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獣人の姫  作者: MTL2
最終決戦
756/876

残骸が如きその場所


【ギルド地区】

《跡地》


「……ふむ」


老父は左右に覆面の女と琥珀の瞳を持つ男を携えて。

最早残骸に等しく、幾多の風が吹き荒ぶその場所に居た。

嘗ては整えられていた道路脇の街路樹も枯れ果て、真っ白だった煉瓦造りの建物は所々崩れ、焼け焦げたように黒く濁り果てている。

近場の建物ばかりではない。ギルド地区全てが、だ。


「酷い物ですな。嘗ての面影がまるでない」


「ギルドが崩壊した後、野盗共に襲撃を受けたのだろう。自衛力が無かった、と言うよりは自衛するつもりがなかったのだな」


「既に体勢も崩壊しておりましたしな。襲ったのが、果たして野盗だけかどうかも怪しいでしょう」


革靴の先が砂利を踏み躙る。

嘗ては四大国の調停者として権力的に君臨していた組織の結末がこれだ。

元より頭長として四天災者を添えていたのだーーー……。四方やすれば、ギルドという組織自体、奴等の思惑のためにあったのかも知れない。

いや、事実そうなのだろう。デュー・ラハンやダリオ・タンター。グラーシャ・ソームンのことを、思えば。


「……否、今はそんな事を気にしている場合ではなかったな。問題は、そうだ」


太陽の下。

陰りの中に、残骸に等しき建築物の上にそれは居た。

両腕を垂らすように佇む、何か。


「来ましたか……」


スーは魔力を収束し始め、眼前の者に殺意を向ける。

だが、ヴォーサゴとクロセールは殺意一つさえ向けていない。

向ける必要がないのだ。その者は、グラーシャではないのだから。


「道化師、だったか」


否、少しだけ仮面の部分が違う。

肉体も然りだ。動き一つ一つに滑らかさこそあれど、違和感が拭えない。

足下に転がる砂利を踏み躙って進むのではなく、乗り越えて進むように。

何も存在せぬと言わんばかりに、歩むが如く。


「……奇妙な」


老父が大地を刺突する。

相手の精神を支配する波動を撃ち放ったのだ。

嘗てダリオを滅した様に、生物の稼動情報を支配する波動を。


「…………」


だが、変わらない。

周囲の瓦礫や砂埃が舞い上がろうと。

その者が歩み以外の挙動を見せることは、ない。


「失礼」


その隣からスーの樹木魔術が道化師らしき者を貫いた。

樹木が大地の道路を穿ってその肉体を、足先と胸元を貫いたのだ。

見るも残酷な、然れどスーからすれば幾度と無く見てきた光景だ。

樹木へ与えられる雫が如く伝う紅色と骨肉。それが、必然の景色。


「……な」


では、ない。

伝うのは茶黒い、血液よりも幾分か流動速度の早い物。

血ではない。貫いた感触でさえも、違う。

これは、人間ではない。


「Destruct mode」


悍ましい声色。

スーは人間のそれではない音色を耳にした瞬間。

背筋が凍り、手先が痙攣するように跳ね上がった。

恐怖。純粋な、全身を縛り付ける恐怖。


「スー・トラスッッッ!!!」


豪炎が、大地を裂き乱れる。

破片や爆風が周囲の建築物を吹き飛ばし、切り裂いて。

眼前の者共も巻き込みながら、全てを、喰い殺す。


「ッ……!!」


然れど、彼等を喰い殺すには足りない。

血肉を味わう前に甲殻を喰い潰さねばならぬ。

しかし高々爆炎程度で、琥珀の甲殻を食い潰すことは出来ない。


「……助かった、クロセール・コーハ」


「安易に前に出るな。何か妙だ」


クロセールがスーの前に展開した琥珀の盾は、僅かに溶解していた。

例え爆炎であろうと衝撃であろうと防ぎきるはずの、琥珀の氷塊が。

幾ら眼前で爆発したとは言え、余りに威力が、否。

威力ではない。これは、また別の何かだ。


「魔力を孕んでおる」


老父の言葉にクロセールの思考が直結する。

そうか、先程の爆炎はただの事象ではなく、魔力が含まれた魔術や魔法の類いだ。

だとすれば琥珀の氷塊が溶かされたのも納得出来る。

無論、凡俗な魔術や魔法に溶かされるほど柔い氷でない、とは自負しているが。


「今の自爆による攻撃、かなり特殊な色であった。そう何発も受けれる物ではないぞ」


「承知している。出来るだけ、早急にグラーシャを見つけなければ……」


じゃり、と。

小石を躙る音がした。


「……何だ、これは」


眼前に蠢くのは、波。

視界の果て、例え踵を変えようとも尽き果てぬ波。

ギルド地区全域を覆い尽くし、彼等を無果に沈める、波。


「何だ、この数は……!」


ヴォーサゴとクロセール、スーが背中合わせに並ぶ。

六つの、正しくは四つの眼がそれ等を睨もうとも。

視界にさえ、収まりはしない。


「何だ、これはッ……!!」


絶息に近い焦燥。

背筋が焼けただれ、足下から煮え湯に放り込まれるような。

余りに悍ましく余りに恐ろしい、現実の景色。


「解ってたんだ」


青年は嘗てギルド本部と呼ばれたその場所から、彼等を眺めていた。

幾千の機械兵共に囲まれ、焦燥に駆られる彼等を。

悠然とではなく、呆然とではなく、ただ、冷然な瞳で。


「僕の魔法は貴方達に研究され尽くしている。時間の掌握という領域でさえも、貴方達の前では無意味と成り果ててしまった」


けれど、だけれど。

それでも構わない。彼等を、ヴォーサゴ・ソームンを殺せさえすれば。

あの男との因縁に決着さえ付けられれば、それで良い。


「この地で」


決着を。

自分の運命に、憎悪に、道標に。

決着をーーーー……、付けられれば。



読んでいただきありがとうございました

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