尋問
【サウズ王国】
《王城・応接室》
「ご苦労だったな」
王城の、応接室。
そこにはゼルを始め、デイジーとサラの姿があった。
彼の慰安の言葉に彼女達の表情が変化することはない。
ただ、何処か疲労しきったような、沈みきってしまっている表情のまま、俯いている。
「……気を落とすな。責任は俺にある」
「しかし……、気持ちの良い物ではありません」
「解ってるさ。だが、俺は解った上でお前等に護衛の任務を……、いや、監視の任務を与えたんだ」
王国騎士団のデイジーとサラが命じられたのは、第三街領主スズカゼ・クレハ伯爵を護衛すること、ではない。
正体不明の生物、スズカゼ・クレハを監視することだったのだ。
「ほんの少し……、数日程度の時間でした。我々が彼女と居たのは。けれど、それでも彼女の、その、優しさが身に染みて解るのです」
「……優しさ、か」
「彼女は純粋だ。恐らく、人を殺した事なんて無いのでしょう。純粋で、真っ直ぐで、歪みない。……正しく人の上に立つ人間の器ですよ」
デイジーとサラが、スズカゼと共に居たのは、たった数日だ。
しかし彼女は獣人達との遭遇し、初日にも関わらずジェイド達を説得し、暴動の中枢へと関わった。
少なからず、彼女には人を惹き付ける何かがあるのだろう。
そして護衛の二人も、それを感じ取っていた。
「獣人とて、人ですわ。獣の血が混じっていようとも、人でしょう」
「その通りだ、サラ。……あぁ、その通りだとも」
「例え彼女が人でなかろうとも……。人ですわよ、ゼル団長」
サラの言葉に、ゼルは目元を深く押さえつけた。
そうだ。今まで見てきた、あの小娘は人間だ。
勉強もろくに出来ず、木刀を振り回し、きぃきぃと叫く小娘だ。
人間なのだ。例え、その体と命が純粋でなかろうともーーー……。
《王城・王座謁見の間》
「あの、これは?」
スズカゼは王座謁見の間の中心に立たされていた。
ゼルに迎えられ、急にこの場に連れられてきたのだ。
そして、そんな彼女の隣に立ったリドラ、王座に腰掛けるメイアと、彼女の隣に陣取るバルド。
周囲に兵士や大臣が居ない事とゼルの代わりにリドラが居る事、そしてスズカゼに味方が居ない事を退ければ、まるで嘗ての暴動の時のような状況だ。
「スズカゼ・クレハ」
だが、彼女の疑問など知った事ないと言わんばかりに、メイアは冷徹な口調でスズカゼの名を呼んだ。
彼女はびくりと肩を震わせて、はにかみながらもどうにか返事を返す。
「聞きたい事があるわ」
四天災者という、戦争を個人で冷戦状態へ持ち込むような化け物からの問い。
嘗ての、一国の女王にナイフを突き付けていると思っていた時とは違う。
「っ……!」
恐らく、あの時はメイアも少なからず自らの威圧を抑えていたのだろう。
今は違う。まるで、自分の事を羽虫から危険因子と見直したように。
全身へと襲い来る重圧は、最早、重力が数倍になったのではないかと思えるほどだ。
「スズカゼ・クレハ。貴女は何者?」
この問いは、嘗てゼルにもされた事がある。
だが、あの時とは違って自分には立場がある、が、
その立場を与えてくれたのは他でもない質問者であるメイアだ。
現状の、第三街領主、伯爵という地位はここでは役立たない。
なれば、仮初めの経歴を述べるしかないだろう。
「……その、記憶喪失で」
「私が聞いてるのはそういう話じゃないのよ」
「え?」
「もう一度問う。私はそう気の長い方じゃないの。率直に答えてくれる?」
「あ、あの」
「貴女は何者?」
何だ、彼女は何を言わせようとしている。
自分は記憶喪失、というのは確かにでっち上げだ。
嘘と見抜かれても仕方ない事ではある、が。
彼女が聞いているのは自分の経歴ではない、と言った。
では他に何を聞く? クグルフ国での技術提供の事か。
いや、その為だけにこんな場まで用意する物か?
何を、どうして、何故?
「メイア女王。……少しばかり、補足させていただいても宜しいか」
「構わないわ」
リドラの発言にメイアが許可を出し、彼は一歩前へと歩み出た。
この場で唯一、スズカゼとまともな関係性を持っている彼の発言は少しだけながらも彼女を安堵させる。
「森の魔女、全属性掌握者、三賢者。……何にしろ眉唾物が多い話ではあるが、私は仮説上、これに勝るとも劣らない結論を導いた。いや、導き出してしまった」
だが、彼の言葉でも、スズカゼが現状を認識するには至らなかった。
森の魔女や全属性掌握者という話は、随分と前にジェイドから聞いた覚えがある。
けれど、今。リドラはその眉唾物の何かと自分を同列に語った。
それはつまり、自分がそれに等しい存在であるという事だ。
「スズカゼ。貴様が初めて現れたのはサウズ荒野だった。珍妙な恰好をして、奇妙な道具を二つ持って現れた」
「……そ、そうですね」
「そして獣人達の暴動に参加しただけでなく、それを成功させ、地位を会得し、第三街領主となった。さらに第三街に侵入した黒尽くめ集団を撃退し、クグルフ国の問題を解決しただけでなく、国一つを復興させるような提案を出した……。これが、簡単な経緯だろう」
「は、はぁ……」
「それも、あくまで事象の範囲だ。有り得ない事ではない。……だが、どうしても有り得ない事が一つある」
リドラは躊躇うように、一度、唇を噛みしめた。
そして背筋を伸ばし、充血する程に唇を噛み締めて。
彼は、震える言葉でそれを述べる。
「……スズカゼ・クレハ。お前は、人間ではない」
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