ヒーローのピンチを救うのはヒロイン!?4
パリン
「わっ!マリアンナさん、大丈夫ですか!? ああ、ポーションの容器を落としてしまったんですね」
「ご、ごめんなさい。手が滑ってしまって……」
慌てて床に落としてしまったポーションの容器の破片を拾う。
「ああ、危ないから慌てなくて良いぞい。ゆっくりやろう」
ヨーゼフ先生とブルーノさんが割れ物を片付けるのを手伝ってくれ、すみませんと謝る。
いつもならこんなドジしないのに、どうして……。
なんだか、嫌な予感がする。
ざわめく心を落ち着けたくて、ぎゅっと胸元の服を握り締める。
もしかして、森でなにか――――。
「マリアンナ」
小声でルークが私を呼んだ時、突然作業場の扉が乱暴に開いた。
「た、大変です!」
嫌な予感とは当たるものだ、息を切らし傷だらけで足を引きずり現れた討伐隊員の表情は、鬼気迫るものだった。
そしてその口が語ったのは、討伐隊員達の怪我の知らせだった。
「サラマンダーとマンティコアが同時に現れたんです!それで重症の火傷を負った者も多く、また大量に出血している者も。それと、辺境伯爵様も……」
「え……」
「!閣下がどうされたのじゃ!?」
フリード様の名前が紡がれたのに目を見開くと、ヨーゼフ先生も焦ったように聞き返す。
まさか。
「っ、先走った隊員にサラマンダーが炎を吐いたのを、辺境伯爵様が庇おうとしたんです。なんとかかすめる程度に避けたのですが、その隙を狙ってマンティコアが……」
その時の情景を想像して、ひっと悲鳴を上げる。
マンティコアといえば、人喰いで有名だ。
もしかして、フリード様も……。
「護衛のグレイ殿が放った魔法のお陰で、なんとか致命傷は免れました。しかし、少しではありますが脇腹を食い千切られています。その上かすめる程度とはいえ、サラマンダーによる火傷も負っておりますので……」
「!フリード様は、今どこに!?」
ようやく出てきた私の問いかけに、隊員は俯いて答える。
重傷であるために動かすことが難しく、今は森の安全な場所に張ったテントで応急処置を受けているとのことだ。
「私も行きます」
それを聞いて、今度は迷いなく言葉が出てきた。
「私が行って、治療します。これでも回復魔法が使えますので」
「!あ、しかし、あなたを護衛する者が……」
「僕が行くよ」
負傷したでは無理だと言う隊員の言葉を遮ったのは、ルークだった。
しゃべった!?と隊員とブルーノさんが驚くのはこの際置いておこう。
「これでも森の上位精霊だからね。本当の姿に戻れば、一瞬であの領主のところへ連れて行ってあげられるよ」
「ルーク、本当の姿って……?」
わう!とひと啼きしたルークは扉から外に出ると、ぴたりと止まった。
すると額から翠の光が放出される。
その眩しさにその場の全員がしばらく目を閉じていたのだが、光が収まりそっと目を開けると、そこにいたのはかわいらしい子犬姿のルークではなかった。
「ルーク……きれい、かっこいい……!」
毛先にうっすらと翠を帯びた白い毛並みの、フェンリルのような姿をした神々しい精霊獣が、そこにはいた。
「ありがとう、でも今は時間がないよ。マリアンナ、乗って。ひとっ飛びするからしっかりつかまっていてね」
「ありがとう、ルーク!みんな、行ってきます!」
ルークに乗る前に、そうだと思いついて隊員に向かって手をかざす。
「治療」
「あ、回復魔法!? 傷が……!」
きらきらとした光が隊員を包むと、体の所々にあった切り傷が綺麗になくなった。これで恐らく引きずっていた足も楽になったはずだ。
「マリアンナさん!気を付けて!」
「閣下を頼んだぞい!」
ブルーノさんとヨーゼフ先生にも笑顔を返す。
うん、必ず助けます。
「ルーク、フリード様のところまで、お願い!」
絶対助ける。
こんな時に役に立つために回復魔法の練習もしてきたのだから。
そしてルークはぐっと踏み込み、勢いよく跳び上がった。
振り落とされないようにと、私は必死につかまっているだけだったけれど。
後にブルーノさんからは、『精霊獣を従えて飛び立つみたいで、すごくカッコ良かったです!』とキラキラした目で褒められたのだった。




