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Geister Kontinent   精霊大陸での日常  作者: うぃんてる
第一部 賢者の学院編
22/234

18.足跡を追う者

最終改稿日2016/10/28

 それから私は今日の詫びだと言うヨーク技官が手配してくれた馬車に乗せられて伯爵家に帰宅すると、気が付いたのかエレンやリリーちゃん、ミランダちゃんたちがエレンの部屋のバルコニーに出て来て出迎えられた。


「お姉ちゃんお帰りなさい。どうしたの、今日は。早いし、馬車でなんて……」

「ん、ちょっとね。後で話すわ。みんな揃っているの?」

「はい、ウィンテルお姉さま。わたくしたち6名お世話になっておりますわ」

「そう、ゆっくりしていってね?帰りはヨハンに送らせるから安心して?」

「ありがとうございます、ウィンテルお姉さま!」


 エレンとリリーの隣でまるで今開花した花のように笑いかけてくるミランダは少し前のツンツンした刺のある薔薇のような笑顔にくらべたら何倍も可愛らしい笑顔だと思う。


「ミランダ、貴女、今の笑顔がとても素敵よ?これからもその笑顔を見せてちょうだいね?」

「はい!ありがとうございます!」


 打ち解けたあの日以来ミランダは聞き分けも理解力もいい、とてもいい子になった。幼なじみだというセレスによれば今のミランダが本来の姿だというのだから、いずれ故国の精霊王国コッタンに帰ってしまうにしても、異国であるここウィシュメリアではのびのびと過ごして欲しいと思う。

 自分の部屋に戻り部屋着に着替えてからはたと気付く。さすがに旧知の仲とは言え彼女ラミエルのいる男の子の前でいつものラフな格好はマズい気がする。

うん、マズい。軽くもう一枚羽織ろう。カーディガンでいいかな。薄手とは言ってもセーターはもう暑いし。


「お待たせ。コンペの打ち合わせご苦労様。大丈夫そう?バランス的に」

「ん。ミランダたちには後方からの援護を中心にしてもらって矢面には俺たち4人が立つ。そして無理はさせない」

「成る程ね。悪くはないかな……」

「悪くはないということは良くもないてこと?お姉ちゃん」

「そうね。普通のダンジョンならその態勢で十分よ」

「あの……ウィンテルお姉さま。まさかとは思うのですけれど、まさか、王立地下図書館ですか?」

「…………ミランダちゃんご名答♪」

「「「「「「「「「「えええええええええ!?」」」」」」」」」」


 部屋中に驚愕の絶叫が響き渡る。


「まってくれ、さすがにあそこはヤバイって。死ぬ気でミランダたちを守るけれど、それでも怪我は免れないぞ……?」

「うん、そうでしょうね。それでね、学院の事務方のお偉いさんが私に何ていってきたと思う?『かけられるだけの加護をかけまくって最大限の安全を確保すれば問題ないから、やれ』……あまりにもみんなをバカにしてるから拒否したわ。ついでに眩暈と激しい頭痛に襲われて倒れたけれど」

「ちょっ、寝てなくて大丈夫なんですか?ウィンテル先輩。椅子、どうぞ」


 倒れたときいてリリーがあわてて椅子を勧めてくれたのでありがたく座らせて貰う。本当にエレンには勿体ないくらいの彼女だ。


「ラミエル、ミランダ、それからセレス。エレンを取り押さえろ!エレン、お前バカな真似はやめろ、どこに行く気だ!?」


 ドゥエルフの叫びにハッとエレンを見れば目の据わったエレンが愛用の鈍器を片手にバルコニーの手摺りに手を掛けていた。あわてて近くにいた3人がしがみついて飛び降りないように抑えつけている。


「はなして!お姉ちゃんの敵、叩き潰しに行かせて!!」

「早まっちゃダメー!」

「落ち着いてください、先輩!」

「リリーと先輩が泣くわよ、エレン!落ち着きなさい!」


 なんとか取り押さえたものの、『お姉ちゃんいじめるやつ、許さない』とぶつぶつ言い続けるエレン。

 そんなエレンをリリーがぎゅっとエレンの利き腕を胸に押しつけるようにして抱きしめて慰めている。


「あぶねー……。もう少し自重しろよ、エレン」

「うー、うー……今度すれ違ったら足引っ掛けてやるぅ……」

「ダメだよエレンちゃん。仕返しはね、ばれないようにしなきゃ」

「「ちょっ、リリー?!」」


 ……あれ。リリーちゃんてこんなだったっけ……。もしかして1週間の共同生活でエレンに染まっちゃった、とか…………?ま、まぁいいや。問題はそっちじゃないし。


「はいはい。エレンはあとでお仕置き。リリーちゃんの問題発言は……今回は不問だけどその代わりエレンが暴走しないようによろしくね。それで本題にもどるけれど、取り敢えず私の方で最低限の安全対策と必要最小限の加護を掛けることになると思うわ。あとで技官からリストが渡されると思うからそこから選ぶ形ね」


 一息を吐いて改めてみんなをゆっくりと見回してからより真剣な気持ちを込めて話を続ける。


「それから、装備品とかも本気装備でお願い。事故は無いとは思うけれど絶対じゃないから。死にたくなければ揃えなさい。どうしても揃えきれない場合は相談しなさい。何とかしてあげるから」

「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」

「うん、いい返事。ところでパーティー名は決めたの?」


 みんながしまった、と言うように顔を見合わせている。まだ決めてなかったみたい。

 パーティー名は結構大事だったりする。学院内のパーティーならそうでもないけれど、卒院後に名乗ったパーティー編成時の名前は下手すると一生ものになってしまうから納得のいく名前を付けた方が良いし。

 いつだったか、ふざけて“お嬢様と愛の奴隷たち”とかいう名前を付けたパーティーが最初のクエストで大当たりしちゃってその名前で固定化されたっていう悲劇があったのよね。

 私だったらそんな恥ずかしいパーティー名はごめんだなぁ……。


「ま、まだそんなに焦る時期じゃないけれどメンバー表提出時には決めてないとダメよ?それから全員が納得のいく名前にしておきなさい。変な名前は不幸のもとよ」

「参考までにお姉さまのパーティー名教えて戴けますか?」

「ん。“足跡を追う者”よ。私はね、200年前の先輩ウィザード、リン・エンシェの軌跡をずっと調べているのよ。たった3年間で大陸中を飛び回って異変を鎮め世界を救ったと言われる天才にして悲劇のウィザード。彼女にはたくさんの謎が残されているの。それを解明したいから…………」


 そしてその先に私の叶えたい夢があるような気がしてならないから。あの少女の言葉も気になるし。

 大陸中の知識が眠っているとされるここの図書館の地下奥深くへ潜るためにも立ち止まってはいられない。少しずつでも彼女の足跡を追って前に進まなくちゃ。


「あなたたちも素敵な名前を付けられるように願っているわ」

「ありがとう御座いました、お姉さま」


 ミランダが丁寧に頭を下げてお礼を言ってくる。

 そろそろお茶の時間かな。お母さんに頼んで準備を手伝って貰おうっと。今日はどんなお茶がいいかなぁ?お茶菓子は何にしよう。

 再びみんなが熱心に相談を始めたのを確認すると私はそっと部屋を辞して居間にいるであろうお母さんのもとにゆっくりと歩いて行った。


***


 同時刻。王都ラドル郊外某所。


「どうだった、遺跡の探索結果は」

「ハズレだな。正直、学院の厳重な封印だから、と思ったがゴミだけだ。しゃくに障ったから破壊した」

「おいおい。あんまり足跡しっぽ残すなよ?」

「しかしあれだな。伝説のウィザードの痕跡がこうも綺麗に消えてるとは……やっぱりあそこに潜るしかないのかね?」

「伝承によれば彼女には唯一の家族が遺されてナーシャ神から言葉を授かったと聞く。流石に人間なら死んでるとは思うが……ハイエルフだったら生きてるよなぁ」

「生きていたとしても普通の場所にはいなさそうだな。森の中か空の上か。……海の中はいないか」

「伝説のウィザード、リン・エンシェの忘れ形見。リィーテ・オルテリーナ・アイラス。空中都市国家オルテリーナの最後の皇女様か…………やれやれ、どこに隠れているやら」

「ま、次の遺跡に何か残ってることを祈ろう。行くぞ」

「ああ。いい加減功績をあげんと“ギルマス殿”に殺されちまうしな」

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