海賊団船長の苦難
《海賊船・船長室》
「放り込んどいたか、あの馬鹿共は」
「へぇ、縛り上げて放り込んどきやした!」
カイリュウは部下の得意げな顔に目を細めながらも、下がって良いぞと手を振ってみせる。
それに従い、部下は腰の引けた姿勢で頭を抑えながら退出していった。
その様はお世辞にも頭の良いようには見えなかったが、カイリュウはそれに不満を出す様子は無い。
そもそも、メタルが侵入したのは彼等の誤魔化しが原因なのだが、それについて彼が咎めることは無かった。
いや、むしろ咎める暇すら無かった。
何故なら状況は悪化の一途を辿っているからである。
「どうする……?」
現状、自分は何も出来ることが無い。
いや、無いというのは語弊があるだろう。
やり様によっては逃れる術など幾らでもある。
ならば、その中に目的を達成し、且つ身の安全を守る方法は?
単純に目的を諦める。論外。
スズカゼ・クレハを盾にトレア王国を脅し、目的を達成する。サウズ王国が黙っちゃいない。却下。
スズカゼ・クレハを餌にサウズ王国と交渉。交渉終了次第、こちらに集中放火すれば良い話だ。そもそも、こんな小規模海賊団との交渉で払う額なんざ向こうにすりゃ端金だろう。却下。
いっそのことスズカゼ・クレハを脅しに逃亡生活。トレア王国ならともかく大国まで敵に回して逃げ切れるはずがない。却下。
外部の力ーーー……、傭兵やギルドの力を借りる。大国を敵に回す馬鹿は居ない。却下。
「……仲間全てを見捨てて俺だけ逃げる」
その言葉を口に出し、カイリュウは馬鹿馬鹿しいという言葉を付け加えると共に、自嘲めいた笑みを見せる。
そのような事をしては意味が無い。
いや、或いはそれも良いだろう。仲間も所詮は捨て駒にしても構わない存在だ。
自分も仲間も、捨て駒にして良い。
そう、目的を達成するためならば、あの国の秩序を崩壊させるためならば。
あの国を壊してやるためなら。何だってしてやろう。
その為に俺達が集まった。俺達、ゴロツキ共が集結した。
全てを壊し、作り直すために。
「……全てを」
彼は覚悟を定めるように、強く拳を握り直す。
決して離さず、己の内に縛り付けるように。
そして、それを祝福するかの如く。
いや、否定するが如く。
ッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
祝福の、否定の大砲は鳴り響く。
「なっ……!」
カイリュウですら立っていられなくなるほどの大激震は船を揺らし、転覆するのでは無いかと思うほどの震動が横殴りしてきたのだ。
大砲で撃たれた? いや、そんな衝撃では無い。
言うなればもっと大きな……、それこそ別の船でも全速力で突貫してきたかのような衝撃だ。
大きさ的にはこちらと同等、いや、それ以上。
恐らくはトレア王国の軍隊だろう。まさかあの腑抜け共が追いかけてくるとは。
「お、お頭ぁ! ふ、船がぁ!!」
「解ってる。行くぞ」
カイリュウは指の突き出る手袋を填め、部下の脇から廊下へと出て行く。
彼の表情は剣呑としており、とても穏やかとは言えない。
当然だ。敵が奇襲を掛けてきたのは明らかなのだから。
「敵の数は?」
「3です!」
「3? ……船は捨て駒にしやがったか」
「そ、そりゃぁ、もう! 船なんて見る影も形も……」
「対応は?」
「い、今は全船員で囲んでますけど、アレ、見るからに強そうで……」
「……見張りは何をやってた。来るまで気付かなかったのか」
「あ、あんなの気付けませんって!」
「気付けない、だと?」
気付けない、とはどういう事だ?
捨て船にしたという事は新船では無い……、廃船と見間違えたのか?
いや、それでも何らかの騒ぎはあるし近付いてくれば報告ぐらいはしたはずだ。
そもそも3人というのも気掛かりではある。
あの小娘がスズカゼ・クレハであり、サウズ王国第三街領主というのはトレア王国で開かれたパレードからして間違いない。
ならば、あの時、周囲に居た連中が護衛だったと考えるのが筋だ。
片腕が鉄の義手である男と言えばサウズ王国騎士団長、ゼル・デビット。
その隣に居たらしい獣人は何者か解らないが……、ただ者ではないはずだ。
……しかし、そうだとすれば3人目は誰だ? 他に居たのと言えば、今頃は倉庫で縛り上げている男しか居ないはずだろう。
「まぁ、良い。俺が相手をする。お前等は下がってろ」
「け、けどよぉ、お頭ぁ」
「俺でも勝てるとは思っちゃいねぇ。だが、ここは海の上だぜ? 海賊の方が何倍も有利だ」
完全に手袋を填め終えた彼は甲板への扉を開け放つ。
後ろからおどおどと着いてくる部下とは違い、彼の纏う雰囲気は堂々とした物だった。
ここは俺の船だ。余所者にはお帰り願おう。
そう言わんばかりに威圧的な雰囲気を纏って。
「……は?」
だが、彼のその威圧的な雰囲気は一瞬で崩れる事となる。
自分が立てた予想はこうだった。
スズカゼ・クレハの護衛含めた3人が大型の船でこちらの船に突貫。
捨て船……、つまり船を完全に捨ててこちらの動きを止め、その隙にスズカゼ・クレハを救出するつもりなのだろう、と。
後は捨て船に積んであった小舟で逃げるか、それともこの船を奪うか。
……と、カイリュウはこんな風に予想を立てていた。
至極真っ当で、至極当然の予想だ。
それが、どうだ。
いざ光景を見てみれば……。
「……何だ、こりゃ」
海賊船に衝突した船など何処にもなく。
その代わりに、甲板に深々と突き刺さった小さな木船があった。
木船の前に立つ男は間違いなくゼル・デビット。
……と言うことは、何か。この連中は空から振ってきたのか?
あの衝撃とこの光景からして、揺れの原因は木船だろう。
だとしても甲板に突き刺さるというのはどういう了見だ?
「飛んできました、あれ」
「飛んできたのか……?」
「だから気付けなくて……」
余りの超越で突拍子もない出来事に、カイリュウは思わず顔を押さえる。
何が起こったかも解らないし、相手の実力も詳細的には不明。
甲板に船は突き刺さってるし逃げ場はないし解決策もない。
「……面倒だよなァ」
顔を押さえた掌で髪の毛を擦り上げて、男は天を仰ぐ。
燦々と輝く太陽を沈める蒼は宝石のように美しい。
自分達が立っているこの海は、もっと美しい。
「あぁ、全く」
ならば、達成するしか無い。
目的を達成するしか、無いのだ。
「面倒だ」
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