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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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3.ウィザード

最終改稿2014/08/25

「ん…………。ここ…………」

「お姉ちゃん?大丈夫……?」


 私が意識を取り戻した時、目の前には心配そうに私を覗き込んでいたやや青い顔色のエレンと見慣れてしまった王立地下図書館併設の治療院にある個室の真っ白な天井があった。


「…………ごめんなさい。無理、しちゃった。竜種と聞いたら……普通の加護じゃ、無理だと思って……」

「分かってるよ。でも、ね。お姉ちゃん。それでも…………さっきのあれは、ダメだよ。戦場で意識を失うのは危険なんだよ?」


 エレンに言われた至極当たり前の原則論にウィンテルは何も言えずにしょんぼりとしてしまった。


「私がお姉ちゃんのそばにいるときは私が必ず守り切って見せる。けれどもいないときは……お願いだから意識を失わないで」

「お姉ちゃんは確かに強い魔力と精神力、それに知識を持っているけれど、その前にお姉ちゃんは女の子なんだよ?世の中いい人ばかりじゃないんだよ?操どころか身体も、最悪命まで奪われちゃったら…………私や、お父さんお母さんはどうすればいい、の、よ……」


 ぽたっ、ぽたっと温かい水滴が私の頬に落ちてくる。

 滅多に私の前では涙を見せないエレンが涙をこぼして可愛い顔を歪めている。


「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。うん、私も…………エレンたちを遺して逝くなんて、もぅいやだよ。だから、約束するよ。今回みたいな無茶は……もうしない、って」


 横たわったままの私の胸元に頬を寄せて泣き始めたエレンに私は改めてもう無理はしない、と強く誓い全身に酷く漂う気怠さを左腕からなんとか振り払って、エレンが落ち着くまでその頭を撫で続けていた。


***


「…………落ち着いた?」


 あれからエレンは十数分泣き続け、ようやく落ち着いたのか涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を柔らかなハンカチで拭っていた。


「うん、取り乱しちゃってごめんなさい。もう、大丈夫だよ……」


 個室備え付けの紅茶セットでエレンに淹れて貰い、次いでまだ全く自分で起き上がれない為上半身を起こして貰い、その背中に柔らかなクッションを複数あてがって貰って支えにする。さすがに手の握力くらいはなんとかカップを持てるくらいには回復していたのでホッとしたものの、まだまだ魔力も精神力も心許ない。

 しかし、何よりも未だに青い顔色のエレンが気になって仕方がない。


「……ねぇ。エレン。一つ聞いてもいいかしら?もしかしてエレン……私に精神力、移譲した……?」


 精霊神官や魔法使いの中には自分の精神力を他人に移譲できる魔法を習得している者もいる。そして確かエレンも習得していた気がする。


「うん。だって……お姉ちゃん、全然意識戻してくれないんだもん……」

「バカッ!その青い顔色、気を失うかどうかのギリギリじゃないの!……どうして早く言ってくれないのよ。私のバックパックに魔晶石が入っているからそれで今すぐ回復しなさい?」

「だ、大丈夫だよ。お姉ちゃんの魔晶石って貴重品質じゃない。勿体ないよ……」

「いいから、今すぐ、回復、し、な、さ、い!…………私はしばらくは動けないの。貴女に守って貰わないといけないんだから……遠慮は無用よ?」

「うぅぅ、分かったの。ごめんなさい。ありがとう……」


 エレンはウィンテルのきちんと整頓されたバックパックから全快に必要な分だけ魔力の込められた淡い光を放つクリスタルを取り出すと、短い詠唱とともにその魔力を精神力として吸収していく。

 エレンの顔色に赤みが差し通常に戻るのを確認してようやくウィンテルは安心するのだった。


「魔晶石なんて必要になれば学院長おじいちゃんに貰うから、遠慮しなくていいのよ。姉妹なんだし……」

「うん、ありがとう……お姉ちゃん」


 それから二人で温かい紅茶を飲みながら談笑しつつ王立地下図書館全域に発令された甲種臨戦態勢が解除されるのを待った。


***


《王立地下図書館館長より各員へ。不確定名竜種の歪みへの消失を確認。只今を以て甲種臨戦態勢を解除し許可ある者以外の地下10階以下への立ち入りを禁止する丙種警戒態勢に移行する》

《繰り返す、甲種臨戦態勢を解除し丙種警戒態勢に移行する》

《尚、今回の事故規模にかかわらず死者不明者は0。重傷者は多数出たものの意識不明者は無し。各員の奮闘に深く深く感謝する。以上》


 甲種臨戦態勢発令から2時間後、ようやく事故は片付いたらしい。図書館長直々の全域伝声によって丙種警戒態勢へ切り替わった事の報告が為され、一人の死亡者も出なかったことに私はホッとした。


「良かったね、お姉ちゃん。無茶した甲斐があって……」

「ん。でも、次はあんな無理はしないと誓ったから、もっと精進してウィザードの知識と技を鍛えなくちゃ……」

「うん。ところでお姉ちゃん。ウィザードってそんなに難しいの……?」

「そうね……まず前提条件として、魔法語と精霊語が理解できないと精魔語が理解できないの。どちらか一方なら理解できるという人は多いけれども、ね」

「それから、ウィザードの魔法は二つの系統の魔法を複合するから、複合するために使う精神力と詠唱して発現するための魔力が莫大に必要なのよ……」


 私の精神力や魔力は平均的な魔法使いの五倍から七倍くらいに相当するらしい。だから低い修練レベルでもそこそこの魔法や高度の加護を使用する事が出来る。私だから出来ることであって普通の新人ウィザードは修練度による基本使用魔力や基本使用精神力の軽減ができずに少ない回数の低レベル属性付与魔術などしか使えないらしい。

 どうして私にこんな力があるのかその理由は定かではないけれども、可能性があるとするならばこの世界に転生した時に顕現したと思われる私の内股付け根に顕れたフェンリル神の加護紋章のせいかもしれない。かなり小さいのでよく見ないと分からないし、場所が場所だけに両親とエレンだけしかこの痣のような紋章は知らない。


「良くお姉ちゃん、ウィザードになれたよね……これで体力とか敏捷とか近接戦闘に必要な能力もあれば魔法戦士とか魔法騎士とかにもなれるのに」

「確かにある程度の条件クリアすればそう言うのもできるけれど、そんなに便利な物じゃないのよ?」

「そうなの?」

「だって、修練度低いうちは禄に大技使えないから簡単な付与魔術系になるけど、実際問題として各属性付与魔術が必要になる場面って早々無いでしょうし、通常使う範囲の付与魔術なら一般的な魔法使いやエレンみたいな神官の神霊語魔術で充分でしょう?だったら単独行動で無い限りは戦闘に専念した方が色々と有利よ」

「そっか……」


 何事も中途半端よりは一つのことに特化した方が複数人数でパーティーを編成するにあたっては適材適所で良いと思う。エレンが神官戦士を目指したのも戦闘中隙だらけになりやすい私をサポートしたいと言うことの強い表れだと思うし、実際そうだった。


「お迎えが来るまでまだまだこの混乱状態ではかかりそうだし、紅茶をもう一杯貰っても良い?エレン」

「うん!ちょっと待ってね……」


 フェンリル神か……。もしかしたら200年前の最後のウィザードと言われたあの方も……もしかしたら、私と同じなのかな……?

 遙かな過去の英雄物語に思いを馳せつつ、私は自分のやらかしたことのこれからについて思うと気が少し重くなったのだった。

お読みいただきありがとう御座いました。


歪みから出現した竜種はレッサー・ドラゴンの子供だったのですが、矢面に立った面々がことごとく知識判定に失敗して判明しませんでした。

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