37.閑話 5月23日 キスの日、ラブレターの日
記念日閑話シリーズその3
最終改稿日2015/04/12
――夏海葉月ちゃんへ。
いつも穏やかな、暖かい笑顔を見せてくれていた葉月ちゃんが突然いなくなってしまって、私は最初は何が起きたのかすらも実感出来なかったんだよ。
それから数年間は警察も私たちも、燐ちゃんのお父さんやお母さんたちまでみんな、本当に日本中探してくれたんだけれども葉月ちゃんは見つけることが出来なかった。……そりゃそうだよね。まさか異世界に来てるなんて判りようもないし、辿り着けようもないんだから。
葉月ちゃんがいなくなってしまって、多分もう会える事は無いんだって思ってしまったらもう……私の心は痛いくらいに締め付けられてしまって涙が溢れて涸れ果てるまで止まらなかった。
もう貴女の笑顔を見る事が出来ないんだ……穏やかな温もりも、鈴の鳴るような笑い声も、艶やかな流れるような黒髪も、何もかも全部。……もう触れる事も一目見ることも出来ないんだって、後から考えてもびっくりするくらい深く深く絶望してしまったんだよ。
葉月ちゃん。私はね、貴女の事が大好きだったんだよ。親友とか、性別とか、そんな小さな事なんか関係ないくらい……純粋に貴女の事が好きだったの。貴女の仕草、表情、言葉。何もかもが私の心を虜にするくらいに魅力的で。そして幾度となく迷い葛藤して、ようやく決心して私のこの想いを貴女に……葉月ちゃんに伝えよう、そう決めた朝に葉月ちゃんはいなくなってしまったの。
けれども。こうして奇跡的にまた巡り合うことができて。本当に何を言えばいいのか判らないくらいになってしまっている私だけれども。
今度こそ私は貴女に伝えたい、この気持ちを。
私は生まれ変わってしまって姿形も名前も外見は見る影も無くなってしまったけれど。
葉月ちゃん、貴女へのこの想いは前世も今世も変わっていないんだよ。
夏海葉月ちゃん。私は貴女の事が大好きです。秋川愛だった頃からアイシャ・フォーリンとなった今でも変わらず……貴女を心から愛しています。
この想い、受け止めて戴けますか?
秋川愛ことアイシャ・フォーリンより――
***
「葉月ちゃん。本当はね。こんな御手紙じゃなくて……自分の口から想いを伝えたかったよ…………」
「すぐに貴女を呪縛の眠りから解放してあげられなくてごめんね。けれども、もう少しだけ……時間を頂戴?絶対に貴女を助けてあげるから」
「…………大好きだよ、葉月ちゃん……」
アイシャは想いを込めて書き綴った恋文を丁寧に三つ折りし、クァウオの花びら色に染め上げた異世界日本で言う和紙に良く似た温かみの感じられる封書に収めて一枚のクァウオの花びらで封を施し、そっと昏々と、そして幸いなことに安らかな寝顔で眠り続ける葉月ちゃんの胸元に差し入れると。
アイシャはその葉月が眠りにつく枕元の側に跪いて顔を寄せ――その頬にそっと想いを込めてキスを贈ったのだった……。




