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獣人の姫  作者: MTL2
四つの国を結ぶもの
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少佐の違和感

「いやぁ、お見事!」


騎士達に混じり、バボックは勝者に拍手を送る。

彼の称賛の言葉は騎士達の豪勢に掻き消されるが、それを気にする様子はない。

いや、むしろ掻き消されるのを都合が良いことに、ネイクへと声を掛ける。


「……殺す気で行っていたね。スズカゼ君は」


「そうですね」


騒音の中に掻き消える、彼等の声。

会話が他の騎士団の耳の中に入ることは無く、喧騒の中に消えていくからこそ、彼等は何を気にするでもなく言葉を交わす。


「戦法だの戦闘だの、私は特に解らないんだけどね。それでもあの子が君やイーグのような気配を纏っていたのがよく解ったよ」


「もし、ゼル・デビットが義手でなければ頭に風穴を開けていたでしょう。大総統の言う通り、彼女は本気で彼を殺しに行っていました」


「何故だろうね。戯れなのだから、真面目にやる必要など無かったのに」


「……解っていたのですか?」


「うん? まぁね」


彼の性格の悪さを再認識しつつ、ネイクはゼルの気苦労に同情する。

それはそうとしても、やはりスズカゼの行動は理解出来ない。

今し方。バボックの言った通り、この試合は適当に終わらせれば良かったはずだ。

だと言うのに彼女は真面目に、所か、ゼルを殺しに行っていた。

まさか私怨があった訳でもあるまい。少なくとも、自分の目には彼女とゼルは良い協力関係に映った。

だからこそ、解らない。彼女がどうしてゼルを殺しに掛かったのか。


「では、私は彼等に称賛の言葉を掛けてくるとしよう。君も来るかね?」


「……いえ、私は少し疑問がありますので遠慮します」


「そうか。では、行こうかな」


バボックは席を立ち上がり、腰を摩るスズカゼと、彼女を呆然と見詰めるゼルへ近付いていく。

彼の意識が完全に自分から逸れたのを確認し、ネイクは視線を訓練場の端へと移す。

そこでは気を沈ませた女性の姿が二つあった。


「失礼、よろしいか」


彼等の試合を見ていなかったであろう、その二人の女性。

確か名前はデイジーとサラだったはずだ。

片方は第三街領主スズカゼ・クレハに会っていたし、彼女ならば良い話を聞けるはずだ。


「……あら、貴方は西の」


「ネイク・バーハンドール。地位は少佐です」


彼は一礼と共に背筋を正し、彼女達を真っ直ぐ見る。

デイジーは思わずたじろいだようだが、サラは依然として笑んだままだった。

彼女達は彼の眼光を跳ね返すように自らも背筋を伸ばして自己紹介を返す。


「少しお話をお伺いしたいのですが」


「結構ですけれど、私達は騎士団の中でも末端ですわぁ。そんなに良い話はお聞かせできませんけれど?」


「いや、腹の探り合いではないのです。単純に、疑問として」


「そ、それは何であるのですか」


「スズカゼ・クレハ殿についてです」


「す、スズカゼ殿ですか? 何を……」


「彼女について、少し知りたいのですよ」


デイジーは微かに両頬を赤くして困惑するが、間違いなく勘違いですわ、とサラが彼女の尻に掌を打ち付ける。

ひゃうっという華奢な声と共に、デイジーは思いっ切り背筋を仰け反らせた。


「先程の試合はご覧に?」


「いえ、デイジー……、彼女を落ち着かせるのに手一杯でしたわ」


「うっ……」


気まずそうに視線を逸らすデイジーだが、ネイクは好都合です、と前置きした上で問いを述べだした。

彼の問いは単純な物で、スズカゼ・クレハは人を殺せるか? という物だった。

無論のことデイジーもサラも即座に首を横に振る。

そんな事は有り得ない、彼女は人を殺すような人間では無い、と。


「そうですか」


短く区切るようにそう言うと、ネイクは一礼して元の場所へと戻っていった。

質問はそれだけですか? とサラが声を掛ける暇もなく、彼は騎士達の中へ消えていく。

彼が何を聞きたかったのか、その意図は何だったのか。

デイジーもサラも、それを理解する事は出来なかった。


「……ふむ」


困惑する彼女達を残し、再び物見席へと戻ったネイク。

彼はバボックとゼルがまた腹の探り合いをするように言葉を交わしているのには視線を向けず、その隣で苦笑している少女に向けていた。

確かに見た目からしても、ただの町娘。とても人を殺すような目をしていない。

だが、先程見たのは確かに命を絶つ者の目だった。

戦場で生命の頸を絶つ、狩人の眼光だったはずだ。


「奇妙だ」


戦場と普段生活で目を変える人間は少なくない。

いや、むしろ心の拠り所では優しさを見せる者は常に殺気を放つ者より多いはずだ。

だが、彼等は何時如何なる時でも、少なからず殺気を持っている。

それは自衛の為の物と思われるが、スズカゼ・クレハは違う。

彼女は普段から殺気を持つような人間ではなく、先程の騎士達の話からも、獣さえ殺せないような甘子だ。

それが太刀を振るい、仲間の首を跳ねようとするだろうか?

いや、するはずがない。出来るはずがない。

それを知っているからこそバボックは彼女に目を付け、イーグは彼女に力を与えたのだから。


「……少し、調べなければならないな」


ネイクは踵を返し、訓練場から足早に退出していく。

未だゼルとスズカゼへの称賛が止まない訓練場内の人々は、誰一人として彼の動きに気付いていない。

そう、王城を目指す、彼の動きに。



読んでいただきありがとうございました

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