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獣人の姫  作者: MTL2
トレアの海賊
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別荘での平穏

【リドラ別荘】


「…………」


スズカゼは目の前に置かれた木箱を開け、その姿を見る。

そこに入っていたのは衝撃を和らげるための藁と赤白入り交じった大きな卵だった。


「アイラブメイドさんッッ!!」


両手を仰々しく開き叫ぶ少女。

そんな彼女の反応にデイジーが小さく悲鳴をあげるが、特に響く事もなく空中へと消えていった。

と、ここまで見れば彼女がただの変人にしか見えないだろう。大方、間違っていないが。

話は一週間前に遡る。

リドラ邸宅で余りに暇な時間を過ごしていた彼女は、遂に我慢できずデイジーの入浴に突撃するようになった。

流石にゼルに咎められ仕方なく訓練などを開始するも、ついついやり過ぎてしまい、吐血する始末。

大事にこそ至らなかったが、見かねたリドラがサウズ王国のメイドに連絡して卵を届けて貰った、という訳だ。

因みに、大量の宿題を用意しかけていたジェイドが残念そうに肩を落としたのは別の話である。


「ど、どうしたのですか、スズカゼ殿」


「卵が来たんですよぉー! あー! アイラブエッグゥ!!」


「そ、そんなに待ち遠しかったのですか?」


「そりゃぁ、もう! 食事も喉を通るほどに!!」


「通っているではないですか……。し、しかし! そんなに愛おしい卵が来たならもう私の入浴は覗かないのですね!!」


「それは保障できないですね」


「何故だぁあああああああああああああ!!」



【トレア海岸】


「どうかしたのか?」


「……いえ、何か悲痛な声が聞こえたような」


一方、こちらはゼルとサラ。

彼等は現在、海岸線を巡回している。

と言うのも近隣の住民から海賊が出没しているーーー……、という噂を耳にしたからだ。

リドラ邸宅に居ても特にやる事も無いので、こうして自衛の意味も込めて見回りを行っているのである。

とは言え、所詮は巡回や見回り程度の物だ。

本腰を入れて調べようというわけでもないし、精々、自衛が達成できればそれで良いという腹づもりである。


「ちょいと、旅人さん」


と、そんな彼等に漁師らしい男から声が掛かる。

らしい、と言うのは確定的ではないという意味合いだが、その頭に巻かれた鉢巻きと筋肉質な腕、黒く焦げた肌から漁師と思われるのだ。

そんな男にサラは笑顔のまま、何ですかと言葉を返す。


「アンタ等、見ない顔だけど夫婦か何かかい?」


「冗談は止してくれ。こんな小娘、嫁に迎えようとは思わん」


「酷いですわ団長~。私は満更でもないのですけれど」


「抜かせ」


「仲が良いのに違いは無いんだな。……まっ、こうして未練がましく浜を歩いている所を見ると、やられたんだろう?」


「やられた? 何が?」


「ほら、荷をだよ」


ゼルとサラは話の流れが理解出来ず、互いに顔を見合わせる。

漁師の表情から見るに騙そうとしている様子はないが、それでも話の意味が解らなければどうしようもあるまい。


「ちょっと、詳しく聞かせてくれないか」



【リドラ別荘】


所戻ってリドラ別荘。

そこにはチェス盤に向かって首を捻るハドリーと、気軽に紅茶を嗜むリドラ。

そして大量に積み重なった資料の束を整理するジェイドの姿があった。


「どうだ、ジェイド。スズカゼの宿題は」


「駄目だな。姫にはまだこの問題は難し過ぎる」


「難儀な事だ。何なら私が作ろうか」


「貴様の作る問題は難し過ぎる。そうする暇があるならハドリーのチェスの相手を真面目にしてやれ」


「良いのか。すぐに終わるが」


「す、すぐには終わりませんよぅ!」


そう言って彼女は駒の一つを前に押し出すが、数秒も経たない内にリドラの駒尻によって番外へと叩き出される。

傍目に見ても実力差は明らかで、ハドリーはもう既に絶望に満ち溢れた表情となっていた。

そんな彼女を嘲るようにリドラは盤上から視線を外し、再び資料の山に埋もれる黒へと視線を向ける。


「しかし、この辺りも物騒だな。海賊騒ぎがあるそうではないか」


「海賊か。サウズ王国は海から遠いし、そう耳にはしなかったがな。……貿易面にも被害が出ているだろうに。陸送では駄目なのか?」


「あの[荒野の暴走者]とまで言われる行商人の腕と貴族専用の偽装獣車を持ってしても数日から一週間かかる距離だ。言い分は解るが、費用面と時間面から考えるとどうしても……、な」


「ふむ、なるほど」


ジェイドは首肯で彼の会話に終了点を打ち、一度ペンを置く。

長らく動かし過ぎて疲れた腕をぶらぶらと揺らしながら、ため息代わりと言わんばかりに周囲を見渡した。

当然のこと、変わったような物は目に入らなかったが、それでも充分ため息代わりにはなる。


「異変が無いのは良い事だ」


近頃の異変続き、いや、この頃の異変続きは相当な物だった。

こうして平穏に、何もなく時間が過ぎ去っていくというのは何物にも代えがたい。

願わくば、この時間が続いてくれると信じてーーー……。


「おい、手紙が来ていたぞ。トレア王国からスズカゼに正式な招待状だ」


ファナが扉を開くと同時に言った現実はジェイドの目を遠く細めさせる。

リドラとハドリーもまた、盤上の駒を動かす手を止めて大きくため息をついている始末だ。

全くどうして、こうも平和が続かないのだろうかーーー……、と。



読んでいただきありがとうございました

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