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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
51/234

43.笑顔でいる事の意味

少し短めです。


最終改稿日2015/04/12

「陛下。間もなく日没でございます」

「うむ。観測班は指示どおりに微かな力場でも即座に報告せよ。討伐班は私とともにここ、伯爵家前庭及び周辺にて待機だ。奴の性格なら間違いなくくるぞ」

「は。既に配置に就いております。なお、フェルリシア伯爵夫人も参戦するとの申し出が」

「ならぬ。夫人には館の中にいるよう通達せよ」


 確かに夫人は戦力として申し分ない。相手が同じ高等ルーン・マスターである以上同レベルに近い夫人がいれば少しはマシになるだろう。だが相手は吸血鬼卿。女性が相手にするには分が悪い。それに屋敷の中にいる少女達の拠り所が必要だろう。負ける気はさらさら無いがな。


「そう、ですか。仕方ありませんね……。ですが劣勢と感じれば即座に介入すると陛下にお伝えくださいませ。敵は強大、下手な余裕を持つべきではないでしょうから」


 陛下からの御言葉を伝えられたフェルリシアは苦笑し、屋敷中の人間が集まっているウィンテルと葉月の療養する二間続きの部屋へと足を踏み入れると前庭に面したバルコニーへの出入口以外の出入口を魔術にて強固に施錠する。これで開口部はウィンテルの伏せる私室だけだ。いざとなればフェルリシアはここから助勢するつもりでいた。


「観測班より報告、地下図書館深部に力場確認、それから同時に中層階にて大規模歪み発生とのこと」

「図書館司書長殿より救援要請、歪みより不確定名竜種出現とのこと」

「如何為されますか、陛下」


 竜種は陽動の可能性が高い。それにもう夕刻、図書館結界さえ越えさせなければ問題はあるまい。


「図書館には炎の中神殿から神官戦士団を向かわせ、結界付近にて防衛に徹底させよ」

「討伐班に通達。警戒を厳にし、不意打ちに注意せよ。……くるぞ」


 サーレントを中心に全周警戒態勢を取るのを遠目に確認したフェルリシアは緊張と不安で一杯の少女達に振り向くと何でもないことのように微笑みを向ける。ウィンテルも意図を察して何も心配事は無いとでも言うように平静を保ってベッドに上半身を起こした態勢のまま静かにお茶を飲んでいた。


「そう緊張しないでいいわよ、貴女達。あそこにいるのは大陸随一の冒険者なのだから。それに、ね?」

「私がここに在る限り、貴女達には髪の毛一本たりとも傷つけさせたりしないわよ」


 ウィンテルは空になったカップをサイドテーブルに静かに置くと緊張でガチガチになっているミランダを手招きして自分のベッド端に座らせると背中側からそっと抱きすくめ、耳元で囁く。


「そんなに心配しないで。陛下やお父さまたちに加えて、お母さまやヨハンもいるし大丈夫よ。それに……私もいるしね?」

「何も心配しなくていいのよ。さぁ……身体の力を抜いて。深呼吸、しましょう……そう、ゆっくり……」

「うん、いいわ。あとは笑顔を忘れちゃダメよ?貴女はセレスたちを率いる立場。貴女が笑っていればみんな落ち着いてくれるの。……痩せ我慢でもいいわ、常に落ち着いて構えられるようになさいね……?」

「はい……、お姉さま。そう、ですわね……ありがとうございます」


 まだまだぎこちない笑顔ではあるけれど、先ほどまで身に纏っていた不安を振り払い落ち着きを取り戻したミランダを確認してウィンテルはミランダを解放する。

 エレンとリリーちゃんは、と二人を見ればしっかりと手を繋いでいるようだ。エレンはさすがに私の妹なだけあってこういう場においての振る舞い方を心得ている。そして私の言い付けを守っているようだ。

 リリーちゃんは笑顔でいるけれどもそれはエレンの手を通して温もりを感じているからであり、すぐそばにエレンがいなければその顔は不安に満ちていたに違いない。そもそもとして本来笑顔でいろと言うことが難しいくらいの敵が襲いに来るのだからこういった事に慣れていない彼女らを責める事は出来ないということは最初から百も承知なのだ。

 ただ、だからと言ってガチガチに萎縮して緊張状態のままにしてしまい続けてはいざというときに動けないか、動くにしても反応が遅れてしまう事になり今回のようなレベルの相手にその遅れは致命的になりかねないだろう。



 突如王城の方で閃光が奔り次いで爆発音が響きと黒煙が立ち上る。連続して響く爆発音に庭にいる陛下以外の人間が動揺したように顔を見合せていた。


「狼狽えるな、あちらにはパリウスとメンドゥーダを筆頭に宮廷魔術師団がおる。我々が為すべきこと、守るべき者、そして果たすべき目的をしっかりと心に刻め」


 未だ爆発音が響く背後の王城を一顧だにせず、サーレントは落ち着いた静かな声で浮き足だちかけた周囲に冷静を促す。


「……どんなに騒ごうと最終的に来るのはここだ。他の場所は事前の打ち合わせ通り各神殿の戦士団に任せるのだ。我々は勝利する。我らの守るべき者達の為に」

「はっ!」


 それからしばらくした後。


 ……ゾクリ。


 ウィンテルは突然生理的に受け入れ難い視線を感じた気がして身震いをした。母を見れば窓の外、門の向こうを険しい視線で見つめている。隣室の葉月ちゃんの側に控えているアイシャちゃんの気配も緊張状態に変化した様子が感じられる。


「…………くる、わ」


 努めて平静に、身体に奔る緊張を表には出さず笑顔を崩さずに。

戦えぬ私がすべき事。

 それはただ、静かに笑顔を絶やさぬ事。

 ただ、それだけ。

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