしまう。

 せめて。せめて生死と所在だけでもあちらの世界に伝えられたらいいのだけれども……それは私みたいな若輩者のウィザードには無理なのだろう。お母さんでも無理だと思う。シルフィニアスですら偶然だったようだし……。時空間と知識を司るナーシャ様なら可能なのだろうか。ああ、でもナーシャ様は…………“私たちの世界”を知らないから、繋げられない可能性が高いかな。


『そう言えば葉月ちゃん。アレス様とお話しされたんだっけ。後で口止めしておかないと……』


 アレス様はヴァシュヌ様に次いで二番目に偉い神様だから。葉月ちゃんの話が漏れたらきっと国内外問わず利用しようとする善からぬ人が現れるに違いない。もちろんそんなことは起きないように私たちがしっかり情報ガードをするけれど。

世の中には常識の通用しない人は少なからずいるから油断は禁物だ。特に狂信的な宗教家が一番怖い。巫女として傀儡にされてしまったり、神を騙る大罪人として処刑されてしまいかねないからだ。


『やっぱり、働くならレックスさんのお膝元かな。私もいるし……マリア先輩もきっとサポートしてくれるはずだしね』


 と、思いを巡らしていれば表が少し騒がしい。なんだろうと思っていたらヨハンがやってきて思いもかけない人物の来訪を告げてくれた。


「お嬢様。ドレン侯爵夫人リッシア様がいらっしゃいました。何やら大量のポーション類をご持参されておりまして……」

『え。お婆ちゃんが?……てことは、当然治療に来た、ってことだよね?』

「はい、恐らくは。……いかが致しましょうか?」

『……味はともかく薬効は確かだし。壊滅的な味に普段なら気絶なんてザラだけど……今ならどのみち関係ないよね。うん、お願いして頂いて?』

「畏まりました。ではそのように」


 リッシアお婆ちゃんは見た目や味に気を配る市販品のような薬効ランクがやや落ちるポーションよりも、やたら薬効ランクが高い代わりに壊滅的に味や見た目が酷いポーションを調合する事が多いので、なるべくお世話にならないようにしているのだけれども(ただし私の場合は身体が強烈な薬効に耐えられないので禁止)さすがに今回ばかりはリッシアお婆ちゃんが駆け付けてくれてホッとした。何よりメンドゥーダお爺ちゃんよりも遥かに常識的だから状況を色々察してくれそうだし。

 お爺ちゃんと言えば派手な爆発が起きていた王城の方はどうなったんだろう。王立地下図書館の方にも不確定名のモンスターが喚び出されて居たみたいだし。

 私も人のこと言えない魔力と精神力らしいけれど、一度に三ヶ所も襲撃出来るような吸血鬼卿バケモノの力量は本当に底知れない恐怖を感じてしまう。やっぱり私一人では何にも出来ないんだなぁ、と改めて痛感してしまった。


「ただいまー。燐ちゃん……じゃなくてウィンちゃん。いいお湯をありがとう。すっごくさっぱりしたよ♪」

『お帰りなさい、葉月ちゃん。もう少ししたらエレンの彼女のリリーちゃんが野菜の旨味を濃縮したスープ作って持ってきてくれるはずだから、それまでゆっくりしてて?』

「うん、長い間眠っていたからお腹ペコペコだよ……」


 そうしてリリーちゃんが葉月ちゃんのスープを運んで来てくれる間にアレス様に関する簡単な注意を含めて少しこの世界と国の事を説明しながらまったりとしたひとときを過ごしたのだった。


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