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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
32/234

28.冒険者になるために必要なモノ

最終改稿日2016/10/28

 それから日は流れてパーティー登録締め切りの為された翌日の朝。

 賢者の学院ウィシュメリア校のグラウンドにはそれぞれ届け出されたパーティーごとに固まって立っている学院生達の姿があった。

 その集団の前方には各コースの技官達が全員横一列に整列しておりその列の中央には学院長代理フェルリシア学院長代理補佐ウィリアム臨時技術担当部長ヨークせんせいの姿もあった。


「はい、静粛に。これより新入生歓迎探索コンペに関する説明会を始めます」


 司会進行担当の技官が良く通る声をやや張り上げて告げるとようやくざわめきが収まっていく。完全に静まるのを確認したところで司会が議事を進める。


「説明会の前に皆に学院人事についての報告があります。まず、一部の人間は既に知っているとは思いますが誠に嘆かわしい事に一部の学院生が集団で同じ学舎にて学ぶ学院生を襲撃するという事件が発生しました。この事件の最終的な責任を取りメンドゥーダ学院長は無期限の謹慎処分を受け入れ、しばらくの間学院長代理として『魔炎の申し子』でありルーン・マスターのフェルリシア・ウィンター伯爵夫人様が先日より着任されており、補佐として『氷風の使い手』高等精霊語魔術師のウィリアム・ウィンター伯爵様が就いておられます。以上」

「続いて、学院長代理より本大会にあたっての心構えと趣旨説明があります」


 視線で促されたフェルリシアは軽く頷くとグラウンドに説明会の為に設置されたやや高めのひな壇に登り集合した学院生全員を見渡す。


「おはようございます、皆さん。当面の間学院長代理を任せられましたフェルリシアと申します。どうぞよろしく。さて、今回の開催場所はお隣の王立地下図書館をお借りすることになりました。皆さんもご存じの通りとても気の抜けない危険な場所ですが、その分得るものも多い場所でもあります」


「皆さんが今後冒険者として生計を立てて行くにあたり、最上級生は来年の卒院に向け今まで培って来た事柄を。上級生は自分自身の過去を振り返り今を見つめこれからを考えるために。そして新入生は輝かしい将来を手に入れる為に再度冒険者とは何かを理解する為に潜って戴くことになります」


「それを踏まえた上で皆さんには学院よりお願いがいくつかあります」


「一つ目。皆さんの安全は最低限しか確保されません。そして歪みに対する初動対応は皆さんの判断にお任せします。同行する技官は基本的に口を出しませんので各自パーティーの状態を把握し限界を見極め生還してください」


「二つ目。先日の通達通り本日以降、当学院において各種ハラスメント行為には厳罰を以て学院側は臨みます。特に本大会期間中に於いて確認した場合該当パーティーの参加は即刻中止とします。また、行為を確認した、被害にあった等の報告は速やかにお願いします。王立地下図書館は遊び場ではありません」


「最後に。本大会中に必ず何かしらの成長が出来るように全力で臨んでください。終了後皆さんには一週間以内に成長報告書を提出して戴きます」


「本日より引率者が就くか、若しくは許可を得ているパーティーは王立地下図書館に登録の上自由に訓練が可能になります。足元をしっかり固めた上でより高みを目指し皆さんが成長されることを希望します」


 ちょっと離れたところで用意された椅子に座らされてひとつひとつの内容をゆっくりとそれぞれに間をおいてまるで母親が自分の子供達に言い聞かせるかのようにしていた学院長代理おかあさんの話を聞いていた私にとってその内容は至極当然でむしろこの程度を把握できていない人たちには王立地下図書館はまだ早いのではないかと思う。

 早いというか、ここにいる学院生こうはい達のうち何割かは運が悪ければ大怪我を負うだろうし最悪死んでしまうかも知れない事を否定できない。幸いにして過去に死亡事故は発生していないけれども。あとは各班のリーダーが的確に撤退判断をしてくれることを祈るのみだ。

 ところで私がどうしてこんなところに座らせられているかというと。簡単に言えば魔力切れを起こし掛けて本来ならば王立地下図書館側の列席者としてあそこに一緒に並んでいるはずの所をここで休むように強制されてしまっただけのことだ。確かにここ数日倒れる寸前まで魔力を使い込んで護符作成に取り組んでいたからなぁ。次の満月が本当に待ち遠しい。

 けれどもその甲斐あって、先ほど最後の一個を作成し終えて…………そして倒れかけた。とは言っても本番用の最低限のものしか作れていない。予備も含めてもう少し作っておきたいとは思う。


「それにしても。ようやく学院側がハラスメント行為の取締りに動いたのって絶対、お母さんが学院長代理トップになったからだよねぇ。本当に遅すぎるったらありはしないわ」


 この大会も成績査定の柱の一つにあるだけに昔から足手まとい扱いされる一部の学院生達は技官達の目の届かないところで様々なハラスメント行為を受けていた。噂では一部の女子生徒が性的な被害に遭っているとの情報も時々小耳に挟むこともあった。けれどもそれらが白日の下に晒されるようなことはほとんど無かった。学院側、特に事務局側が当事者でなければまともに取り扱ってくれなかった事もあったし、何より成績の為にと泣き寝入りしてしまう子達が多かったからだ。


「今年は、そんなことがないといいな。…………もっとも今回はそんなことをしている余裕は無いと思うけれど。死にたくないでしょうしね」


 こんなに親切に警告してくれるんだもの。学院長代理自ら。真面目にやらないと死ぬよ?って。私の時はこんなに親切な説明会は無かった。もっとも私のクラスメイト達はみんな必死で真面目な努力家達ばかりだったからこんな事言われなくても理解できていた。


「…………以上を持ちまして説明会を終了します。採点ポイントについては後ほど本校舎入り口に張り出します。質問等は各担当技官にしてください。なお、本日より事務棟内に投書箱を設置します。口頭にて言いにくいことがあればそちらを利用してください。学院長代理直通になります。それでは解散」


 …………考え事をしているうちに終わってしまったようだ。うーん、私、来た意味あったのかなぁ?思わず苦笑してしまった。椅子は片付けてくれるというので私は倒れないように気を付けながら気分転換も兼ねて学院の中庭から裏庭へ抜ける散歩道を伝って図書館に帰る事にした。どうせこの状態ではまともに仕事できないから、と開き直って。

 春の終わりに見事な花吹雪を見せてくれたクァウオの木々はすっかり新緑に包まれ陽光を浴びて眩しいくらいに輝いている。気持ちの良い風がさーっと吹き抜けて行くのを身に感じもうすぐ初夏が来ることを私に思い出させてくれる。そう言えば彼女は元気だろうか。同じ年に卒院した私の良きライバルで親友の……。


「……!」

「……………!」


 裏庭への曲がり角を昔を懐かしみながら曲がったときに裏庭の更に奥にある園丁さん達が道具をしまっている小屋の方で何やら言い争っているような人の声が聞こえた様な気がして立ち止まる。何だろう。少なくともこんな所にいるのは学院関係者で間違いは無いと思うのだけれども。


「何だろう。取り敢えず、行ってみよう」


 近づいて行くに連れてそれは怒鳴り声と叫び声だと分かった。そしてそれは小屋の中から聞こえていた。


「痛ぇっっ!こいつ噛みつきやがった!」

「みんな今のうちに逃げて!」

「このっ!足手まといのくせに拾ってやった恩を忘れやがって!」

「きゃぁぁぁぁ!」


 ………………………。何この騒ぎ。さっきのお母さんのお話聞いて……いないのか、状況的に。どっちにしてもこれは助けるべきよね。こんなところに監禁している時点でろくな目に遭っていなさそうだし。


「もしもーし。すみませーん。中にいる人達、大人しく外に出てきた方が身の為ですよ?」

「!………………」

「ねぇ!誰か分からないけれど私たちを助けて!」

「うるさい、黙れ!」


 努めて平静に小屋の中の主達に声を掛けると一瞬静寂が戻り、次いで女の子の声が助けを叫び怒鳴っていたと思われる男が怒鳴って暴力を振るったのか鈍い音が響く。


「…………はぁ。学院長権限代理執行者ウィンテル・ウィンターが命じます。速やかに扉を開けて全員出てきなさい。尚、拒否権は認めません。指示に従わない場合いかなる不都合が生じても学院側は一切の責任を負わないことを代理執行規則第1条に基づき明言します」

「ちっ!……おらっ、てめえらとっとと外に出ろ。伯爵令嬢様のご命令だとよ。はっ!」


 ガタガタと音を立てて頑丈な木製の扉が開き学院生と思われる男子生徒かがいしゃ2名と女子生徒ひがいしゃ4名が出てくる。女子生徒の方は特に1人が酷い怪我をしていて手当が必要そうに見えた。


「貴男達ねぇ…………。自分たちが何をやったか当然自覚してるわよね?」

「あ?コンペのミーティングだよ、ミーティング。余計な口出しは止めて貰おうか?」

「女の子をこんな所に監禁して暴力振るってそんな言い訳が通じるとでも思っているの?」

「証拠でもあるのかよ?あるなら示して見ろよ」

「そこの怪我をしている貴女。証言できる?その経緯」

「階段から落ちただけだ。手当てするのにここに連れてきただけだ」

「ちがっ!そこの男に蹴「落ちたんだろ?ああ?」…………」


 他の3人の女の子は完全に恐怖に支配されてしまっているのか怯えて固まって震えているだけで、一言も言葉を発せないようだ。まぁしょうがないか。さてと、残り4人は少なくともどこかにいるわけだけど。この2人の男子生徒の余裕はおそらく近くに仲間が潜んでいて機会を窺っているとみて問題ないだろう。


「ま、いいわ。詳しい話は事務棟生徒指導室おせっきょうべやにて聞かせて貰うから」

「残念だがそれは無理だな。伯爵令嬢さんとはここでお別れさ」

「あら。つれないわね?私が誰かをデートに誘うなんて滅多にないのよ?」


 女の子達は全員魔法使い系。目の前の2人は戦士系。バランスを考えるのであれば1人か2人は特殊技術系がいてもおかしくない。さてどうしようかな。あんまり魔力は使えないから派手な魔法は使えないしね。かといって6人相手に接近戦もいやだなぁ。しょうがない、不本意だけど派手な騒ぎを起こして他の人に来て貰おう。この子達を助ける為だし始末書の一枚や二枚は覚悟しよう。


「しょうがないわね。この場は見逃してあげるから女の子達を置いてお逃げなさいな?」

「冗談も程々にな。逃げるか倒れるのはあんたさ」

「いーえ?逃げ出すのは貴男達よ?簡易詠唱『ガイスターブレス』!」


 突如としてウィンテルの頭上に召喚されたアイスドラゴンは……その矛先を目の前の身構えた男達では無く、隣接する学院校舎の壁面に突進して学院中に響くような破壊音を立てて炸裂し大きな穴を作り出した。


「「「「「「なぁっっっ?!」」」」」」

「ほら、早く逃げないと人がたくさんくるわよ?」

「なんて事しやがる、くそったれ!」

「ちぃっ、撤収だ、いくぞ!」

「こいつらどうすんだよ?!」

「ほっとけ!こんな場所にいたら一網打尽すぎる!」


 一目散に悪態を吐きながら、やはり潜んでいた残りのメンバー共々逃げ出していく男達を見送りながら私は負傷している女の子の応急手当を始める。と、男達が逃げていった方角から今度は悲鳴が聞こえてくる。思わず顔をそちらに向けると霧のような靄のようなクラウドが立ちこめている。

 そのクラウドがようやく晴れてその中から姿を現した女性を見て私は思いもしなかった再会に思わず叫んでしまっていた。


「…………アイシャちゃん?!」


 私の幼なじみで親友でありライバルでもあったクラウド系魔法を好んで使う『魔雲の申し子』アイシャ・フォーリンがこちらを向いて笑いながら手を振っていた。


「やっほー、ウィンちゃん。お久しぶり♪」

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