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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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35.眠り姫

最終改稿日2015/04/12

「なるほど。大体の事情はわかったよ、ウィンテル。…………かなり信じ難いが、アイシャさんの様子を見るかぎり、おそらく事実なのだろうね」

「その、ハヅキさんという女の子。こちら側では完全に身寄りがないのでしょうし、当家で保護できるように手続きとりましょう、ウィル」

「ああ、そうしよう。早速報告書を作成して身元保証の為の手続きをしてくるよ」

「お願いね。この子達の事は任せて頂戴」


 いろいろと精神的なショックが重なり疲れ果てて酷い状態のまま意識を手放してしまったアイシャちゃんをヨハンの指示の元侍女さんたちが客室の一室に運んでいくのを視界の端にかろうじて視認しつつ、私の前世の情報を含む一連の説明を聞いたお父さんとお母さんはひとまず納得はしてくれたようで葉月ちゃんを私たちの家で保護してくれるようだった。これでひとまず対外的には何とかなるんだろうけれど、問題はまだある。


「それでお母さん。葉月ちゃんまだ起きそうにないんだけど……これってやっぱり魔法か呪いの眠り、だよね……?」

「可能性はあるわ。ただし、起こすにしても準備が必要だし……取り敢えずその子の事は私たちに任せて貴女ウィンテルは治療と回復に専念しなさい。もう少ししたら栄養たっぷりのスープ運ばせるから」

「うん……ありがとう、お母さん」


 久しぶりのお母さんの愛情がたっぷり込められた手料理スープを身体に負担が掛からないようにゆっくりと綺麗に飲み干し、体力回復を促進する薬草類から作られた少し苦い薬を飲み、私は再び眠りについた。

 どれくらい眠っていたのだろうか。次に目覚めた時には部屋は真っ暗で日はとっくに沈んでおり、雲が出ているのか月明かりは差し込んでいなかった。

相変わらず全身は力が思うようには入らず、寝返りするのも一苦労ではあったけれど一番最初の目覚めに比べたら少しは回復しているように思えた。


「お腹、すいたな……。葉月ちゃんはもうどれくらい眠っているのかな。衰弱死する前になんとかしないと……」


 回復魔法である程度の体力維持はできても手足の筋力の衰えまでは回復も現状維持もできない。前世では魔法は万能なんてイメージを持っていたけれども、やっぱりどこでも世の中甘くないと言う事だと思う。


「あら。起きていたのね?晩ご飯を持ってきたけれども食欲はどう?」

「あ、お母さん。うん、お腹空いちゃった……」

「そう、なら良かったわ。シチュー風のスープを作ったの。消化がいいようにお野菜もお肉もトロトロに煮込んでしまったけれども」

「うん、ありがとう。エレンやアイシャちゃんたちは大丈夫?」

魔力枯渇組エレンたちはまだ眠っているけれど、寝顔はすっかり安心したせいか安らかよ。明日の朝には起きてくると思うわ。アイシャさんもぐっすり眠っているみたい。……だからウィンテル。しっかり食べてしっかり休んで、焦る事はしなくていいから着実に回復して、みんなに元気な笑顔を見せてあげなさい。それが今、貴女に課せられた使命よ?」

「うん。分かった。……いただきます」

「はい、ゆっくり召し上がれ」


 口のなかに、喉に、そして身体中にじんわりと広がっていく料理の温かさが今自分が生き延びたのだという実感を改めて教えてくれる。かろうじて形を残したお肉を口のなかに入れれば舌の上で転がしただけでとろけるように崩れて行く。ここまで煮込むのにどれだけの手間と時間を掛けてくれたのだろう。……お母さんの愛情と想いに自然と涙がこぼれてしまう。


「お母さん、とても、美味しい、よ……こんなにも愛して貰えて、嬉しい、よ……」

「あらあら。ほら、涙を拭いて。……貴女やエレンを愛さない日なんて一日だってないわ。貴女たちが見せてくれる笑顔を見ることが私とウィルの最高の幸せだもの」


 そう言って満面の笑みを見せてくれるお母さんは私の心に残っていた僅かな不安も忘れさせてくれてお腹を満たした私を安らかな眠りへといざなってくれたのだった。


***


 三日後。

 支えて貰う必要はあるものの、なんとか屋敷の中であれば歩けるようになったウィンテルはヨハンの補助を得て自分を懸命に助けてくれたエレン、リリーちゃん、そしてミランダちゃんたちに笑顔でお礼を伝えて心から感謝をしようとしたのだけれども。お互いに感極まってしまい最後にはみんなで抱き合って泣き合ってしまった。

 ひとしきり泣き合って最後にようやく笑顔を浮かべて改めてお礼を伝えたところで私を捜していたアイシャちゃんにベッドへと連れ戻され、あまり体力を消耗するなと怒られてしまった。


「気持ちは十分分かるし、お世話を受けたのだから本来自分から出向くのが礼儀なのも分かるよ?けれどもウィンちゃん。貴女はまだ万全じゃないの。今回は幸いにして倒れなくて済んだけれど、もしもあの子達の目の前で万が一倒れてしまったら、あの子達はきっと負い目を感じてしまうよ?」

「………………ごめんなさい。正論過ぎて何も言えないよ……」

「もう少し、自覚して?貴女の事を愛するあまりに自己犠牲を厭わない人たちが周りにいるって」

「もちろん、私たちもそう言うところを自覚して場合によっては自制すべきとも思うし」

「…………うん。分かりました。自覚できるように、そして自制できるように努力するよ」

「それからね。ウィンちゃんに余計な無理をして欲しくない理由はもう一つあるのよ」

「葉月ちゃんの事?」

「そう。おそらく解呪の儀式を行うことになると思う。それも高レベルの術者を集めて」

「………………理解した。安静にして儀式に間に合うように回復に務めるね」

「お願い。上位の魔術師と高等魔法語魔術師を集めるにしても人を選ぶ必要性があるから」

「うん。教えてくれてありがとう。怒ってくれてありがとう」

「何よ改まって。当然でしょ?親友なんだから」


 何を今更言ってるのよとも言いたげな表情で笑うアイシャちゃんに私もそうだよね、と微笑み返した。

 そして新入生歓迎探索コンペについてはグループごとに採点することとなりグループⅢに関しては思いも寄らない大事故ハプニングが起きたこともあって関係者の負傷などが癒えてから改めて昼間にやり直すことになったそうだ。バンパイアに遭遇してしまったパーティーメンバーの殆どは恐怖のあまり即座に失神してしまったそうで外傷は殆ど見られず、囚われた少女(葉月ちゃん)を救出しようとして無謀にも立ち向かったメンバーも軽傷で済んだらしい。

 コンペ以外のところで力を使い果たす事になってしまったミランダちゃんのパーティーは自分たちの都合で再審査が遅れるのは望ましくないと判断し、辞退表明をすることになった。メンバー全員一致の判断であるそうなので学院側は意志を尊重し受理したとのこと。

 アイシャちゃん率いるパーティーについては参加をすでに決めており、アイシャちゃんが私に、自分がいない間に絶対無理しないようにとしつこく念押ししてくるので、無理したら言うこと一つ聞くと約束して納得してもらった。


「儀式は何としても成功させなくちゃね。だから無理なんてしないもの。…………さて、ご飯まで時間あるし一眠りしようかな…………」

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