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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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48.目覚め

葉月視点になります。また、第47話と連続投稿されていますので最新からお越しの方はご注意ください。


最終改稿日2015/04/12

 長い、長い夢を見ていたような気がする。学校へと向かう途中に私は突然見知らぬ真っ暗な場所へと足を踏み入れてしまい、慌てて後ろを見れば今まで生活していた世界は消えてしまっていた。そして気配を感じて振り向けば深紅の瞳に見つめられ私は意識を失った。

 闇の中を漂うような感覚の私に何かの意識が介在しはじめたのが少し前。時間の感覚は分からないからその少しというものが実際にどうなのかはわからないけれども。


『……初めまして、異世界の娘よ。私の名はアレス……』

「……その輝きは、神様みたいな感じがしています……」

『……わかるのか。あぁ、あちらでも似たような存在に仕えていたのか……』

「……」

『……まず、そなたに謝罪せねばならぬ事がある。そなたがこちらに迷い込む原因を我が妹が作ってしまったことを』

『誠に申し訳なかった……』

「……予定外、ですか。という事は……簡単には戻れない、そういう事なのですね……」


 理解の早すぎる葉月の言葉にアレスは思わず驚きを隠せなくなってしまう。


「……私の家に異世界から迷い込んで帰ることが出来ずに骨を埋めたという方の言い伝えが複数残っていますから……けれども、それに私が遭うとは思いませんでしたが……」

『……そうか。話を戻そう……そなたをこの世界、人の子らはガイスター・コンティネント、そなたの国の言葉で言うなら精霊大陸と言うのだが、攫った存在は吸血鬼、シルフィニアス・セレニアスという化け物なのだが、少し前に異なる世界へ封印されてしまった』

「……?フィニア・セレニア……?」

『……いや、シルフィニアス・セレニアスだ。そのため、そなたは間もなく目覚める事になるだろう……』


 私は目覚める事は、それはそれで問題は感じなかった。ただ、何も分からない世界で生きていけるかどうかだけが心配だった。そしてふと思った事を口にしていた。


「……今回の件は所謂そちらの不手際、だと思うのですが、何かの補償は頂けるのでしょうか?」

『世界安定のため、バランスを崩すような異能チートは無理ではあるが、才能としては考えておる』


 この神様、チートなんて言葉を知っているのか……。誰か他に迷い込んでいるのかな?


「ええと、基本的な共通言語能力とかは?」

『それは既に与えておる。でないとそなたと意志疎通できぬであろう?』

「……そう言えばそうですね」

『まず、そなたの現状を説明しよう。そのうえで質問するがいい。応えられるものであれば応えよう……』


 まず私の身体が存在している場所は古王国ウィシュメリアと呼ばれるヘキサニア大陸ど真ん中の王国で、その王国の王都ラドルにあるウィンター伯爵家の屋敷に保護されているらしい。

 それなりに安全な場所で少しホッとした。起きたら奴隷でした、とかそんな異世界トリップ系ラノベもあったから。

 文明レベルは驚いた事に、生活水準は私の生まれ育った日本と同じくらいの高度魔導文明だという。教育レベルも高く、貧富の差もウィシュメリアではという限定があるけれども余り無い平和な世界らしい。とはいえ私を攫った化け物みたいな存在が他にいないと言うわけではなく都市部を離れれば当たり前に存在しているとの事。そしてやはりと言うべきか。冒険者と呼ばれる存在がいた。うん、剣と魔法が存在するならいてもおかしくないよね。

 ただ、驚いたのは彼らは花形職で専門の育成学校、賢者の学院を卒院する必要があるエリートだと言うことだった。


『まあ、そこら辺は……人の子らに詳しく尋ねるがよい』

「そうですね。そうします」

『……何か聞きたいことはあるかの?』


 この世界に関する詳しい事は起きてから誰かに確認すればいい。だから私は一つだけ確認したいことがあった。多分無理だとは薄々感じてはいるのだけれども。


「……そうですね。一つだけ、そう、一つだけ聞きたい事があります」

『……私が応えられる事なら必ず応えよう』


 私の大切な人たちのこと。両親や姉妹、そして大切な大事な幼なじみ。燐ちゃんと愛ちゃん。


「もしも、偶然でもいいですから、あちらの世界に繋がった時に……私が生きているという事を伝えて頂けませんか?せめて家族や幼なじみたちだけでも安心させたいんです」

『…………確約はできぬ。それでも良いか?』

「構いません」

『……承知した。いくつかの才能、素質は与えよう。使い物になるかはそなた次第だがな……』

「……いろいろとありがとうございました……」




***


 何だか、騒がしい。ふかふかのお布団……身体は、動かない、か。かなり怠い感じ。…これは、長い間寝ていたせいなのかな。

 私はゆっくりと目蓋を開けて見える範囲で辺りを見回す。薄暗い落ち着いた部屋。まるで近世の街灯のような形をした、壁に付いている恐らく灯りのようなものから暖かな優しい光が僅かに部屋を照らしている。


「お嬢様、旦那様と奥様はしばらく安静が必要との事。差し当たっての指示を」


 少し高齢ぽい男性の落ち着いた声が僅かに開いている隣室へのドアの向こうから漏れ聞こえてくる。


「ん。ミランダちゃんたちは一先ず厨房へ行って、私たちを守ってくれた人達のために一息付けるものを用意して?」

「はい、ウィンテルお姉さま」


 ミランダと呼ばれた声の主が可愛らしい声で返事をし、複数の足音をさせてどこかに行ったようだった。


「リリーちゃんとソフィアさんは申し訳ないのですが、セシール様の状況が判明するまでは引き続き逗留お願いします」

「先輩、何かする事は?」

「ではヨハンのサポートをお願いします。ヨハン、宜しくお願いね?」

「畏まりました。では失礼ですが、お召し物を汚れても良いような物に……」


 先ほどの高齢の男性はヨハンさんと言うらしい。


「さてと、エレン、アイシャちゃん。……申し訳ないけれど……隣の、葉月ちゃんの部屋に私を連れていってくれない?」


 …………え?今、なんて……?


「ウィンテルお姉ちゃん、まだ歩くのは無理だよ。また倒れちゃったらお姉ちゃんの大切なあの起こすの遅れちゃうよ?」


 ……え?初対面のはずだよね?その、ウィンテルっていう人とは。なのに大切?


「……エレン、手を貸しなよ。無駄だって、こういう目をしたウィンちゃんは、さ。倒れるよりマシだ……」

「ごめんね、エレン。それからアイシャちゃん。……愛ちゃんの頃から迷惑かけてばかりで」

「はぁ、しょうがないなぁ……。ほら、掴まって。お姉ちゃん。せーのっ!」


 愛、ちゃん?いや、さっきアイシャさんと呼ばれてたし、きっとただの愛称かなんかに違いないよ。だってこんな異世界ところに居るはずがないもの。予定外イレギュラーは私だけってあの神様アレスさま言っていたし。


「予感がするの。シルフィニアスはこの世界から消えた。だから繋がりが断ち切られて……きっと、私と愛ちゃんの大切な葉月ちゃんは目覚める、って」


 …………え……。


「葉月ちゃんは一人ぼっちじゃない、って安心させたいんだよ。愛ちゃんだって、わかるでしょ?見知らぬ世界に生まれたって気付いた時」


 …………嘘、じゃない、よね?


 ゆっくりと開かれて行く扉の向こう側にシルエットが三人。その中の真ん中の女の子が私を見て、ほらね?というように優しく微笑んでくれる。


「……おはよう、葉月ちゃん」

「…………っ!……!」


 呂律が上手く回ってくれない。おはよう、って言いたいのに。姿形は違うけれどその微笑みは確かに燐ちゃんだ。


「……葉月、ちゃん。よか、った……。あの日から、もう、会えないと……」


 ああ……、この、涙脆い、けれども……一心に縋り付いてくるのは、愛、ちゃんだ。


「少しずつ、口に含んで、ください。ハヅキ様……」


 水差しの水をコップに注いだ女の子が私の上半身をゆっくりと起こしてくれて、柔らかなクッションをたくさん差し入れてくれて。コップをゆっくりとゆっくりと傾けて飲ませてくれる。


「……ん。あり、が、と……」

「……お、はよ…う。り、ん…、あ、い…」



 もう、会えないと思っていたのに。


 また、一緒に…………。


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