刺客たちを捕獲しよう!
満天の星空の下、僕は星見の塔の展望室で空を見上げていた。
空には星々が瞬き、灯りを消した展望台をうっすらと照らしている。
長椅子に横になりながら見上げる空はいつにも増して美しく、本当ならエストリアと一緒に見たかったなとため息をつく。
ウデラウ村に向かう途中にわかったことだが、この島の中で最西端にあたるこの辺りは島の霧が薄く、東に向かうにつれ濃くなっていく。
なので東に向かえば向かうほど、星見の塔の高さでも星がぼやけてしまうだろう。
「島の形が盆地状になっているから霧が出やすいのは仕方ないとしても、東の方はずっと霧の中ってのもおかしいよな」
この島を開拓するためには、いつかはその東へ行かなくてはならない。
あの聖獣様ですら警戒する魔物の居る東には一体何があるのだろうか。
そんなことを考えつつ僕はもう一度空を見上げる。
晴天の時は天井のガラスを素材化で消して見上げるのだけど、今日は『作戦』のために消すわけには行かない。
「フェイル、起きてるか?」
「ふわぁい。起きてますですよぉ」
横になっている僕の頭のほうから寝ぼけたフェイルの返事が聞こえた。
彼女は今、ファルシの背中に転がってその時を待っていた。
「フェイルだけが頼みなんだから寝ないでくれよ」
「だいじょうぶですぅ、それよりも――」
フェイルの声のトーンが一つ下がり、ファルシがグルルと小さくうなり声を上げた。
「レスト様、準備はいいです?」
「ああ、大丈夫だ。問題ない……はず。キエダにも確認してもらったし」
僕はそう答えると長椅子から起き上がり、傍らに置いてあった聖獣様の角に魔力を流し込んだ。
「もう範囲内か」
赤く色づいた角を素材収納に戻しながら呟く。
「あと10数えたらはじまるですからレスト様は動かないで下さいです」
10。
9。
8。
7。
僕は心の中で数字を数え出す。
それと同時にクラフトスキルを準備する。
3。
2。
1。
「0」
その刹那、展望室の中を照らしていた星明かりが消え、周囲が闇に包まれる。
結界魔法か何かなのだろう。
自分の手の先すら見えない暗闇に、普通なら恐怖のあまり叫んでしまったかも知れない。
「クラフト!」
だがそのことは想定済みである。
僕は冷静に準備してあったクラフトスキルを発動すると、その場から一歩も動かずに周囲の音に耳を凝らした。
暗闇の中、上下左右あらゆる方向から音が聞こえる。
そして――
ガインッ!!
僕の頭の横で突然何かがぶつかり合ったような音が聞こえた。
「わっ」
慌てて僕はその場にしゃがみ込んで耳を押さえる。
その間も闇の中で何かがあらそう音は続いている。
「流れ弾……か?」
僕はしゃがみ込んだまま息を潜めることにした。
何も見えない暗闇の中で終わりを待つ。
それは思っていた以上に精神を削っていく。
時々近くから先ほどと同じように何かがぶつかる音が聞こえ、その度に身をすくませる。
そんな永遠とも思える時間はやがて終わりを告げる。
「レスト様、終わりましたですよ」
『わふんっ』
どこからかフェイルとファルシの声が聞こえ、同時に部屋を覆っていた暗闇が一瞬で消え去り星明かりが戻ってきた。
大して強くないはずのその光も、完全な闇に目が慣れてしまった後では強く、視界が戻るまで少しの時間を要した。
「ひぃふぅみぃよぉ……あれ? 一人足りないです?」
色が戻った視線に映ったのは床に横たわる四つの人影。
その全員が完全に意識を失っているようでピクリとも動かない。
「こいつらがあの人が送り込んだ暗殺者……か」
この島に忍び込んだのは、あの継母レリーザ・ダインの手の者らしい。
どうやら彼女は僕を追放しただけでは、まだ安心出来なかったらしく、僕の息の根を止めるためにあれやこれや手を回していたそうだ。
この島までやってくる間に何度か襲いかかってきた盗賊や強盗も彼女の手の者だと知って、僕は彼女の執念深さに呆れてしまった。
しかし、そのことごとくが失敗に終わった彼女は、最後の手段として暗殺者集団と取引をしてこの島に送り込んだ。
そのことをキエダとフェイルの調査と、ある者からの情報によって知った僕たちは一計を案じることにした。
作戦は単純明快。
僕自身が囮になることだった。
もちろん普通に考えれば危険なことこの上ない。
だけど僕にはクラフトスキルという裏技がある。
それを使えば最悪でも相手が襲ってくることさえわかれば命を失うことは無い自信があった。
「とりあえず壁を消さないと動けないな」
僕は僕を取り囲むようにクラフトした『透明度の高いガラス』を素材化しようと手を伸ばす。
ガラスの表面には幾つもの傷が付いていて、床にはその傷を付けたであろうナイフを初めとした暗器と呼ばれる武器が転がっていた。
「暗殺者って本当にあんな暗闇の中でも対象の位置を把握できるんだな」
感心しつつも僅かに背筋に寒気を覚え震えつつ、僕の身を守ってくれた強化ガラスを素材化で消し去る。
事前にキエダたちに強度を確認してもらったので壊れる心配は無かったが、それでも万が一ということはある。
もし破壊されて暗器のどれか一つでも体をかすめたら命は無かった。
なぜなら暗殺者が使う暗器には致死性の毒が仕込まれていることが多いからだとか。
キエダたちから聞いたその言葉を思い出し、星明かりを反射するナイフの刃にぬらりと何やら液体が付いているのを見て、今さらながら青ざめた。
僕はなんとか無事にことが終わったことに感謝しつつフェイルたちの元へ向かった。




