ざまぁ?そんなこと、いちいち企みませんから!2
「ようこそおいでくださいました、ダイアンサス辺境伯爵。まさか、貴殿自らが赴いて下さるとは……」
「挨拶は良い。すぐにこれまでの経緯の説明と、患者の診察をしたい。私も暇ではないのでな」
うわぁぉ、冷た〜い。
王宮に着くなり、たぶん大臣とかそんな感じの偉い人が迎えてくれて応接室に来たのだが、フリード様はかなりの塩対応だ。
“用件をさっさと済ませて帰りたい”って言ったよこの人。
そして王宮では“私”って自分のことを言うのね。
なんか普段よりも冷たく感じるわぁ……。
「ええと、それではこちらに。お連れ様は……っ!あ、あなたはヨーゼフ医師!若き頃にお世話になったことが……」
「おお、ストック家の。なんと、この老いぼれを覚えていてくれていたのか」
「老いぼれなどと!王宮筆頭医師として誰よりも王族に信頼されていたあなた様を、忘れるわけがないでしょう!」
……な、なんだかヨーゼフ先生ってすごい人だったのね。
フリード様は知っているみたいで、涼しい顔をしている。
この大臣ぽい人は五十手前くらいかしら?若き頃にって、そんな昔からヨーゼフ先生は王宮で勤めていたのね。
なんとなく居心地が悪くてそわそわしていると、それに気付いた先生が、私の肩をぽんと叩いてずいっと前に押した。
「筆頭医師などと持て囃されていたが、今となっては大それた話よ。ほれ、今では毎日この若くてかわいらしいマリアンナちゃんに教わることばかりじゃ」
な、なにしてるんですか先生ーーーー!!
ほら、大臣(ということにしておこう!)もぽかんと口開けて反応に困っているじゃないですか!?
「え、ええと。そちらは……」
「我がダイアンサス領地に医療の発展をもたらした立役者だ。マリアンナという薬師だが……少し前はどうやら王宮薬剤室で働いていたらしいぞ? こんな逸材をクビにしたというのだから、その病とやらも我らの力など借りずとも治せるのではないか?」
戸惑う大臣に私を紹介しつつ、しれっと嫌味まで言ったのはもちろんフリード様だ。
うわ、悪い顔してるよ。
全く大人げないんだから……。
しばらく放心していた大臣も、言葉の意味を理解して真っ青になる。
そして急いで事実を確認しに人を遣ってしまった。
あーこれは詰んだ。
絶対あの人達、来ちゃうじゃないのよ。
そしてルークを見て犬はちょっとという顔をされたので、フリード様が精霊であることを話してしまった。
するとまたもや真っ青な顔をされた。
あー精霊も連れているような者をクビにしたのか!?って思ってるんだろうなぁ……。
「……あの、とりあえず患者さんのことや病状についてなど、詳しく教えて頂けますか?」
もうどうにでもなれと半ばヤケクソで話を戻す。
陰険眼鏡が来たら診察が遅れてしまうだろうから、今のうちに話だけでも聞いてしまいたい。
「あ、あぁ、そうでしたな。……これは内密にして頂きたいのだが……」
はぁっとため息をつき、大臣は用意されたお茶に手を伸ばした。
そしてその重い口を開く。
曰く、今回見てほしいと要請した患者は、なんと王妃様だった。
王妃様といえば陰ながら国王陛下を支える才女と名高く、彼女が倒れたと知られれば動揺が走るだろうとの側近たちの判断で、それを知るのは僅かの者だけだという。
「その王妃様が倒れた原因は、恐らくとしか言えないのですが……これだと思うのです」
「これは……花?」
大臣に渡された花を受け取る。
小ぶりで形はそう珍しくないものだが、特殊なのは、その色。
花びらの外側から藍、紫、桃、黄と中心に向かって色を変えている。
前世でも今世でも見たことのない花だ。
「アメリアという、数か月前から王都の貴族令嬢達から人気のある花です。外国から入ってきたもので、その珍しく美しい見た目からすぐに広まって。茶に浮かべて飲むのが最近の流行となり、王妃様も毎日そうして楽しんでおりました」
それからしばらくはなんともなかったのだが、少しずつ彼女の体調に変化が現れたのだという。
そして半月程前に、倒れてベッドから出られないくらい衰弱してしまったのだと。
「ふうむ。確かに王妃様は日々の公務の疲れを癒やすために、茶を楽しむことを趣味にしておられたのぅ。どれ、ワシが一度その花を鑑定してみよう」
さすが元王族筆頭専属医師、王妃様のこともよく知っているようだ。
そこでお願いしますとヨーゼフ先生にアメリアの花を渡す。
先生は鑑定と唱えると、空中をじっと見つめている。
きっと先生にしか見えない画面に書かれている、アメリアの鑑定結果を読んでいるのだろう。
「ふむ。一応毒性は無いようだが……」
「そんな馬鹿な!では、王妃様はなぜ……!」
もう手がかりがないと大臣が俯き震えている。
気持ちは分かるが、ヨーゼフ先生の鑑定は間違いないと思うし、先生が嘘をつくとも思えない。
「ではやはり、フリード様にスキルを使って頂いて、私が薬を作りましょうか」
「……分かった」
そう了承すると、フリード様はすっと席を立った。
そして大臣に王妃様が休んでいる部屋まで案内するよう指示した。
本当は、フリード様にこんな風にスキルを使わせて良いものか、迷っていた。
幼少期に色々あったわけだし、コンプレックスの原因だったスキルだ。
繊細なことだから、たかが知り合って一年くらいの他人である私から、そう気軽に使ってほしいと言うのは気が引ける。
でも王妃様は苦しんでいるわけだし、フリード様にお願いしないと時間がかかって、治せるかどうかも分からなくなってしまうもの。
「案内をお願い致します」
だから、今は迷っている場合ではない。
フリード様の後を追うようにして、廊下に出た。




