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獣人の姫  作者: MTL2
トレアの海賊
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賊が隠し通してきた物

「ほれ」


メタルによって船長室から蹴り出され、カイリュウは転びそうになりながらもそこから出て来る。

彼の視線は怨嗟に塗れており、縛り上げられているというのに今にも食い付いてきそうな程だった。

それをゼルも理解しているのか、メタルに縄端を離さないよう指示を重ねる。


「……カイリュウさんですね」


「何だ、ガキ」


カイリュウの視界に映るのは縄で縛られ、酷く沈んだ眼をした仲間達。

何とも言えない表情で眉根を歪ませるゼルと、たった今、船庫から出て来た獣人。

そして、覚悟を決めた[ガキ]の姿だった。


「カイリュウさん。私は、全てを知りました。そして、それを今ここで言います」


彼女の言葉はカイリュウの表情を豹変させ、彼に牙を剥かせるには充分だった。

スズカゼの喉元を食い千切らんがばかりの勢いはメタルによって抑えられるが、それでも収まる様子は見せない。

地を這いずり怨嗟の声を漏らし顔面を歪ませる。


「ス、ズ、カ、ゼ、ク、レ、ハァアアアアアアアアアアアア……!!」


「……まだ、これを貴方が知られたくない理由は解りません。不殺の理由も予想でしかない。だから、今から言う事は予想です」


「予想で全てを吐き連ねるつもりか……! 台無しにするつもりか!!」


「一度、台無しにしなければ、どうしようもないんじゃないですか」


スズカゼがそう言い放つと同時に、一瞬だけカイリュウの動きが止まる。

彼自身も理解していたのだ。もう巨象がすぐそこまで迫っていることを。

自らの小さな手足が地に縫い付けられ、動く事など出来なくなっていた事を。

もう、どうしようもないことを。


「……構いませんね」


「どうしろってんだ……! テメェ等も[同類]だろうが!!」


「違います」


「どうやって証明する!? あァ!? テメェみたいな口先だけの、何も解ってない野郎共のせいで! こんな事になってんだろうが!!」


「貴方はそんな[こんな事]を止めたいために、今まで海賊なんてしていたんでしょう?」


「あぁ、そうだ! だが、テメェがここで全てを暴露すれば全部……っ!!」


「気付いてください。貴方達はもう、懇願しかしていません」


彼女の言葉は事実だ。

最早、手足を縫い付けられた蟻は巨象に踏まれるのを待つばかりでしかない。

潰さないでください、潰さないでください、と。

蟻は懇願することしか、残されていないのだ。


「スズカゼ、そろそろ説明してくれ。コイツ等の目的は何だ? コイツ等は何で誰も殺さない……、いや、殺さなかった? 何で、ニョーグ殿だけは殺したんだ?」


ゼルは自分が聞きたい事を一挙に吐き出した。

自身の問いにカイリュウや海賊達の表情が歪もうとも、彼は質問を撤回しない。

当然だ。これを、これだけは知っておかなければならないのだから。


「彼等の目的はトレア王国が行っているある行動を阻止することです。殺さなかったのは、何より彼等が奪うという行為を嫌うからでしょう。……そして、そこの人、ニョーグさんでしたか。その人を殺した理由は解りません」


「何でお前はそれが解る? ここに居る間に、何を見た?」


「紙です」


「…………紙?」


「そう、紙です」


何の事か解らないゼルは、ただ頭を捻るしか無かった。

紙、と言われても何が何だか解らない。

スズカゼに決意を持たせ、この状況まで作り出した理由が、紙?


「何の紙なんだ……?」


「それは」


スズカゼの言葉を打ち切ったのは、メタルの唸るような苦痛の声だった。

彼の腹部には深々と拳が突き刺さっており、体はくの字に曲がっている。

嗚咽のような吐息と共に彼は板地に倒れ込み、カイリュウの前身から千切れた縄は解け落ちた。


「しまっ……!」


ゼルが反応するよりも早く。

カイリュウは床板を凹ませる程の踏み込みにより、スズカゼの首元に拳を向けていた。

あと数秒もすれば、彼の望まぬ言葉を吐き出す喉は潰れるだろう。

その数秒があれば、だが。


「ごがっ!?」


カイリュウの拳が殴ったのはスズカゼでは無く、自分が蹴り飛ばしたのと同じ板地だった。

彼は踏み込みの二歩目を出すことなく、勢いよく地面に倒れ込んだのである。


「づっ……!」


自らの片足に感じる違和感。

それを確認しようと足下を見た彼の視界に映ったのは、地面に倒れながらも自らの足を掴む一人の男の姿だった。

額に脂汗を滲ませ、呼吸もままならぬ状態だというのに。

その男は、がっちりと足を掴んで離さない。


「そうか……ッ! そういうッ、事か……ッ!」


息も絶え絶えになりながら、メタルは悔しそうな笑みを浮かべる。

その笑みに含まれる遺憾の意は、果たしてどういう意味だったのか。

ゼルも、或いはスズカゼ自身もそれを理解出来ては居なかっただろう。


「スズカゼ……! お前が見たのは[取引]を証明する何か……、契約書だったんじゃないのか……!?」


メタルの言葉に、スズカゼは一瞬だけ驚愕に目を見開く。

そして直ぐさま、そうですという同意の言葉と共に顎を引いた。


「私が見たのは知らない国の名前と、その王様らしき人物の名前。……そして、奴隷、金、資源という言葉でした」


「止めろぉおおおおおおおお!! スズカゼ・クレハぁあああああああああああああああ!!!」


「彼等が止めようとしていた物、それはーーー……」


カイリュウの絶叫を前にしても、少女の決意が揺らぐことは無い。

大きく息を吸って、その決定的な一言を述べるために。

深く、拳を握り締めて。


「トレア王国の、人身売買です」



読んでいただきありがとうございました

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