条約会議
「端的に言おうか、メイアウス」
長ったらしい話などする気は無い。
そう前置きを行った上で、イーグは言葉を述べた。
敢えて女王と付けず、メイアウスと呼んだのは嘗ての関係性を持って。
即ち、戦争時の殺し合いをしていた時の関係性を持った上での言葉だ。
それが指し示すのは自分はいつでも殺し合いを始めても良いぞ、という意味で。
「同盟を組め」
彼の言葉はメイア女王の予想通り、充分十割重要に、予想通りだった。
ゼルから報告を受けたとおり、やはり彼等は戦争の準備を進めている。
同盟など,正しくその証明になる言葉ではないか。
「断るわ」
「話は最後まで聞け。……何も、貴様の予想通りに話を進める気などない」
バッペル酒をくいっと喉に流しながら、イーグは軽く息を落とす。
横でボンボ鳥の焼き鳥を大食いする手を止めた男など無視して、彼はメイアの予想通りに進まない話を進める。
「同盟と言っても不可侵、助力、貿易融通を……」
「それは充分に戦争で効果を得る物でしょう。いえ、戦争のための条約その物と言っても良いわ」
「言ったろう。話は最後まで聞け」
「……続けなさい」
「先程言った、不可侵、助力、貿易融通を破棄した条約を結びたい」
「……四国対戦が終了した時、適当に結んだ条約を破棄する、と?」
「まさか。いや、ある意味ではその通りではあるがな」
「その条約を破棄すれば、確かに表面上的に我が国に攻め入ることは出来る。……けれど」
イーグの持つ器がひび割れ、微かに残ったバッペル酒の雫が地に落ちる。
器の破片は周囲に飛び散り、ぱりんと金属音を立てた。
魔術や魔法どうこうで割られたのでは無い。
ただ純粋に、殺気により溢れた魔力の雫が、器を砕き割ったのだ。
「私の居る国に、私の国に、手を出せる……、と?」
「昔から忙しい所は何も変わらんな。何も、破棄してそのままにする訳ではない」
「どういうこと?」
「その条約を破棄して、再度、同じ条約を結ぶ。より強固に、不可侵の部分を強化してな」
「ちょ、ちょちょちょ待て待て待て!」
慌てて、彼等の会話に先程までボンボ鳥の焼き鳥を大食いしていた男が口を挟む。
彼は決して頭が良くないが、そうで無かったとしても今の会話の意味を理解するのは不可能だろう。
不可侵を強く結ぶとしても、どうしてそれを一度破棄する必要がある?
そのまま新しく更新すれば良い話だ。
「貴様の言いたい事など、大抵の予想は付く。……この条約の意味は」
「更新では無く、再度結ぶこと。そうでしょう?」
「あぁ。条約を再度結ぶ事により、東西両端の大国が未だ繋がりを強く持つ事を世界にアピールする。そもそも、条約など貿易どうこうが大きく関わらなければ四天災者という存在もあって余り意味を持つ物でもない」
「い、意味を持たねぇって事は解るけどよ! どうして世界にアピールなんざ……」
「牽制、でしょう」
「……牽制?」
「世界を渡り歩く貴方よ。少しぐらい異変を感じてるんじゃないの?」
「た、確かにクグルフ国での一件もあったし、ベルルーク国での一件だって聞いてる。何より、スズカゼの存在がそれだろ?」
「そうね。全ての異変の中心に居た彼女こそ異端の象徴とも言える。けれど、私達……、いえ、私達だけでなくベルルーク国大総統のバボックもこのイーグも、その異端の象徴に手を出す事は出来ない」
「確証が無いからだ。異端の象徴であれど、確証の存在ではない。……だから、未だ残すしかない。保つしかない」
「[魔炎の太刀]も、残して保つ為の道具か?」
「そうなるな。彼女は非常に危うい存在だったからこそ、それを支える存在を与えた」
「……スズカゼ・クレハをそうまでして守るのは先程の牽制の為でもあるのよ」
「その牽制ってのは何だ? 何に何を牽制するんだよ!?」
「世界に対して、私達の繋がりで牽制するのよ」
「だから、その世界って……!?」
「世界、とは異変の事だ。誰が何を持って、どうやって起こしているのかなど解らないから[世界]だ」
「[世界の意思]なんてご大層な言葉を出す訳じゃないけれど。……そうとしか言い様がないでしょう」
「……え、えーと? 要するにその異変を起こしてる相手に対して大国二つが手を結んでますよ-。手を出したら少なくとも四大国の内、二つが敵に回りますよ-。ってアピールするのか?」
「砕きまくって粉砕した言い方にすれば、そうね」
「阿呆な言葉遣いはいつもの事だとして……。実際はその通りだ」
「じゃあ、ベルルークが戦争の準備を進めてるのも……」
「警戒、牽制の意味を持つ。軍事国家だからこそ出来た牽制だがな」
「って事は戦争を起こすなんて真逆も真逆か。戦争じゃなくて自衛」
「その通り。事実上の自衛だ。……表面上は先程言った通り戦争の準備にしか見えなかっただろうがな」
「で、その結果が両端の同盟条約の再締結と強化、ね。……ふむ」
「受ける事によるデメリットはないはずだ。実際、我々はこの後も北と南の……、スノウフ国とシャガル国とも同盟を結ぶ。事実上の四大国同盟になるだろう」
「ま、フェベッツェもシャークも断ることはないでしょう」
「お、おぉー! 四大国全てが同盟を結ぶのか!」
「いつでも破棄できる同盟だけれど、ね」
期待に溢れた目で子供のように歓喜の声を上げたメタル。
そんな彼の喜びを一瞬で踏みにじるメイアの言葉。
当然、メタルはへぁっと情けない声と共に彼女に視線を向ける。
「先程も言ったでしょう? 四天災者が存在する以上、貿易どうこう以外の条約なんて有って無い物。表面上の存在でしかないの」
「言い続けているように、これは牽制だ。対策ではない」
「えっ、じゃあ……」
「同盟を存続し続ける可能性が九割。残り一割は同盟内部の国が今回の一件の原因だった場合、潰すこと」
「牽制が効果を発揮すれば良し。発揮しなければ……」
「事態解明に努める。以上、って所かしら」
「……めんどくせ! めんどくせー!!」
「この低脳に話を理解させる事事態が不可能だったようね」
「元より期待してなかったがな」
イーグはボンボ鳥の焼き鳥を摘み、メイアはバッペル酒を飲む。
会話も一段落付き、彼等は静かに息をつく。
未だ全てを完全に理解出来ていないメタルも、大凡の表面上だけを理解して諦めた。
「……メイア女王、煙草はないか、煙草」
「煙管製のがあるわ」
「メイアー。スカイッシュ水飲みたい」
「バルドに届けさせるわよ」
「そう言えば、スズカゼ・クレハが作った[しゃぶしゃぶ]なる料理があると聞いたが……。食えるか?」
「第三街の食事処で食べれるから、出前でも取るわよ……」
「フェイフェイ豚の焼き肉も食いたい!」
「……買ってくれば?」
「メイア、俺、ふと思ったんだけどさ」
「……何よ」
「これ、ただの飲み会じゃね?」
「物凄く今更だな」
「全くね」
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