蒼海の砂浜
【トレア海岸】
「海だぁあああああああああああああッッッッッッ!!」
少女は満面の笑みで叫びながら、砂浜に足跡を刻む。
彼女の眼前に広がるのは現実世界では写真や絵画でしか見たことがないほど美しい蒼の海、海、海。
何処までも広がる、人工物と言う言葉とは無縁の蒼穹の世界だった。
「ぃやッフゥウウウウウウウウウウウ!!」
水着姿の彼女は何の迷いもなくその世界へと飛び込んだ。
宝石のような水飛沫が舞い散り、蒼は彼女を包み込む。
全身を心地よい冷たさが駆け抜け、髪先まで爽快感が突き抜ける。
「……元気だな、アイツ」
「若いって良いなぁ」
それを眺めるゼルとメタル。
彼等も決して老齢という訳ではないのだが、ここまでの長旅のせいで腰を痛めているのだ。
それを物ともせずに騒ぐ辺りが若い、という事なのだろう。
「うふふふ。団長もメタルさんもまだ現役でしょう?」
そんな彼等を諭すように、スズカゼと同じく水着姿のサラが姿を現した。
スズカゼと同じビキニという類いのそれなのだが、一部容量が桁違いである。
彼等から少し距離を取りながらも日よけの傘を張っている他の人物達が思わず彼女に視線を集める程だ。
「俺も泳ごうかなぁ」
「あら、まず感想がそれですの? 女性として悲しいですわぁ」
「いや、お前の体見て何を言えと……」
無論のこと、彼等の反応は正常ではない。
一般的な男ならば他の海水浴に来ている人々が如く、彼女に鼻の下を伸ばすことだろう。
だと言うのに、この二人は海が綺麗だなぁだとか泳ぎたくなってきただとかの感想を言うばかりで、サラの欲情的な身体に関する感想は一切なしである。
この二人の場合、見栄を張っているのでなく本当に興味が無いと言い切れる辺り、男として色々危ない気がしないでも無い。
「胸もお尻もスズカゼさんより大きいですわよ?」
「「戦うのに邪魔だろ」」
「……男性のはずなんですけれどねぇ?」
小首を傾げる彼女の前に、一通り海を堪能したスズカゼが戻ってくる。
全身を蒼の宝石で濡らした彼女は清々しい面持ちだが、その全身を流れる宝石は摩擦を無くしたが如くつるーんと落ちていく。
いや、摩擦が無いのでは無く引っ掛かる物がないのだ。
「あら、スズカゼさん」
海から上がった彼女は髪を掻き上げながら、清々しい笑顔でサラの双丘に掌を打ち付けた。
ばちぃん! という音とサラのきゃっ! という小さな悲鳴。
水着が舞い落ちた事による他の海水浴へ来た人々の大歓声。
これらを一度に前にしたゼルとメタルは取り敢えず現実から目を背ける事とした。
「何するんですかぁ!」
「うっさいわ。デカいスイカぷるんぷるん揺らしおって。そのデカい桃舐め回すぞ」
「色々とアウトだな。女として」
「今更な気がしないでもないが」
サラは落ちた水着を急いで拾い上げて素早く着直す。
彼女の赤面した顔と周囲の人々のため息など何処吹く風。
スズカゼはゼルの隣に座って、荷物から飲み物、簡素な水筒のような物を取り出した。
「サラさんもファナさんもぷるんぷるん揺らしおってからに。私の仲間はデイジーさんとハドリーさんだけやで……」
「悲しい仲間だな……」
「止せ、メタル。無駄な言葉は死を招くぞ」
「そのレベルなのか……」
やけ酒が如く飲料水をガブ飲みするスズカゼを横目に、ゼルとメタルは深くため息をつく。
そう言えば、と前置きしてメタルは周囲を見回しながら疑問の声を出した。
「そのデイジーとハドリーが……、いや、メイアやバルド、ファナ、ジェイドの姿もねぇぞ? 序でに西連中も居ねぇし、別荘持ちのリドラは何処に行ったんだ?」
「そりゃ、お前……」
「彼等はリドラの家に居る」
メタルの疑問に答えたのは海水浴パンツ姿のジェイドだった。
漆黒の体毛にアロハという、微妙に合っていない柄にメタルは困惑したが、彼の質問はゼルが受け継いで話を続ける。
「アイツ等は会議をリドラの別荘で行うらしいから、側近として残ってんだろ。……つーかお前、話聞いてたんじゃないのか?」
「いや、どうでも良い話とか一分で忘れるんで……」
「相変わらずの馬鹿さ加減だな……」
「要するに彼等はこの様な遊戯場には来ない、という事だ。そもそもリドラの別荘はこの近場にあるだけで、決してこの海が私有地ではないのだからな」
「あぁ、道理で他の海水浴に来た奴等が居ると……」
「当然だろ。一子爵にどんだけ財の余裕があると思ってんだ」
「イメージ的には片手にワイン転がして笑ってる感じ」
「お前、ホントどんなイメージ持ってんだ……」
彼等の議論は次第に貴族像の話題に移り変わっていくが、その隣で飲料水を飲んでいたスズカゼは水筒を置き、サラへと語りかける。
そもそも、どうしてメイア女王やバボック大統領まで来たのか、と。
「先程、団長が言っていたように会議ですわぁ」
「何のですか? それに、そもそもサウズ王国ですれば良いのに」
「私も詳しい事は解らないんですけれど、何か重要な事なんでしょう……、ねっ!」
先程のお返しだ、と言わんばかりにサラの手がスズカゼの胸へと伸びる。
素早い動きで眼下にある彼女の、胸に当てられた水着の結び目を狙ってだ。
だが、それは余りに愚かな行為と言えよう。
「……あれ?」
気付けば、自分の双対の桃色が露わになり、周囲の視線を総なめにしていた。
眼下の少女に手には先程まで自分の胸を覆っていたはずの水着が掴まれて居るも、表情に変化は無い。
「知ってますか? 巨乳は貧乳より弱いんですよ」
再び響き渡るサラの悲鳴と観衆の拍手喝采大歓声。
それを風の音だとでも言うように遠い目をした男三人衆は先の話題を一時打ち切って、小さく呟いた。
「ジェイド、お前の姫だろ。何とかしろよ」
「……今日は良い天気だな」
「逃げたか」
「逃げたな」
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