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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
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19.初めての重要任務

最終改稿日2016/10/28

 ヨハンがミランダちゃんたちを馬車に載せて送りに行き、ラミエルちゃんとリリーちゃんはドゥエルフ君が責任持って送ってくれるとのことなので私たち姉妹は敷地の正門まで見送ってお別れをした。

 パーティー名は結局決らなかったみたいで宿題になったらしいのだけれども、ミランダちゃんの立場があるのでそれっぽいふさわしい名前をつけることでは決まったらしい。

 まぁ、確かに候補とはいえ、本当に王太子妃になっちゃったら学院時代のエピソードを話すときにふさわしい名前のほうがいいものね。さてはて、どんな名前になるのか楽しみだ。

 今日はゆっくりとできたから久しぶりにお夕飯の支度を手伝うことにした。いずれ私も誰かのもとに嫁ぐかもしれないから、お母さんが元気なうちにいろいろと教わっておきたいし、お母さんの味を自分に子供が出来た時に伝えられるようにしておきたい。


「ん。こんなものかな?お母さん、スープの味を確認お願い」

「ん……。もう少し、ひとつまみより少ない感じでお塩かしら。でもだいたい出来てるわ」

「やった♪」


 そんな私の隣ではエレンが包丁みたいなナイフの扱いに苦労している。それでもリリーちゃんに少しコツを教えて貰ったのか以前よりは上手くなっているようだった。


「それにしてもリリーちゃんは本当にいい子ね。エレン、大事にしなさいよ?じゃないとお母さんは許しませんよ?」

「大丈夫、任せて。リリーは誰にも渡さないもの」


 真剣な表情で言い切ったエレンに後ろめたさや恥ずかしさは全く見られないから後は周りの問題だけなんだろう。私たちは2人を祝福しているからリリーちゃんのご家族次第なのかなとは思うけれど、今のところは特に問題視されていないみたい。この後どうなるかはわからないけどね。

 でも、お姉ちゃんとして出来る限りの応援はしてあげたいと思う。大事な可愛い2人の妹たちのために。



 楽しい夕食も終わり、私は司書長にも頼まれているリストを考え始める。基本的に分けて学院で教えているグループは、近接戦闘専門の戦士科、弓や投てきに罠や生存術の特殊技術科、神官の神霊語や精霊使いの精霊語などの魔法使い科、そして神官と戦士を同時に学ぶ神官戦士科などに分けられる。


「うーん。基本的には能力ごとの上乗せ型になるのかな。バランスを考えると掛けられる種類は二種類から三種類かな。人数少ないところは応相談かなぁ」


 今のところ考えているのは大まかに考えて、能力解放系、属性付与系、耐性付与系の三系統。そこからさらに系統内で細分化させるから選ぶ方は大変だろうなぁ。


「あぁ、そうだ。あとで緊急脱出用の護符をパーティー分作らないと……。さすがに全員分はつくれないし。ポケットマネーで作るから。風の精霊石は図書館にあるからなんとかなるかな?」


 ウィザードの魔法には風と大地の精霊力を組み合わせて使う魔法として、視界内任意の人間全てを転移させる集団テレポート魔法『リターンランド』がある。

この魔法を護符化するにあたり、一回限りの使い捨てに限定するなら私みたいな新米ウィザードでもなんとか作れる。それでも一日にそんなにたくさんは作れないから明日から作り始めないときついかな。多分精根尽き果てるかもしれないから帰り道はエレンに付き添ってもらおう。さすがに毎日馬車帰宅は……お金がもったいないし。歩けないならともかくね。


「あとは……。ミランダちゃんたちは本物の貴族令嬢だから、怪我はなるべくさせたくないなぁ。外交問題になるかもしれないし。ちょっとお父さんに相談してみようかな」


 思い立ったらなんとやら。部屋を出て私は月明かりに照らされた廊下をお父さんの書斎まで歩いて行く。

 お父さんの書斎とお母さんのお部屋は共に一階の奥の方にあり、寝室はそれぞれにあるけれども私の知っている限りではいつも同じベッドで寝ている。私もこんな風にいつまでも仲良く暮らせる旦那さまを見つけたいなぁ、大変そうだけど。


「お父さん、ちょっといい?」

「ん?ウィンテルか。いいよ」


 お父さんの部屋に入りドアを閉めるとお父さんとお母さんがお茶を飲んで何やら話をしていたみたいだった。


「今度の探索コンペで何か悩みかな?ウィンテル」

「うん。ミランダちゃんたちのことなんだけど。彼女たちは他国の貴族令嬢さんでしょう?万が一でも死なせたり跡が残るような怪我させられないから……どうしたらいいかなって」

「確かに、な。ヨークの奴も頭抱えてたよ、事務方が何にも考えていないアホばかりだってな」

「傷くらいなら私の方でなんとか癒せるけれど。死んでしまったらと思うと……本当にどうしようかと。スケープドールなんて高価な物、そうそう揃えられないし……」


 悩ましげな表情で考え込む私とお父さんを見て少し何かを思い出そうとしていたお母さんがその何かを思い出したようで、にっこり笑って思いがけない事を言い出した。


「確か、今回の留学を受け入れたのはサーレント陛下だったと思うの。だから、王家ならスケープドールくらいはたくさんあると思うし、一度問い合わせしてみたらどうかしら。陛下なら留学生分くらいならなんとかしてくれると思うのよ」


 私もお父さんも、お母さんの考えに盲点を突かれて顔を見合せてしまった。


「さすがお母さん。それ、ヨーク先生に打診してみるね。お父さんも考えてくれてありがとう」

「やれやれ、フェルにはかなわないな。さすがに元侯爵令嬢なだけあるな……。王家のことまでは気が回らなかったよ」

「仕方ないわよ、ウィルは伯爵になるまでは優秀な冒険者なだけだったしね」

「そう言えばお父さんとお母さんはヨハンやヨーク先生たちと一緒にパーティー組んでいたのでしょう?昔ギルドギダンで何かあったの?」


 ギルドギダンと聞いて両親から先程までの和やかな雰囲気が消え失せる。顔は笑っているのだけれども。


「誰からその話をきいたんだい?ウィンテル」

「え…………、図書館の事故の日の晩に、畏怖を感じるような少女が現れて、その時に」

「そう。けれども貴女には関係ない話だし、依頼の関係で話すことが出来ないのよ。ごめんなさいね?ウィンテル」

「そうなんだ。守秘義務に触れるなら仕方ないね。無理言ってごめんなさい。そろそろお部屋に戻るね?おやすみなさい、お父さん、お母さん」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい、ウィンテル。良い夢をね」


 明らかにお父さんとお母さんは動揺していたように見えた。けれどもあの様子では教えて貰えるとは思えない。

 ……廃都ギルドギダン。あそこで200年前、何が起きて、今どうなっているのだろう。気になるけれども今はどうしようもない。

 私は部屋に戻るとリストを作るのに専念し、明日からの予定と予算を考えることにした。


***


 翌朝。エレンたちと久し振りに一緒に連れだって通勤していくと何やら学院の入り口が騒がしい。たくさんの学院生が中に入ろうともせずに困惑した様子で掲示板に貼られた紙を見ている。

 人混みをかきわけてドゥエルフ君が確認に行き戻ってくる。


「今週は休校、コンペの準備に専念するようにっていうお知らせだった。場所も発表されていたな。新入生がかなり困惑してるよ、当たり前だけど。上級生も、な」

「まぁ、そうでしょうね。で、あなたたちはどうするの?」

「それなんだけど、ウィンテル先輩。ひとつお願いがあるんだ。ミランダたちを地下11階に連れて行きたいので許可貰えないかな?」


 ああ、なるほどね。雰囲気だけでも感じてもらうのと全く知らないのでは心構えが違うから。


「いいわ。私が引率すれば大丈夫だと思うから、図書館のロビーで待ち合わせしましょう。更衣室は図書館のを使いなさいね」

「助かるよ、先輩。ありがとうございます」

「その代わりあまり時間は取れないから急いでね?」

「「「「はい!」」」」


 ドゥエルフ君が初めて潜ることになるミランダちゃんたちに最低限必要な装備と注意する事などを説明しはじめたので私はお先に、と断って図書館に向かう。

そのまま真っ直ぐに司書長室へ向かい昨夜考えたリストを提出した上で緊急脱出用の護符の件を提案してみる。


「ふむ。可能ならば是非やって欲しいところだが。お前、大丈夫なのか?また倒れたりしないのか?」

「毎日少しずつ作りますから大丈夫です」

「わかった。風の精霊石はそこにあるから頼む。それから、費用は全て請求しろ。変な遠慮するな。緊急時以外は準備に充てていい、むしろお前を図書館側の係官に任命するよ。交渉事以外は任せる」


 学院のお偉いさんとの交渉事は俺に任せておけと言う司書長に本当にいいのか聞き返してしまったけれど、専念できるのはいろいろ助かるので言葉に甘えることにした。ついでにエレンたちのことは護符の実地試験時に私の護衛としてなら構わないと言われたので急いで一枚作り、司書長にお礼を言って待ち合わせのロビーへと向かった。

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