閑話[北の一団は海を眺むる]
【海岸線】
「海が綺麗ねぇ。私達の国とは大違いだわ」
「そうですねぇ。氷の張ってない海というのは蒼くて綺麗だ」
一方、こちらはスノウフ国の一団。
彼等の帰路ルートは森林付近に進むはずなのだが、本人達の要望によって遙か遠回りをしてまで海沿いを通って帰っているのだ。
獣車の操縦者としては労働過多だが、四天災者を背にした一国の長に笑顔で頼まれては断れなかったのだろう。
「けれど、さっきはどうして急に止めたのかしら? 周りには何があるようにも見えなかったけれど」
「海に綺麗な貝殻があったもので」
「あらそうなの。どんな物かしら」
「それが、まだ住人が居ましてね」
「それは持って来ちゃ駄目ねぇ」
「えぇ、いやはや全く……」
無論、嘘である。
彼は貝殻を拾い行く程度の時間でイーグの放った[灼炎の猟犬]を破壊したのだ。
あくまで偵察用に放った物なので戦闘力は本来の物に比べれば劣るだろう。
とは言え、流石に一撃やその程度で倒せる程に柔いはずもないのだが。
「しかし、今回の会議……、中々有意義とは言えませんでしたね。僕としては、もう少し劇的な物と思っていたんですけど」
「あら、そんな事はないわよ。とっても有意義だったわ。だって、あんな良い子に出会えたんですもの」
「サウズ王国第三街領主の彼女の事ですか。傍目に見ていると祖母と孫でしたよ」
「独身の私には嬉しいわねぇ。孫なんて一生見ないと思ってたから」
「そう言っていつもピクノを構っているじゃないですか。あの子、最近は貴方に構われすぎて申し訳なくなってるみたいですよ」
「あらあら、遠慮しなくても良いのに。あの子はもっと勉強をしなければねぇ……」
あぁ、アレは遠慮じゃなくて普通に嫌がってただけなんだな、と思いながらもダーテンは愛想笑いを返しておく。
この人は傍目には本当に愛想の良い老婆にしか見えない辺り、タチが悪くもあり有り難くもある。
何故ならそれは、親しみやすくもあり恐れられやすくもあるからだ。
「ピクノについてはガグルやキサラギも居ますし、教育については他の面々に任せても良いのでは?」
「そうねぇ。ラッカルも居る事だし」
「……ラッカル・キルラルナですか。彼女は彼女で色々と問題がある気がしないでもないのですが。得にピクノ相手では」
「うん? あの子はとっても良い子じゃない」
「良い子と言うか、スズカゼさんが孫なら彼は娘では……?」
「私から見れば子、でしょう?」
確かにそうですが……、とダーテンは口籠もる。
ラッカル・キルラルナ。その人物はスノウフ国の聖堂騎士団副団長だ。
少なからずダーテンが口籠もる時点でお察しだろうが、まぁ、ろくな人物ではない。
「それはともかく、スズカゼさんと会えた以外に収穫はありましたか? 僕は政には詳しくないから、大きいことは言えないんですよ」
「それは暗に何かを掴んだ、という事で良いかしら?」
フェベッツェの笑顔は同意しか求めていない。
応えるが如くダーテンも微笑むが、それは彼女の笑顔の求める物を示していた。
それが何なのかを口にしない辺り、彼の掴んだ事は気軽い物ではないのだろう。
「海が綺麗ですねぇ」
「えぇ、全く」
しかし、それは。
口にする必要が無いという意味も、あるのだ。
読んでいただきありがとうございました




