閑話[西の一団は猟犬にて他を見ゆる]
【荒野】
トレア海岸やトレア森林よりも西。
名も無き荒野には一台の獣車の姿があった。
外見こそ行商人や旅人のそれだが、中に乗っているのはそれ所ではない人物達である。
「……」
その人物の一人が閉じていた瞳を開き、静かに頷きを見せる。
紅蓮の頭髪を持つ人物の動作に、彼の眼前に座す初老の男性は前屈みとなって興味深そうに問いを掛ける。
「どうだった? イーグ」
「何とも言えないな。当たり障りの無い会話だけで終わっただけだ」
「……ふぅむ。ネイク、君はどう思う」
「どう、と言われましても……」
彼等が監視していたのはトレア森林で会合していたヴォルグとバルドだ。
各国に怪しまれていたギルドの統括長と一国の側近の会合。
疑わない方がおかしい話で、その通りに彼等は監視を行っていたのである。
……尤も、この監視は彼等だけに付けた物では無い。
サウズ王国の一団にもスノウフ国の一団にもシャガル王国の一団にも。
猜疑心以前に、当然の行為なのだ。
各国の、どの国が原因かも解らない以上、監視を付けるのは必然である。
「私としては疑う必要性はないかと存じます。サウズ王国は最も被害を受けている国でもありますし、会話も暗号的な物がない限りは……。自作自演としても考えにくいですし」
「まぁ、そう考えるのが普通かな。イーグ、君は?」
「同様だな。そもそも、あのメイアウスが誰かと手を組み姑息な方法に走るなど考えられん」
「四天災者同士、通じる物があるのかな?」
「……一国を滅ぼす力を持つ人間が、国同士を繋ぐ鎖を丁寧に磨くのかどうかという話だ」
「はっはっは、それもそうだね」
納得、した様に見えたのは言葉だけだろう。
その濁った眼は未だ思案を続けている証拠だろう。
確かに彼等の言う通り、可能性は非常に低い。
だが、ネイクも付け足したように暗号を使用してれば端には当たり障りの無い会話に聞こえても、実際は何らかのやり取りである可能性がある。
「引き続き、各国の監視を続けてくれるかな」
「了解した」
イーグは再び瞼を閉じ、静かに顎を落とす。
彼の意識の一部は偵察用の[灼炎の猟犬]へと移り、大地を駆けて森を飛び、全てを視界に収めるのだろう。
四天災者が放った猟犬だ。例え発見されたとしても容易に消されるはずはない。
「……む」
「どうした?」
「スノウフ国の監視に付けていた[灼炎の猟犬]が消えた。気付かれたようだな」
「恐らくはダーテン・クロイツでしょうね。イーグ将軍と同じ四天災者なら気付いてもおかしくはない」
「元々、奴はそういう類いの戦士だからな。おかしくはあるまい」
「成る程。これはスノウフ国が怪しいかな?」
「心にも無い事を言うなよ、バボック。ダーテンの事だ、疑う必要は無いというアピールに過ぎんのだろう」
「ははは、四天災者は怖い怖い……」
嘲るように肩を竦めながら、彼は保存食らしい干肉を摘む。
実際のところ、彼が怖いなどという言葉を吐くのは馬鹿馬鹿しい話だ。
戦闘面以外の話に絞るのなら、この男よりも恐ろしい存在など、そうそう居ないのだから。
「……北は除く。東と南のみに絞るが、良いな?」
「あぁ、構わないよ。と言うか、もう監視も要らないかも知れないねぇ」
「先の命令と矛盾してますよ、大統領。いい加減に気紛れで命令をするのは止めていただけませんか」
「何、今のは感想さ。命令じゃぁない……。命令じゃぁ、ね」
ぽりぽりと、煙草のように干し肉を上下に揺らすバボック。
そんな彼の様子を見て、ネイクもイーグも、呆れたようにため息をつく。
全く、この男の言葉一つ一つが酷く面倒で、酷く底暗い物だ、と。
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