閑話[女王と暇人]
《王城・女王私室》
「…………」
こんっ
メイアウス女王の私室に響き渡る、小さな音。
指を木椅子の手摺りに打ち付けたその音は静寂の中で微かに存在感を見せる。
しかし、それも一瞬で、その音はまた静寂を深める要因と化す。
「め、メイア?」
「護衛という責務すら果たせず負傷した上に」
「い、いや、あの」
「相手の能力を誤解し、伯爵位に瀕死の重傷を負わせた責任。……どう取るのかしら」
「うっ……」
言い知れぬ重圧に縮こまるメタルと、彼を圧倒するように剣呑な空気を纏うメイア。
そもそも、どうしてこんな状況になったのか。
先述を見れば大方の状況説明は終了するのだが、一応は説明しておこう。
メタル、説教中。
以上である。
「幸い、スズカゼ・クレハは無事よ。死んでないわ」
「いや、それは聞いてるから良かったなぁー……、と」
「ただし、とある大臣様が彼女とリドラ子爵を断罪しろと抗議してるのよ」
「……ナーゾル、だっけ?」
「そうね」
あのパーティーから一週間ほどが経った今日。
既に事態も収束し、王城の復旧や[黒闇]の者達も処分し終わった。
とは言え、未だスズカゼは目覚めないし一部の貴族はパーティーを台無しにされた怒りを王国騎士団や王城守護部隊に向けている訳だ。
その中でもナーゾル大臣は公爵という地位を利用し、自らに暴力行為を与えたスズカゼとリドラに罰則を求めているのである。
「女王権限で却下したら?」
「そう簡単に使えるはずがないでしょう。私の言葉一つで国が動くのだから、それなりの重さがあるわ。言葉は使えば使うほど軽くなる。そうでしょう?」
「いや、難しい事は解らんけど」
「本当にこの馬鹿は……。……ともかく、大臣を納得させるためにも何処かしらの落とし所は付けなくちゃならないの」
「……それと俺が今、説教されている事について何の関係が?」
「ゼルからの要請は聞いてる?」
「いや、第三街の獣椎に行ってデューと飯食ってたから連絡係の奴とは会ってないな」
「そう。リドラには既に報告してあるから、貴方にもこの場で報告していくわ」
「ん? 何?」
「森の魔女に会いに行きなさい」
メイアの、たったそれだけの言葉。
だが、そのたったそれだけの言葉はメタルに青色のペンキが入ったバケツをぶっかけた。
と言うのは比喩で、単にその言葉を聞いた途端にメタルの顔が真っ青になっただけなのだが。
まぁ、その真っ青さがペンキをぶっかけられたに等しいのだから、強ち間違ってはいないだろう。
「嫌だ」
「駄目よ。行きなさい」
「いーやーだー!!」
「文句言わないの。それとも国から追い出して欲しい?」
「割とガチで悩む」
「……良いから行きなさいよ」
「俺、足やられてんだけど」
「どうでも良いわ。丁度良い機会だから彼女の助言を仰ぐのよ」
「酷ぇなぁ……。相談ってのは、[霊魂化]について、か」
「えぇ、そうよ。私も[魔創]なんて呼ばれているけど全知全能じゃない。それ専門の人間に知識と判断を仰ぐべきだわ」
「そりゃそうだろうけど……、あの人だぞ」
「リドラも付いていかせるわ。落とし所はそこよ」
「……どういう意味だ?」
「リドラ・ハードマン子爵を一定期間の国外追放に処すわ」
「物は言い様だなァ!?」
「知らないわよ。……それで案内係に貴方、スズカゼ・クレハは当然として獣人のハドリー・シャリア、そしてリドラ・ハードマン。この4人を森の魔女訪問隊として派遣するわ」
「……ゼルやバルドやファナ、デューはどうなんだ?」
「ゼルとバルドとファナ・パールズは立場的な意味もあるけど、国防に努めて貰うわ。……デュー・ラハンはそもそも外部の人間よ。貴方がどれだけ信頼しているのかは知らないけれど、関わらせる訳にはいかないわね」
「……むぅ」
「現に彼はフレース・ベルグーンの情報をこちらに寄越さなかった。それだけでも充分な判断材料だわ」
「……解った。まぁ、アイツも今は仕事は関係なく滞在してるらしいし、金さえ払えば協力も出来るだろうな」
「それは国の長たる私が関与する所ではないわね」
「そうだ。ジェイドはどうなんだ? 一番適役だろ?」
「第三街の防衛に。[前の]彼ならともかく[今の]彼は、役に立つわ」
「……そうか。問題はねぇ、とは思うけど」
「なら良いわね」
こんっ
会話の幕を落とす、指を打ち付ける音。
彼女はそれと同時に手を振り払い、メタルに退室を命じる。
メタルも特に抗う理由もないので気抜けた返事と共に立ち上がり、踵を返して扉へと向かって行く。
「メタル」
しかし、先程の行いを否定するかのようにメイアは彼を呼び止める。
尤も対して咎めるような声色でもなかったので、メタルは相変わらず気抜けた様子で振り返った。
「森の魔女によろしくね」
「お前マジで覚えてろよぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
その日、王城内に泣きながら全力疾走する男の姿が目撃されたという。
女王私室の方向から出てきた為に王城守護部隊は彼女に形式上の質問を行ったが、色々察したバルドと隊員数名が幽霊的な何かとして処理したんだとか。
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