10-4 『ニノ』が仲間になりました!
それからおれたち三人は、教会での歓迎式典に出席することになった。
まあ、上出来だと思う。なぜなら、その後の宴会は断れたのだから。
天界のお使いなのでそうゆっくりはできない、ノルン鉱山で『ホワイトスパイダーウェブ』を採取させてもらいたいとミライが伝えれば、二つ返事で採掘許可は下りた。
案内人については、志願者がいるのですが。ねこみみ司祭ベルカ様がそう言って引き合わせてくれたのは、さっきの眼帯黒ウサギ少年だった。
「あいつらしつこくってな。それで俺もついカッとなっちまって。仲裁に入ってくれて助かった。
ありがとうよ、『天使様』たち」
「お役に立てたならよかったです。
あの、でも、……天使様はやめてくれますか?
ほんというとちょっと恥ずかしいから……」
「そうか~? じゃあミライたま☆」
「もー! ふつうにミライでいいからー!
うさぎさんのいじわるー!」
さっそく教会の一室を貸してもらい、彼とおれたちでの話がはじまった。
お茶をお出ししてくれたシスターが退出すると、眼帯黒ウサギ少年は感謝を述べてきた。
しかしすぐさまミライをいじる。
ほほうと思ったおれは、あえて口をつぐんでおいた。
「でさー。お前『ニノ』?」
「ぶはっ?!」
はたして、イツカはやってくれた。
前触れもなく問いかけ、黒ウサギ少年は一転、お茶を吹きかける。
もっとも、おれたちも驚いてしまったのだけど。
「なんだよ急に!! 確かにそうだけどよ!!
つかなんでわかった!! けも装備変えて髪も染めたのに!!」
「や、なんとなく」
「ちょ、ほんとなのイツカ?!」
「うさぎさん、『ニノくん』だったのー?!」
「いや……ちょっと待て。
お前ら、なんで俺のこと知ってる風なの?」
やっぱりイツカは天才だ。一枚の似顔絵しか見たことのない、さらにここまで変装している人物をサラッと見分けるとか、もはや存在自体がチートである。
というか、Aランク相当の実力者となるまでやりこんでいながら、けも装備を変える人など相当レアだ。
それはおいとき、まずはフォローと軌道修正だ。おれは気を落ち着けて、彼に笑顔を向けた。
「ごめんね、驚かせちゃって。
まず、こいつについてはこういうやつだから、深く気にしないで。
こいつはイツカ。この子はミライ。おれはカナタ。
イズミ君と共通の友人から、君のことを聞いてたんだ」
「共通の……?」
「『まじかるあーちゃん』。知ってるよね。
彼は、おれやイズミ君たちみたいな、か弱いうさぎたちを守ろうとしてくれてるんだ。
その……」
「謝るなよお前らが。
ポテストの日のことは、あくまであいつがやらかしたことだ。
あいつのことを知りもしなかった、お前らに非はねえよ。
ま・し・てその場に居もしなかった天使様は気に病むな。今度そんな顔したらモフり倒すぞ。世の中悪人だっているんだからなー? たとえば俺みたいな」
あの件では、間接的にとはいえ迷惑をかけた形になる。
おれがそれを詫びようとすれば、彼はすっぱりとそれを遮った。
さらにはしょんぼりしてしまったミライの前で、両手をわきわきさせておどけてみせてくれる。
彼の本来の姿はアスカから聞いていた通りの、懐の広い男であるようだ。すこしばかりほっとする。
「ニノくんはわるいひとじゃないでしょ? そんなふうに言ってくれるんだもん。
って天使様じゃないからー! やっぱいじわるー!!」
「おーおーミライたんはめんこいのーよしよしよし」
「っていうかカナタ、お前はぜんぜんか弱くな」
「なんかいったイツカ?」
よけいな一言を口走ろうとしたイツカを黙らせて、おれは話を進めることにした。
「えーと、とりあえず話を進めるね?
イナサくん、ノルン鉱山の案内をしてくれるってほんと?」
そう、アスカから聞いていた。彼の名前はイナサ ニノ。
イズミ君の――おれたちのポテストの日に、『邪眼』を暴発させて放校になり、いまは『オッドアイの黒ウサギ』としてミッドガルドをさまよっている少年の――相棒だった存在と。
「ニノでいいわ。
俺らはもともとここを拠点にしてたから、そのへんはまかせとけ。
ただしその前に、半日程度の護衛を頼みたい。
ノルン山近くにある俺のアトリエまで行って、用事を済ませ、ここに戻るまでのだ」
「用事と、護衛を頼む理由について、聞いて構わない?」
「用事は……あー……まあ。お前らならいっか。
あいつを迎えに行く。
あいつは、あそこにいるはずなんだ。
何でわかるかと言えば……理由は、愛、とでもいっとくかな」
ニノは不敵に笑う。
イツカとミライはおー、すごーいと素直に感動しているが、断言していい。ことの真相は二人が思っているようなことではないと。
ニノはおれたち三人を見回すと満足げな表情を見せ、詳細を話し始めた。
「護衛を頼む理由は、数日前に起きた土砂崩れだ。
お前らも知っての通り、このへんは通常、地上にはさして強いモンスターが出ない。
だがアトリエに向かう道の途中あたりで、土砂崩れが起きて旧坑道が口を開けた。
そしてそこから、坑道深部のモンスターが沸きだすようになったらしい。
坑道の土壁の修復とか、湧き出たモンスターの討伐とかはどうでもいいんだ。ただ、護衛をしてもらいたい。
無事にあいつを連れ戻せれば、『ホワイトスパイダーウェブ』が採掘できる場所に案内する。もちろん、バトルが起きちまったら加勢するぜ。
護衛の間の経費も含めて、その条件でどうだろう」
イツカとミライはとみれば、異論はない様子。
おれにも特に疑問な点はない。
「引き受けた。
よろしくね、ニノ」
「こっちこそ」
握手の手を差し出せば、ニノはニッと笑って握り返してくれた。
こうしておれたちは、ニノとイズミのアトリエに向かうことになったのだった。
ちょっと油断したらすごい数(※底辺にとっては)のPVがあって心底びっくりしました。
うわー、ありがとうございますー!
しかし、あいかわらず頭が回りません……一周回ってヘッドスピンでもすればよいのでしょうか……(無理)




