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獣人の姫  作者: MTL2
森の魔女
133/876

魔女の森へ

【サウズ草原】


「良い風ですネ」


「……そうだな」


サウズ荒野を駆け抜けた先にある、草々が広がる新緑の草原。

小動物や昆虫が駆け回る生命の海の中、一台の獣車が緑の中を駆け抜けていた。

それは本来なら行商のために使われる物なのだが、荷台には商品と呼べる物は無い。

代わりにあるのは数人の人間と獣人と、大きな包帯の塊だった。


「悪いな、レン。運んで貰って」


「いえいエ! 報酬はいただいてますかラ」


頬上を駆け抜けていく風。

然程、早くはない速度故に物見遊山でもしているかのような気分にもなる。

事実、レンも前回のような暴走を見せない辺り、緑の海での遊泳を楽しんでいるのだろう。

何せ急ぐ必要もないのだ。


「それに、薬草採取なんてピクニックみたいですシ」


薬草採取という名目の、その依頼のためには。





【サウズ湖のほとり】


数日前。

未だ彼等がサウズ国周辺から出発していない頃

何気ない様子で立つリドラと彼の隣で気まずそうに肩をすくめるハドリー。

そして、彼等の後ろには巨大な包帯の塊を背負ったメタルが居た。

現在、彼等は森の魔女の居る場所へと行くため、移動手段の獣車を待っている。

勿論、サウズ王国の獣車を使わなかったのには理由があるのだが。


「……徹底的な隠蔽振りだなぁ。獣車まで別か」


「スズカゼの一件はある程度の知られた人間にしか知らされて居ない。当然だろう」


「で、信用出来る奴に移動を頼んだ、と。……ところで、これ重いんだけど」


「我慢しろ。メイア女王から言われているんだろう? ……それに女性を重いというのは感心しないな」


メタルが背負う、包帯の塊。

それこそが今回の要点的存在であるスズカゼ・クレハである。

彼女を包む包帯はメイアが手ずから作成した物で、[霊魂化]の進行を遅らせる作用があるらしい。

けれど、これも所詮は一時凌ぎにしかならず、効果は精々、数日程度だとか。


「リドラぁ。変わってくんね? そろそろ限界……」


「この中で肉体派は貴様だけだ。我慢しろ」


「……あの、それについてなんですけど、本当に戦闘要員はメタルさんだけで大丈夫なんですか?」


「んー、大丈夫なんじゃねぇの?」


彼の軽々しい返事に、ハドリーは思わず不安げな表情を浮かべる。

そもそも彼女とメタルの面識は精々、先の護衛の一件ぐらいだ。

その時も詳しく話を聞いた訳ではないし、知っているのはメイア女王の友人と言う事ぐらい。

勿論、彼がスズカゼを救う為に力を尽くしていた事も知っているのだが、それでも、この人物を完全に信用しきって良い物かどうか。


「そんな不安そうな顔すんなって」


「え、あ、こ、これは」


「いや、森の魔女の所への道中の途中までは比較的安全な場所しか通らねぇし、獣だっているが強力なのは居ない。心配ねぇさ」


「……と、途中まで?」


「森の魔女が眉唾モンの話として広まってる理由、ってヤツだよ」


彼の言葉の意味をハドリーが追求しようとした途端、彼等の視界に凄まじい量の砂埃が映り出す。

皆がそれを移動手段だと判断するのに時間は掛からなかったが、それ故にハドリーはメタルの言葉を理解することは出来なかった。

彼の、その意味深な言葉を。


「お待たせしましター! 今日は特別に移動用の足になりますヨ!!」


しかし、彼女のそんな不安も聞き慣れた軽快さを含む声に掻き消されていく。

普段は行商人として世界を回る彼女、レンによって、だ。


「ごめんなさい、レン。こんな役目を負わせて」


「構いませんヨー! 薬草だったら商品になるかも知れませんシ!」


レンのその発言に、思わずハドリーは小首を傾げた。

薬草とは何の事か? そんな話は聞いていない、と。

だが、彼女のそんな疑問も自らの肩に置かれた猫背の男の手によって振り払われる。

そもそも今回の一件は内密に秘匿すべき事だ。依頼内容も偽っていたとしてもおかしくはない。


「……その包帯の塊は何ですカ? 人みたいな形しテ」


「採取道具だ」


「なるほド!」


……尤も、心なしか彼女に依頼したのは本人の頭的な意味が垣間見えなくも無いのだが、それは、言及せずに置いておくとしよう。




【大森林】


「着きましたヨ」


時は戻って、現在。

彼等がレンの獣車に乗ってここまでやってきた、先程から数日経った現在だ。

彼等はごとんごとんと獣車に揺られ、草原を抜けて間もなく大森林の前へ到着した。

数日を超える移動で足腰は痛いが、歩けない程ではない。

リドラとハドリーは荷台から降り、メタルは大きな包帯の塊を背負って草々へ足を乗せる。


「おう、ここだここだ。……世話になったな」


「えーっと、薬草採取には暫く時間が掛かるんですカ?」


「……おう。まぁ、実際のところは不確定だから、俺達が一週間経っても戻って来なきゃ帰って良いぞ」


「うーん、一週間ですカ。食料もギリギリですけど、こんなに広い草原なら獣も居ますし食べ物には困りませんネ。解りましタ」


二度返事で頷いてくれた彼女に対し、メタルは申し訳なさそうに笑みながら悪いな、と言葉を付け足した。

眼前に広がる大森林は何処までも果てしなく、中に至っては夜のように暗い。

空では鳥がぎゃあ、と人のような叫び声を上げて森の中へと消えていく。

余りに不気味。一歩を踏み入れる事すら戸惑われるような、そんな空間。


「じゃ、暫く待機頼んだぜ」


メタルは後手を振りながら、躊躇無く森の中へ踏み込んでいく。

彼の戸惑いすらないその行動にハドリーは思わず面食らうが、リドラも彼についてさっさと入って行ってしまった事で、その躊躇も無くなった。


「ま、待ってください!」


急いで彼等を追おうとしたハドリーだが、その腕の羽を掴む、小さな掌があった。

先程まで笑顔でメタルとリドラを見送っていたはずのレンが酷く複雑な表情でこちらを見て居るのだ。


「……れ、レン?」


「あの人達は何処か危ない感じがしまス。世界を渡り歩く商人としての勘でス」


「そ、それって、どういう……」


「だから付き合うのならジェイドさんにした方が良いって事ですヨ!!」


彼女がレンの頭を叩き倒し、森の中へ入っていくまで物の数秒。

残されたレンはぷるぷると震えながら、獣車の隣に蹲っていた。



読んでいただきありがとうございました

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