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トーコさんの騒霊な日々  作者: 氷桜
トーコさんの騒霊な日々
29/51

トーコさんとレイディと星の王子サマ⑥


 俺は無意識に右上へ目をやり、AR表示されているレーダーマップを確認する。

 今そこに映っている識別マーカーは……


 緑色が2、俺と珠璃だな。

 灰色が2、死亡してしまったアリアンロッドとメルカルトだ。

 白色が2、白はゴーストだから、侍大将と小姓だ。

 そして赤が1、そこに立ってるレイディ。


 レーダーマップに表示されているマーカーはそれだけだった。

 当然そこにあるべきマーカーが一つ足りない。

 その意味は……




「なんで、ここに赤ネが? いつのまに?」


 珠璃が呟く。

 その声で、いま俺たちは有名人を悠長に眺めてる暇なんて無いんだと思い出す。


 侍大将は突如現われた自分より強そうな……レベルもランクも《レイディ》が上……相手が乱入してきたの見て、それ以上こちらへ近付くのを止めている。


「何でもイイ、このスキに逃げるぞ」

「う、うん、メルカルトもアリアンロッドも死んじゃったし、由里を連れて……あっ」


 移動しながら戦っていたせいか、由里が倒れている位置は俺たちよりも小姓の方が近い。

 侍大将との位置関係を一応気にしながら動いてたけど、離れた場所の小姓の動きまでは読みきれてなかったせいだ。


 その時、俺たちの頭上をフワリと跳び越える影があった。

 レイディだ。


 そのまま由里の傍に着地する。


 彼女は七五三のようなミニ和服姿。

 モロに外国人の容姿をした彼女のミニ和服はコスプレにしか見えないけれど、正直に告白すれば、ちょっとだけ、彼女が俺を跳び越えた時に頭上を見そこねたと後悔する俺ガイル。




 レイディが由里の傍らへ移動した。

 ただそれだけで、小姓の動きは止まり、侍大将は俺たちよりも彼女へと向きを変える。

 新たな敵の方が俺たちより脅威なのだと判じたようだ。


 レイディは何も語らず、侍大将に戦いの構えを取る。


 彼女も無手だ。

 後屈立ちで右手は胸の高さ手のひらを前に、左手は腰の横で低く手のひらを上に構えている。


 アリアンロッドとよく似た風貌のせいだろうか?

 俺はレイディに、恐怖や嫌悪感を感じなかった。


 艶やかな銀の髪は月光を編みこんだかのようで、小さな卵型の(かんばせ)には極上の青い宝石。

 細身のボディラインになめらかな肌は白磁の陶器みたいで、男の理想と欲望を具現したかのような肢体は、まるで桃源郷に誘われてるようだ。


 氷のような雰囲気を纏っていてさえ、これが実在の人物ならきっと傾国の美女として歴史に名前が残ったろう。




 侍大将は切先を揺らして低い構えから、突きを放つ。


 レイディは……壱の突きを避け、弐の突きを左手で下から斜め右へと押し上げ、刃の方向を逸らしてしまう。


 うめぇっ!


 そして解ってしまえば、なるほど納得と、侍大将の突き攻略法を理解出来た。

 真剣の突きを受ける時には両手を上下に構え、刀の腹を狙うのではなく、峰の方向から刃を叩いて方向を逸らせば安全で簡単に対応出きるのか。


 そして、避けやすい壱の突きはあえて避け、避けられない弐の突きに狙いを定め払い除ける。

 壱の突きと弐の突きの両方を二度払うのは難しいし、その必要も無い。


 実にシンプルで、理に適っている。


 さらには、壱の突きから相手の狙い所を絞って、弐の突きの場所を割り出すことも出来る。

 侍大将の必勝パターンすらも逆手に取っていた。


 いや。

 レイディという回答例を見たから、なんだ簡単ジャン、と言ってるに過ぎないんだよな。

 俺はAR表示の予測線を見たにも関わらず刃を避けられなかった事実に、ちと凹む。




 レイディは二連突きを逸らして、そのまま侍大将の懐にスルリと一歩踏み込む。


 侍大将は懐に潜り込ませまいと間合いを広げるため一歩飛びのいた、けれど、その度にレイディがさらに一歩踏み込むので引き離せない。

 満足に刀を振れる間合いでは無い。


 とうとう侍大将は強引に刀を振り上げ、レイディの右肩を狙って振り下ろす。

 アリアンロッドとメルカルトが殺られた、あの技だ!


 レイディは左足を踏み出して、振り下ろされる刃を左半身で避ける。

 と同時に、左手で侍大将の右手を捕まえてしまった。

 それだけで、振り下ろしから続く右手逆袈裟斬りを完全に封じ込めてしまう。


 さらに、踏み込んだ勢いのまま左足軸に、右回りの後ろ回し蹴りで侍大将の頭部を蹴った。

 避けから蹴りまで、流れるような動きが実にお見事。




 ボシュッ




 鈍い音が響きレイディの蹴りモーションが終ると、そこに侍大将の頭部は存在してなかった。

 一瞬の硬直後、残された体は倒れはじめ、地面に触れる前にチリの様に霧散する。


 なんとまぁ、アッサリ!?


 俺がアリアンロッドとメルカルトの2体を操って、俺が持つ最高の攻撃スキルを駆使してすら、碌にHPを減らせなかった侍大将をただの一撃で葬ってしまった。


 残された小姓は侍大将が倒されたのを見届けると、青白い人魂へと変じ夜の海へ飛んでいく。

 そのままどこかに行ってしまうのかと思ったが、どうやら逃げるつもりではなかったようだ。


 人魂が通り過ぎた海面から次々と亡霊たちが浮かび上がってきた。

 なんだアリャ? 東京湾に沈んだ過去の自縛霊や浮遊霊たちか?


 亡霊が次々と増える、10……20……だが、人魂は海上を動き回るのを止めない。

 30……40……数え切れない亡霊たちが海上をひしめいている。


 ……もしかして、小姓は呼び出したあの亡霊を俺たちにぶつけようとしてるのか?


「天太、あれ、ヤバいかも?」

「あぁ、だけど……逃げ切れるか?」


 亡霊たちは実体では無い分、移動が早いヤツも多い。

 アレだけ数が居ると逃げ切れないかも知れない。




 その時ふと、レインボーブリッジの向こう側、何か白く光るモノが目に留まった。

 海上を走る船にしては、速度が尋常じゃない。


 夜の闇の中、遠くのビルディングの光が反射する海面を波立たせながら白い航跡が伸びる。

 なぜか、その白い光へ惹き付けられるように目が離せない。


「天太、何アレ?」

 珠璃もソレに気付いたらしい。


 その白く光る物体は急速にこちらへ近付いてくる。

 どうやらレーダーマップ上、新たに現われた緑色のマーカー表示されているのがそれらしい。

 つまり、《Unreal Ghost Online》プレイヤーだと言う事だ。


 じぃっと見てると、セイルのような物が見えた。

 小さなヨット?


 いや、ヨットじゃない……

 あれは……ウィンドサーフィンだ!!

 夜の東京湾を白く発光するウィンドサーフィンが疾駆している。


 うそだろ?

 レインボーブリッジの高速道を走る車より、明らかに倍以上のスピードで海上を走っていた。


 時速百数十km??

 そんな速度で走るウィンドサーフィンってあるのかよ!?


 物凄い勢いで海上を飛ぶように走ってくる。


 でも、変じゃないか?

 いま風は全くの無風だ。

 なんであのウィンドサーフィンは、あんなにセイルを満帆にはためかせて走れるんだ!?


 その謎のウィンドサーフィンは芝浦側を風上としているようで、セイルを操るサーファーは陰となってて、どんな人物が操っているのかはこちら側から見えない。

 右舷から風をセイルに受けて走るのを、スターボードって言うんだっけ?


 ウィンドサーフィンはその圧倒的な速度でたちまち近付いてくると、小さい波を利用して低く、ジャンプした。


 それはまるで空を飛んでいるかのようだった。

 実際50mは滞空していただろう。


 海面や宙に浮かぶ亡霊たちを次々とボードのボトムで弾き飛ばしながら、ついでのように小姓の人魂も轢いて……ようやく海面に着水する。


 小姓の人魂は消えたのか?それともHPがゼロになったのか? もう見えなくなった。


 その誰かは、セイルを立て風を引き込みながら、その力を利用してボードのテイルを海面に沈め、さらに風圧を利用して強引にボードを左回りに180度回転させ、セイルを返す。


 沈んだテイルが力強く海水を綺麗に扇状に跳ね上げて、見事な海水のクラウンが描かれる。

 今度は左舷から風を受ける形でセーリングするので、ウィンドサーフィンの乗り手が見えた。


 って、トーコさんだよ!


 左舷から風を受けて、そのまま陸地に向かってきたウィンドサーフィンを再度ジャンプさせると、トーコさんはまだボードが空中にいる間に飛び降りる。


 《守護霊》エルジェーベトも空中に現われて、トーコさんと同時に『スタッ』と着地した。


 ウィンドサーフィンは空中で解けるように消え去っている。

 あれ、もしや《霊》のサーフィンボードなの??




「大丈夫だった? 甲田さん、柏木君」


 婦警服のまま駆けつけてくれたトーコさんは、俺たちへ心配そうに声を掛けてくる。


 うぉぉぉぉおおおおお、女神サマ(はーと)

 びっくりすることに《エルジェーベト》は、たった一日見なかっただけなのに……


 《守護霊:カウンテス・エルジェーベトLv12》

 そして、なんとユニーク・キャプテン級に育っている。


 真白い清楚なミニドレスを身に付け、流れる金の髪は夜空に耀く流星。

 夜の闇にそこだけ白く滲むように浮かぶ白い肌はどこまでも瑞々しく。

 緑の瞳は炎の様に燃え上がり。

 濡れたような艶やかな赤い唇は、可憐な少女に不似合いで娼婦のようだった。


 や、やべぇ、トーコさんが女神サマだとすれば、エルは天使か小悪魔だよ、マヂで。

 ……吸血鬼だけどさ。




「トーコさん、素敵すぎ……」


 隣で感極まったような声を出すのは珠璃だ。


「さっきのターン凄くカッコ良かったですv トーコさん」


 珠璃は目がハートマークだ。


「ありがと、フレア・ジャイブって技なんだけど、我ながらキマッたわv」


 あのウィンドサーフィンの《霊》とか色々聞きたい事は山ほどあるけど、俺はつっこんでは聞かないことにする。


 トーコさんが来たとたん《レイディ》は身を隠したのかログオフしたのか?

 消えてしまったってのもあるしね。

 どう考えてもおかしいよな? このタイミングの良さ。


「白い流星って言うか白馬の王子サマ?……ううん、白い星に乗った王子サマね、トーコさんってば、もう……もう……ケッコンしてくださいっ!!」


 ちょっ!? 珠璃ってはナニとち狂ったこと言ってんの!?

 しかも、俺じゃなくてトーコさんにっ!?


 く、くそっ、負けてたまるかっ


「ちょっと待ったぁあ! 柏木天太17歳、サイズに自信アリ!一日3発OKです。宜しくお願いします」


「え? ゴメンナサイ?」


 左手を胸の前に組み、右手のコブシをアゴの下に当てたポーズでトーコさんは。

 アッサリと、そりゃもう、バッサリと、お切り捨てになられました。


 トホホ


 驚いたことに、エルの白いミニドレスは近くでよくよく見てみれば、婦人警官のユニフォームを真っ白の色違いにした物だった。


 白い学生服ってのは聞いた事があるけど、白い婦警服って……しかも超ミニ。


 GJ


 俺はビシッと親指を立て、エルにウィンクした。

 そんな俺に、エルはコクンと頷いてくれた。


 はぁぁぁ、やっぱ天使サマ。

 和むぅ。




「なんでエルは、たった一晩でそこまで綺麗になったんですか?」


 トーコさんに尋ねれば、


「ん……あたしの血をね、多めにあげたのよ。【霊障:サクリファイス】の効果ね」


 献血の効果パネェ。


 ところで、トーコさんはどこから来たのだろう??


「どこって、千住から。ちょっとトラブル在って遅くなったから急いで隅田川を下って来たの」


 千住!?


「千住から隅田川を下ってきたぁ?」

「……あのウィンドサーフィンで?」


「うん、10分ほどで着いたわよ」


 なんて非常識なヒトなんだ!



×:エリート・キャプテン級

○:ユニーク・キャプテン級

何度も読み返したハズなのに、私の頭の中ではサラッと脳内変換

かましていたらしい…… orz

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