11.クァウオの花が咲いたら 前編
長編になってしまいましたので前中後編に分割しました。
最終更新日2015/02/01
朝晩の寒暖の差がなくなりようやく私たちが暮らす王都ラドルにも春らしい陽気が訪れていた。
王立地下図書館と治療院、それに賢者の学院の敷地には異世界日本で言えば桜に良く似た花を咲かせるクァウオという樹木がたくさん植えられており、近日中には満開になりそうだった。
「んー、そろそろ“お花見”の季節だね。ラミエルちゃん」
「そうですね、ウィンテル先輩」
私とラミエルちゃんは珍しく二人だけでいつもの喫茶店にいてお喋りしていた。因みにエレンとリリーちゃんはお買い物という名前のデート中で、ドゥエルフ君には荷物持ち兼護衛を密かに頼んでいた。本当は完全に二人きりの方がいいのは分かっているのだけれど。
「うちのエレンがあそこまで鈍感というか。リリーちゃんのアプローチが奥手というか。ねぇ?」
「とはいえ先輩。これ以上は本人たちの問題ですし」
「そうなんだよね。…………それはそうと。その、最近エレンに接近しようとしている子たちについて何か相談事があるとか聞いたんだけど?」
「ええ、それなんですけれど…………」
この世界のお花見には二つの意味がある。一つは異世界日本同様に花を愛で美味しい物を食べ、飲み騒ぐ普通のお花見。もう一つは華、つまり意中の相手に想いを告げるために奔走する恋愛のシーズンが始まるという意味で、2人でシーズン終わりにクァウオを見る約束ができたらカップル成立という意味もあるらしい。
「男の子も、女の子もエレンちゃんはその告白を一蹴してるのは相変わらずなんですけど。エレンちゃんてば、断る時に先輩が大好きだから、って断るんですけれど……」
「え。ちょっとそれはどうなの……?」
なんだろう。頭が痛くなってきたんですけれど。ま、まぁいいや。これくらいは許容範囲だし可愛い妹のためにある程度のフォローはしてあげよう。
「それで、何が問題になっているの?」
「えっとですね。先輩をダシに回避しているのはバレバレなので、まぁ大半の人は諦めてくれているんですけれども……今年は一人、諦め切れていない子がいるんですよ。で、エレンの返答を変に勘ぐったらしくて、リリーが側にいるから自分を見てくれないんだって思いこんだみたいなんです」
「うん、それで?」
「今のところは直接的な危害は無いのでいいんですけれど、リリーの持ち物がどうやら最近隠されたりしてるみたいで……」
「…………その子が?」
「いえ。そう言う動きは今のところ。ですが、心当たりが他に見あたらないんです」
「ううーん…………リリーちゃんへの告白攻勢はどうなの?」
「あ、はい。今のところきちんとリリー自身がお断りしています。しつこいのは私とエレンでフォローしながらですけど」
んー…………?そう言えばどうしてエレンを好きになった子がリリーちゃんが邪魔しているという発想を持った事がわかったんだろう。
「リリーちゃんが邪魔しているという発想を持っているというのはどうやって分かったの?」
「あ、それはですね。私のお母さんが炎の神殿の高司祭やっているんですけれど……奉納された恋愛願い札に書いてあった記述を偶然見かけて教えてくれたんです」
「……えー……そのパターンってイヤな事しか思い浮かばないんですけど…………」
「はい。その願い札はすでに撤去させていただいてあるんですけれど、赤字で『先輩との恋路を邪魔するリリー・オルテリィートは死ねばいいのに』って……」
「うわー…………」
予想通りの答えに思わず後ずさりたくなってしまった。いつも思うのだけれど、恋愛で他人を呪っても意味がないことに気付かない人が少なからずいるけれど……。そう言う人たちは肝心なことに気が付けていない。仮に恋敵がいなくなっても自分自身がいい意味で変わっていないのならば振り向いて貰える訳がないと言うことに。相手にとって自分がより魅力的だと思われるように日々努力しなければダメなのに、自分よりも相手にとって魅力的な人間を排除すれば振り向いて貰えると勘違いする人が結構いるのだ。魅力が足りない人は自分磨きに努力しない限りいつまで経っても振り向いて貰えるチャンスが増えることはまずない。
「……ああ、それで今日のエレンとリリーちゃんのデートにドゥエルフ君が付いて行ってるのね?」
「はい。わたしも彼に頼んだんです。何かあってからでは遅いし、幼なじみだから気心知れてますから」
「そうなんだ。…………ん?彼……?」
「あ、先輩に報告してませんでしたね。私とドゥエルフ君は今年からおつきあいさせていただいているんです。だから彼もリリーの想いは知っていますし応援してくれているんですよ」
「えー!初めて知ったよ…………。おめでとう、ラミエルちゃん。ちゃんと制御しないとダメよ?あの破壊神」
「ありがとうございます。大丈夫ですよ、伊達に恋愛の神様の神官してませんから」
しかし、そうなると協力者がいる可能性があると言うことなのかな?うーん。あとでリリーちゃんに聞いてみよう。あまりにも情報が足りない気がする。基本的に公平な恋愛には介入するつもりは無いのだけれど、今回のはちょっと心配だ。
「そういえば先輩。先輩はあんまり恋愛絡みのお話聞きませんけれど…………」
「あー…………それね。私の二つ名と最年少導師位獲得が良い感じに男除けの効果発揮されてるのと、どうもエレンが変な人が近寄らないように睨み効かせているみたいで…………」
うん、在学中はともかく今はそう言った告白の類はさっぱりだ。在学中もしょっちゅう倒れて寝込んでいたりしていたからそういう機会も少なかった気がする。恋愛事に発展しそうなイベントもほとんど参加できなかったしね。特にハカナちゃんと知り合った事件以降は一人きりでクエストを受けることはほぼなくなってしまった。大抵はエレンか、エレンと幼なじみグループが付いてきてくれているから。私がもう少し体力付けてしっかり出来ていればいいのだろうけれど。嬉しいけれど、本当に申し訳ない気持ちもある。一応、みんなは私のクエストのお供で貴重な体験をさせて貰ってるなんて言ってくれたけれど…………。まあ、取り敢えず今の問題はそこじゃないね。うん。
「ん、大体分かったよ。手に負えなくなりそうだったら教えて貰えるかしら?裏からフォローしてあげるから」
「ありがとうございます、先輩。その時はよろしくお願いします」
その後は学院の近況とか教えて貰いながら雑談を少しして私は早めに帰宅した。
***
「お姉ちゃん、ちょっと相談に乗って欲しいことがあるんだけど…………」
私がお部屋で最近発見されたばかりの古文書を解読していると外出から帰ってきたばかりのエレンが遠慮がちに声を掛けてきた。見ればなんとなく落ち着きがないような感じがする。
「なぁに?珍しいじゃない、貴女が私に相談事なんて」
「うん……ちょっと私だけじゃ答えが見つからなくて…………」
「今すぐ、かしら?」
「うん。ごめんなさい、勉強の邪魔しちゃって」
じゃあちょっと遅いけれど午後のお茶の準備をお願いね、とエレンに支度をさせて私はようやく少し進歩したのかな?と頬を緩ませる。淹れて貰った紅茶を含み、お母さんが焼いてくれたスコーンを食べる。うちでお茶を飲むときに食べるお菓子は全てお母さんと、お母さんに師事している侍女さんたちが作っていたりする。一般家庭の子もいるし、今年はお隣に住んでる男爵令嬢のミレーニアさんも家事の修行に来ている。本当にお母さんは凄いなぁ。私も後で色々教えて貰おうっと。まだまだ学ぶことはたくさんあるんだし。
「それで……相談事ってなぁに?」
「うん……今日ね。リリーからお花見のお誘いを…………告白を受けたの」
「あらあらあらあら……やっと進んだのね、リリーちゃん」
「えっ?!…………お姉ちゃん知ってたの?」
「知ってるも何も……ラミエルちゃんもドゥエルフ君もずっと前から知っていたわ。ただ、本人達の問題だから見守っていただけよ」
身近すぎて気づけなかったんだろうなぁ、と苦笑しながらエレンのびっくりして口の塞がらない表情を見ながら問いかける。
「それで?」
「あ、うん。…………どうしたらいいのか分からなくなってしまって」
「んー。エレンはリリーちゃんの事、好き?」
「友達としては好きだよ」
「リリーちゃんがしてくれた告白は…………一時の迷いだと思う?」
「………………ううん。あの子は、多分、何度も悩んだんだとは思うの。でも…………」
「でも?」
「リリーは素敵な子だから、私よりももっといい人がいるんじゃないかって思ってしまって。私と付き合うことでその可能性を潰してしまったりしたら申し訳なくて…………」
よくある思考停止のパターンに陥っているみたい。一番大事なことはそんなあやふやな未来じゃないのにね。まぁ、それでもエレンの心の中に少しはリリーちゃんに対する気遣いと不安、それから自覚の無い感情はあるように思える。
「エレン。お姉ちゃんからのアドバイスは二つだけ。一つは貴女の気持ち、想いを大事にする事。もう一つはリリーちゃんの想いを真正面から受けとめて純粋な気持ちでよーく考えなさい。女の子どうしだからとか、将来がどうとか、雑音は気にしなくて良いから。今を大事にしなさいね?」
「………………ん。わかった。アドバイスありがとうお姉ちゃん」
「うん。……ところでさ。エレン。私をダシに告白断るのはちょっとどうかと思うのだけど…………?」
「………………あはははは。ふ、フルーツタルトでどう?」
「いいわ、許してあげる。その代わり今度からは自分の言葉でちゃんと対応なさい?リリーちゃんですら勇気振り絞ってやっているんだから…………できるわよね?」
「はい、ごめんなさい…………」
恋愛初心者だから仕方がないのかもしれないけれど、告白してくるほうはなけなしの勇気を振り絞ってきているのだから、こちらもその想いに真摯に向き合って応えるべきだと思う。はてさてエレンはどう応えるのかな?リリーちゃんの想いが成就してくれたら私的には嬉しいけれども、介入はしない。温かく見守るだけ。
その後、エレンは夕食の間も、お風呂の間も真剣に悩んでいたようだった。そんなに焦らずにゆっくり悩んでもいいのにとも思ったけれど口には出さなかった。
翌朝。腫れぼったいまるで夜通し悩んでいたかのようなエレンのその表情は、それでも何らかの決断をだしたようでスッキリとしていたように見える。
今日は氷の日、つまり異世界日本でいうと日曜日でお休みだから学院も図書館もお休みなのだけれども、エレンは外出着を着て朝食のテーブルに着いていた。
「おはよう、エレン。今朝は早いのね?」
「お姉ちゃんおはよう。……うん、今日もリリーとデートなの。ちょっと遠出するけれど、遅くならないうちに帰るから、心配しないでね」
「わかったわ。楽しんでらっしゃい」
「うん♪」
お母さんから特製のハニーレモンティーの入った大きめな水筒を受け取ったエレンは、行ってきまーすと私たちに笑顔で挨拶して出かけていったのだった。
***
エレンはリリーと待ち合わせをしていた王都の南門に急いでいた。きっと、リリーのことだからもう待っているに違いなかったから。南門に近づけば確かにリリーはいた。ろくでなしと一緒に。
「お友達なんて放っておいて俺と行こうぜ、リリー」
「イヤです。お断りします。離してください!」
「お前が俺と付き合うなら離してやらぁ」
「その話はもうお断りしたはずです!私には他に好きな人がいるんですから」
「誰だよ、そいつ。言えよ、叩き潰してやるからよぉ?」
エレンは溜め息をついた。ホントに顔だけしか取り柄のない男ほど見苦しいのはいない。エレンはツカツカとそのしつこく言い募りリリーの左腕を掴んで離さない男の背中に立つと声を掛けた。
「………………誰を叩き潰すんですって?ドルカイル。ねぇ、貴男みたいな顔だけしか取り柄のない人が、誰かを叩き潰せるなんて本気で思っているのかしら?」
「エレンちゃん!」
「ごめんね、リリー。遅くなって。さ、行きましょう?」
エレンはドルカイルと呼んだ男の腕を捻りあげてリリーの腕を解放させると、ホッと安堵の表情を浮かべたリリーの手を握って門の外へと歩き始めようとする。
「待てよ、エレン。俺はリリーと大事な話をしてるんだよ。邪魔すんじゃねーよ!」
「あら。もう終わった話なんでしょう?リリーはさっきそう言っていたわ。しつこいだけの男は嫌われるわよ?」
「女は引っ込んでろ。リリーの隣にふさわしいのは…………」
そこまで言い掛けてドルカイルは振り向いたエレンの瞳の笑っていない笑顔を見てウッと息を飲む。
「残念だけどね。リリーの心は貴男にはないのよ。恐怖や暴力だけしか使えない貴男にはリリーは勿体ないわ。帰り道に気を付けてお帰りなさい?…………さ、行きましょうリリー。お昼になっちゃうわ」
門をくぐって行く少女2人を見送ったドルカイルは悔しそうに吠えた。
「クソが!…………こうなったらアイツの提案に乗ってでも手に入れてやる……おら!見世物じゃねーぞ、ゴルァ!!」
周囲を取り巻く学院生とおぼしきヒソヒソ声を威嚇し恫喝しながら待たせていた馬車に乗り込みドルカイルが何処へと消えていくのを確認した数名の学院女子生徒もお互いに頷き合って人混みに紛れていった。
***
王都南門から歩くこと三時間くらいで風光明媚な風景広がるバハル湖湖畔の王立自然公園にたどり着く事ができ、公園内にはたくさんのクァウオの木が植樹されている。
「ごめんね、リリー。次からは私が迎えに行った方が良さそうね?」
「ううん。今回はたまたまだから大丈夫だよ…………それよりどこか座れる場所、探そう?」
お花見シーズンの休日だけあって既にカップル以外にもたくさんの人たちが思い思いに場所を陣取り談笑し飲食している。
「あ、リリー。そっちじゃないわ。こっちよ?」
「え……?でもそっちは…………」
エレンは笑顔でクァウオの咲いていないただの林の方へとリリーを引っ張っていく。そうしてしばらく歩くこと数分。急に辺りがひらけて小さな池の周りにクァウオが群生している場所にたどり着く。
「ちょっとエレン、ここは王家の…………」
「いいえ、違うわ。ウィンター伯爵家の、よ。さ、座りましょう。色々あってお腹空いたわ」
「う、うん」
ぽかん、としてはらはらと花びらの舞い散る風景に魅入られたかのように立ち尽くすリリーを現実に呼び戻し切り株を利用した椅子に大きめのハンカチを敷いてリリーを促す。
「リリーのお弁当、久しぶりだから楽しみにしてきたんだ。ね、早くたべさせて?」
「そ、そうなの?あまり手の込んだものはつくれなかったけれどたくさん作ってきたから…………さあ召し上がれ」
リリーがちょっと大きめのバスケットを満面の笑顔のエレンに差出し蓋の留め金を外すと蓋の下には色とりどりの具材を使ったサンドウィッチと手作りと思われる大きめのカスタードプリン、それから切り分けられた絶妙な色合いのローストビーフまで入っていた。
「ちょっ、これのどこが手の込んでいないものなのよ…………」
「ウィンテル先輩やフェルリシア先生に比べたらまだまだだよ?」
「比べる対象が間違っているわよ、まったく…………じゃあいただきます♪」
「はい、どうぞ♪」
リリーは美味しそうに何でも食べてくれるエレンを見ながらエレンの持ってきたハニーレモンティーを少しずつ飲んで、小さな口で小栗鼠のようにゆっくりと食べて、幸せそうに微笑んでいた。
少しひんやりとした小春日和の柔らかなそよ風がクァウオの枝をくすぐり、その小さな花びらをふわり、ふわり、と舞わせていく。周りを木々に囲まれ静かな空間に包まれて大好きなエレンと一緒に幸せな空気を共有できるこのひとときがずっと続けばいいのに。そうしたらどんなにか幸せになれるのだろうか。
けれども、エレンは魅力的な女の子だし他の子にも好かれているし、もしかしたら私じゃない他の誰かが好きなのかもしれない。
…………取られたくない。そう思い始めたのはいつからなのかは分からない。幼なじみとして小さい頃からラミエルちゃんやドゥエルフ君と一緒に行動してきて、これまではそれだけでも満足していたけれども。
………………エレンを他の人に奪われたくない。ずっと私の隣にいてほしい。そう思い始めたのは…………あぁ、そうだ。ラミエルちゃんとドゥエルフ君が付き合い始めた頃からだ。
いつまでも4人一緒に動けるわけじゃない。それを実感してしまったから。そして想いをごまかしたくなくなってしまったから。
だから私は…………。
「リリー?大丈夫……?ごちそうさま。とても美味しかったわ」
「あ、うん。大丈夫。ちょっとエレンに見惚れていただけだから。お粗末さまでした」
リリーは本当に可愛い。女の子の私から見ても嫉妬すら湧かないくらいに、羨ましいくらい、お淑やかで気配りが自然にできて、私のお母さんに鍛えられているせいか家事もきちんとできる家庭的な女の子で、そして癒し手としての実力も一杯努力してメキメキと腕をあげてきている。
そんなリリーは将来どんな人と一緒になるのか最近ふと気になってはいたけれど私はリリーと同じ女の子だから悔しいけれども、諦めていたしリリーが幸せになれる人を見つけるまではせめて守ってあげようと思って、想いを無理やり封じ込めていた。
…………だから、昨日リリーが、想い悩んだ表情で私に告白してくれた時、嬉しい半面本当に私でいいのか、リリーの将来的には本当はまずいんじゃないのかと頭のなかがぐるぐると混乱してしまって、リリーにその場でなにも応える事が出来なかった。
けれども、お姉ちゃんに相談して言われた言葉に私は………………。
エレンとリリーはそよ風が奏でる草木の囁きを聞きながらひらひらと舞い踊るクァウオの花が散る様を眺めていた。小春日和の穏やかな陽光が2人を優しく包み自然とリリーはエレンに身を寄せていた。
「リリー。私ね……昨日、貴女に想いを伝えられて。本当にびっくりしちゃったのよ。昨晩ずっとリリーのこと、将来のこと、私のこと。ずっと考えていたの」
リリーは黙ってエレンの横顔を少し不安そうに見上げている。
「ごめんなさい、リリー。私は…………間違っていたわ」
「……っ」
リリーの瞳が悲しみに包まれ涙が溢れてくる。それを見たエレンは自分の伝え方が間違った事に気付いてあわててリリーに伝え直す。
「ごめんなさい、リリー。泣かないで。最後まで、聞いて?」
「え……?」
取り出したハンカチでリリーの溢れる涙を拭いながらエレンは言葉を紡ぐ。
「私はね。リリーが私から離れて誰かの隣に行ってしまうのがイヤなんだって、今朝になってようやく気が付いたの。貴女のことが純粋に好き。だから、本当は貴女に告白させるんじゃなくて、私から言うべきだったんだって気が付いたの。…………リリー、私は貴女のことが大好き。だから、私と末永くお付き合いしてください。お願いします」
「………………エ、レンちゃん……あり、がとう…………」
嬉しくてそれ以上は言葉にできなさそうなリリーを優しく見つめたエレンはそっとリリーを抱きしめてその淡いクァウオのような唇に自分を重ねて、そして嬉し涙を嗚咽と共に流し続けるリリーを胸に引き寄せたまま落ち着くまでそっと撫でていた。
***
翌朝。学院に登院するための待ち合わせ場所へ手を恋人繋ぎして現れたリリーとエレンを見たラミエルとドゥエルフはやっと成就したのかとホッとしたような破顔した笑みで2人を祝福した。
「おめでとう、リリー、エレン」
「どうなることかとヒヤヒヤしたが…………良かったな、2人とも」
「ありがとう、ずっと応援してくれて」
「ごめんね、みんな。ありがとう」
それから4人でいつも通り、それでいて二組になったカップルのうち一組は気恥ずかしいのか顔を少し染めながらもしっかりと離れないように手を繋いだまま自分たちのクラスまで登院していくと何やら中がいつもより騒がしかった。
「「「「おはよう」」」」
ざわめきがピタッとおさまりみんなの視線が私たちに、特にリリーに注がれる。私とリリーは顔を見合せ何があったのだろうと人だかりのできているリリーの机のあるところへ近づけば…………そこには高温の炎で一気に炭化したらしい机の成れの果てとリリーに良く似せられた人形が―――服を引きむしられドロリとした液体のかけられた―――無惨に転がり、炭化した天板の上に無造作に置かれた紙には赤字で『泥棒猫は無惨に死ねばいいのに。むしろ死ね、今すぐ私と先輩のために死んで、コロシテアゲル』と書いてあった。
私の手を握るリリーから力が抜けて行くのが分かり私はあわててリリーを抱きしめる。
「リリー?!しっかり、大丈夫だから、私がついてるから!」
リリーは顔面蒼白で私を見上げて小さく頷いたけれども背負っている学院指定リュックを床に落として力なく私に抱き抱えられている。
「エレン、リリーを連れて救護所に行け。あとは俺とラミエルがなんとか始末つける」
「エレンはリリーに付いていてあげて?絶対に1人にさせちゃダメよ。お願いね」
分かったわ、と私は頷くとリリーの荷物を背負い、気を失いかけたリリーをお姫様抱っこして救護所まで運んで行ったのだった。




