33.親友
短め、アイシャ視点です。
最終改稿日2015/04/11
彼女はあたしの大事な親友、そして幼なじみ。今は昨夜意識を失ったまま彼女のベッドの中で昏々と眠りについている。……私の見守るその目の前で。
そしてそのウィンちゃんが文字通り命懸けで護り抜いた女の子もまた……隣室のベッドに寝かせられたまま眠りから一向に覚める気配が見られない。
何とか予備の護符を貰って再びあたしは地下22階まで舞い戻り階段を駆け下りてウィンちゃんのいると思われる方へ駆けつけた私に飛び込んできた光景は…………血の海にまさに沈もうとしている蒼白な肌の親友の姿とそれを邪な笑みを浮かべて見下ろす吸血鬼の姿だった。私の腕でも単身吸血鬼に勝てる見込みはかなり薄いから最初から勝つつもりはなかった。要はここからいなくさせればいい。それだけだった。
持ちうる全ての魔力と精神力を注ぎ込んで詠唱したテレポートをあの憎らしい、私の大事な大事なウィンちゃんを傷つけた吸血鬼に叩き付け、強制移転に成功した私は余韻に浸ることもなく本当に死にかけていた親友に駆け寄り血の海に下半身が濡れるとも構わず必死に彼女に呼びかけた。
まだ眠らないで、死んじゃいやだ、逝かないで!
解毒が先に必要なのにそれすら気付かずに私は今まさに召されようとしている親友を前にして半狂乱に嘆き、叫び、泣いていた。もしも私の後を追ってウィンちゃんのお父さん、ウィリアムさんが来てくれなかったら本当にウィンちゃんは天に召されて今頃フェンリル神殿で一か八かの蘇生儀式魔法の真っ最中だったに違いないから。
吸血鬼のフランベルジュで抉られた左太腿の大怪我もフェンリル神殿から派遣された神官さんたちの必死の回復魔法でなんとか形だけでも整えることが出来、今もリリーちゃん、ミランダちゃん、そしてエレンちゃんまでもが交代で必死に回復魔法を掛け、神様にお祈りをし続けている。
それでも大量の出血をしてしまったウィンちゃんの肌は未だに十分な血色は戻って来ていない。
ただ、ただ、その小さく上下する胸元とかすかに聞こえる呼吸の音がウィンちゃんが生存している証を私たちに伝えてくれている。
「ウィンちゃん……お願いだから……目を、覚まして……笑って…………よ……」
神様、偉大なる父の息子が愛でる娘、フェンリル様。どうか、どうか。私の、私たちの大事な、大切なウィンちゃんを助けてください。どうか、お願いします。
「アイシャ、せんぱい。すこし、やすんで、ください」
「エレンちゃんこそ……休まなきゃ、ダメ、よ……」
「おねえちゃん、起きたら……おこし、ます……だか、ら……やすんで」
私がこの部屋から離れたくないのを察してくれているエレンちゃんは軽めの掛け布団を抱えて来てくれて、私をソファーに横たわらせ布団を掛けてくれる。
「横に、なるだけでも。ずいぶん、違います……先輩。今はリリーとミランダちゃんが仮眠しているんです。だから、私は。そばに、います……」
まだ2日も経っていないのにウィンちゃんの身近な女の子たちはみんな憔悴しきっている。死にかけたのだから当然といえば当然なのだけれども。
ねぇ、ウィンちゃん。私たちは貴女が目覚めてくれるのを本当に心待ちにしているんだよ?貴女の大切な家族たちの為にも……早く安心させてあげてね?……ウィン、ちゃん…………。




