不安定な関係と自分の気持ち1
本日二話目の投稿です。
まだ前のお話を読まれていない方は、ひとつお戻り下さいませ(・∀・)
「マリアンナ、またお呼び出しよ」
「ええ、また?ちょっと、ここの領主って人使いが荒くない!?」
アーニャがぴらぴらと手紙を手で弄びながら私に見せつけてくる。
その顔はからかおうという気満々の、にやにや顔だ。
あの街での病気からのスタンピード騒動の後、私の存在が一気に領内に広まった。
まあね、仕方ないとは思っているのよ。
誰も知らない病の特効薬を作っただけでなく、いつも側にいた犬はフェンリルっぽい森の上位精霊だわ、それを従えて負傷者のテントにやって来て回復魔法を使うわ、それで領主様はじめ平民も含めた隊員みんなの命を救ったんだから。
こうやって客観的に並び立ててみても、普通じゃないってことが分かる。
さようなら私の平穏な日々、って遠い目をして諦めたわ。
でも悪いことばかりじゃないのよね。
そのおかげで新薬や調剤のことなんかが、爆発的に広まった。
ぜひ教えて下さい!と別の街から押しかけてくる薬師だっていた。
ブルーノさんの所にも結構教わりたいって人が集まったらしい。
「俺たち最初に習った四人は言わば弟子一号ですからね!マリアンナさんの教えをしっかり受け継いでいきますよ!」と息巻いていた。
ほどほどにね……と若干引くくらいやる気に満ちている。
そんなこんなで半年程が経ち、もうすぐこの領に来て一年になる。
この一年で、すっかりここは医療のことならダイアンサス領へ!という扱いになった。
薬師に対する評価も、領内ではすっかり変わった。
ポーションや決まった薬を作るだけの存在から、ひとりひとりの体質に合わせた薬を作ってくれる、一緒に体調のことを考えてくれる存在へと変わったのだ。
もちろん多種多様な薬についての勉強はまだまだ必要だけれど、それでも自分達の健康のために努力してくれている薬師に対して、尊敬の念を抱く人は少なくない。
「そんなこと言って、恋人からのお誘いなんだから、もっと嬉しそうにしなよ〜」
「恋人じゃない!」
即座に返した私に、アーニャがえ、マジで?と驚愕の表情をした。
「ち、ちょっと待ってマリアンナ。なに、あんた達……って辺境伯様に失礼だけどこの際それは置いておいて、まだなにもないの?」
「だからそうだって言ってるじゃないのよ……」
ええええ〜……とアーニャの、言葉が出てこない感じなのが余計に胸に刺さる。
言いたいことは分かるわよ、逆の立場なら私だってそう思うもの。
「……辺境伯様って、あんな百戦錬磨ですよ〜みたいな顔して、実は奥手なのね?」
「知らないわよ!私に聞かないで!」
そう、このアーニャとのやり取りでお分かりだろうが、私とフリード様はあれ以来、そういった話をなにもしていない。
私も一応前世では彼氏がいたことがあるので、なんとなく、お互いに好意があるんだろうなということは思っている。
でも、実際に言葉に出すとなると、もしかしてと思ってしまうのだ。
前世とは世界の常識も違う。
ましてや貴族、慎ましやかな女性が好まれるこの世界で、本当に私のことを好いてくれているのだろうか?と。
心のどこかで傷つきたくないとストップがかかってしまうのだ。
「……マリアンナも、意外ね。仕事では全然迷わないし自分からガンガン行くのに」
「仕事とプライベートは別なんですう!」
この悶々とした気持ちをアーニャにぶつけてしまう。
けれどアーニャは、はいはいと軽く受け流して項垂れる私の頭を撫でてくれた。
うう、こんな時の友達って本当にありがたい。
「そろそろ休憩は終わりだよ。おや?マリアンナちゃん、どうしたんだい?」
そんな時、オーナーがひょっこりと休憩室へ顔を出した。
「あ、オーナー聞いて下さいよー」
「ちょ、アーニャ!」
止めようとする私のことなど無視し、アーニャはかくかくしかじかとオーナーに説明をはじめた。
「……なるほどね。それはウィルフリード様が悪いね」
ずばっ!とオーナーがぶった切った。
容赦ない……。
「こんなにかわいい子と一緒にいて、ちゃんと想いを伝えないなんて。他の誰かに取られても文句は言えないよね」
いえ、そう言って頂けるほどモテませんし。
既婚のおっちゃん達にはなぜかそれなりに人気ありますけど。
理由は分かっている。
あのスタンピード騒動の時だって、フリード様に魔法をかけた後、我先に治療してほしいと騒ぐ隊員達に、重症者からに決まってんでしょ!いい大人がびーびー言ってないで、大人しく待ってなさい!と一喝してしまった。
つまり気が強すぎるからだ。
前世となにも変わっていないということに気付いて、愕然としたものである。




