条約会議の始まり
「今回の条約発案者はベルルーク国大総統、バボック・ジェイテ・ベルルーク。護衛としてイーグ・フェンリー将軍。そして進行役はベルルーク国軍ネイク・バーハンドール少佐よ」
「お手柔らかにね」
「……ふん」
「よろしくお願いします」
メイアの紹介により、気軽い笑みを浮かべたバボックが微笑み、肩を強張らせたネイクが一礼する。
彼女が続けて言葉を述べようとすると、それを遮るようにバルドが引き継いだ。
彼女は彼のそんな行為に不満げな視線を向けたが、バルドはその目線を無視するように、にこやかな笑みを浮かべて紹介を始め出す。
「参加していただきましたのは、スノウフ国からフェベッツェ・ハーノルド教皇様。護衛としてダーテン・クロイツ様」
「よろしくねぇ」
「まぁ、仲良くしようじゃないか」
「シャガル王国よりシャーク国王と護衛のモミジ様……、だったのですが、モミジ様は御退出なされたのでシャガル王国はシャーク国王お一人となります」
「どーせ、ウチには軍事力も糞もねぇしな。精々、不利にならない程度の話にはさせて貰うぜ」
「それは結構。……そして我々、サウズ王国からはメイア女王と護衛として私、バルド・ローゼフォン。特別参加のスズカゼ・クレハ第三街領主伯爵、護衛のゼル・デビット騎士団長となります」
「……よろしく」
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしく」
「以上が今回の条約会議参加者になります。それではネイク少佐、引き続き条約について、どうぞ」
「ありがとうございます」
謝礼と共に軽く頭を下げ、ネイクは皆に条約についての資料を配る。
スズカゼの手元にも配られたその資料だが、何だか訳の解らない文字やグラフと言って良いのかどうかも解らない図案などがびっしりと並んでいた。
まるで現世で言う所の会社総会のような光景……、と言うか、これも議会ではあるのだが、これが各国首脳会議というと現世と大差ないようにも思える。
事実、ネイクが坦々と説明する言葉こそ理解出来るが、何処を説明しているのか何を説明しているのかが全く解らない。
場違い、という言葉がぽんぽんとスズカゼの脳裏に浮かんでくる。
「……と、概要はこんな所です。実際は前回の条約と大差ありません。再締結による牽制が目的ですので。何か、ご意見は?」
「特になし」
「同じく」
メイアとフェベッツェはその条約について同意の旨を示すが如く頷いたが、シャークだけは眉根を寄せて腕を組んだまま動かない。
何か問題があったかな、というバボックの言葉に、彼は唸るような声を漏らす。
「問題があるって訳じゃねぇんだけどよォ。……お前等、もうちょいウチの資源買えよ」
「魚介類や鉱物かい? 確かにシャガル国は四大国の中で最も資源は豊富で、それを武器としているが……、購入を強制されてもねぇ?」
「こればかりはバボックにも同意ね。ウチも別に資源に困ってるわけでもないし」
「……そうねぇ、スノウフ国としては少し資源不足気味だし、さっきの水着のお礼も兼ねて少し量は増やそうかしら。構わないわね? ダーテン」
「えぇ、フェベッツェ教皇の意見ならば僕も従いましょう。民も安堵しますよ」
「北はOK,と。……だっがよぉ、一番買わなきゃならねぇのは西じゃねーのか?」
「ほう? その意図を聞かせて貰おうか」
「[準備]が居るだろ?」
その言葉に、一瞬だけネイクの指先がぴくりと動いた。
それに気付いたのは護衛の面々とメイアのみだったが、全員が同じ事を考えただろう。
今の指がもし理性によって止められなければ、きっと武器を掴んでいただろう、と。
「腹芸を止めろ、と言ったのはそちらではなかったかな? シャークよ」
「こりゃ[腹芸]じゃなくて[気遣い]っつーんだよ、バボック。何なら単刀直入に言ってやろうか? 戦争を起こすための準備が必要じゃないんですかー、ってな」
その一言を切っ掛けに、ネイクの理性は完全に取り払われ、彼の双銃の一丁がシャークの顔面へと向けられる。
彼の行動は余りに一瞬であり、スズカゼは銃をケースから取り出す動作など見えず、ただ気付けばネイクがシャークの眉間を狙っているように見えた。
それ程の刹那だというのに、会議場は既に戦闘態勢へと入っている。
護衛の面々は既に自国の長の前に立って出ており、イーグの手はネイクの首元へと掛けられていた。
スズカゼの視界も、いつの間にかゼルの背中に遮られていたほどだ。
「……失礼、シャーク様。虫が居たもので」
「虫なら仕方ねーな。ただ、俺は南国育ちのせいで虫は特に苦手じゃねーから気を遣わなくても良いぜ」
「それは失礼しました。以後、気を付けます」
ネイクが銃をケースに仕舞うと同時に、周囲の護衛達も自らの場所へと戻っていった。
彼が進行者の場に戻ると、再び議会は何事も無かったかのように続けられ始める。
「……あ、あの、ゼルさん」
「言いたい事は解るが、そりゃ無意味だ。シャークがあの反応を返した時点で今の一件はチャラになる」
そう、シャークがあの場で問題として取り沙汰にしなかった時点で、先刻の出来事は無かった事にされるのだ。
それがシャークの選択でもあるし、この場での最良の手段でもある。
相手の腹のまさぐり合いに置いて踏み込みすぎた代償とでも言うべきだろうな、とゼルは言葉を付け足してスズカゼに説明した。
「まぁ、先程の話題については否定するよ。こちらとしても軍備増設の目的は自衛の為だ。……もし戦争を起こしたいのなら、別に同盟を持ちかけているさ」
「……だと良いがな」
未だ不満の残る様子でシャークは進行者へと手を翳してみせる。
それはもう意見はないという意味であり、同時に条約締結の瞬間でもあった。
だが、そこまでは何ら問題無く進むであろうとこの場の、スズカゼを除いた誰もが思っていた事だ。
本題はここからである。
「それでは本題に入りましょう」
その本題こそ、スズカゼがこの場に呼ばれた理由でもあり、今回の会議の本来の目的でもある。
そう、世界の基点とも言えるこの場で離すべき、本当の話題。
「……世界の異変について、です」
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