表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/40

34:復興の始まり

 


(エル視点)



 春の再生のお祈りをもって、ラオメイ国の復興が始められた。


 土地の地盤は完璧。

 大地の下には春の植物がこまやかに根を張り、からみあって頑丈になっている。

 がけ崩れを起こしそうだったところには溶けない氷が現れて岩以上にしっかりと支えている。


 残念なのは、歴史的建造物が壊れてしまったこと。

 けれどこれについて国王様は「重かった」とそっと胸を撫で下ろしていた。

 重かった……その言葉が、重いなあ。

 全部を大切に背負ってきていたんだろうな。人一人が背負うにはあまりにも重い歴史や責任、愛情を持っていたんだろう。


 国王様の決定は早かった。


「ラオメイ宮殿の建物は新しく作り直す」


 言い切っていた。


「……あの〜、修繕したりはしないので?」


 果敢にも、これを言ったのは平民の方だった。

 背格好からして力仕事をするような人で、後で知ったところ大工さんだったらしい。


 国王様は平民だからと無視することもなく、丁寧に返事をした。


「しない。これまでの宮殿は増築をしすぎており、隠し通路や隠し部屋も非常に多かった。扉に遮られた先で何が行われているのか、ということについて国王であっても把握しきれていなかった」


 国王様が告げると、シン……と空気が止まる。

 うう、苦手な気配だ。こうなると私まで冷や汗が出ちゃう。

 国王様たちの怠慢だと聞こえる。

 けれどここで、暴動が起こったりヤジがなかったことの方が、重視されるべきだろう。


 国王様が頭を下げることはなかったけれど、両手を合わせた姿勢でわずかに腰を落とす、その動作だけでも平民のみなさんにとっては衝撃的だったらしくて、ざわざわとどよめいていた。


「これからの宮殿は皆で改築する。ここはもともと春龍様への祈りの場所であった……その点だけ間違えなければ、以前の姿と変わったとしても、我々の本質は保たれていると言えるだろう。それに、春龍様は”新しいもの”がとてもお好きらしい」


 国王様は空を見上げた。


 雲ひとつない快晴だ。


 さわやかな春のやさしいブルー。


「新しく門に言葉を刻むぞ。”ろっくんろーる”と!」


 ガクッ、と私がずっこけそうになった……そんなこと書いちゃうんかーい。

「おっと」とフェンリルが腰のあたりを支えてくれる。えへへ、とごまかすように笑っておいた。

 ニコリと綺麗な笑みが帰ってくる。

 フェンリルのこの笑みはフェルスノゥ王国において卒倒者をバタバタ出していたくらいなんだけど、このラオメイでも美しさは通じるらしく、男女問わず目撃者の顔を真っ赤にさせていた。



「ごほん。──フェルスノゥ王国の使者どの、みなさま、前へ」


 国王様直々に、改めて私たちがラオメイ中に紹介される。


 平民のみなさんも宮殿跡地に招待されているから、ほぼほぼ全国民なんじゃないかなあ。

 もともと少数精鋭の民族だったらしいから、この山の頂上に集まりきれちゃうんだね。


 後ろの方にいたから、前に進まなくっちゃ。

 よいしょよいしょ……と人混みを分けていく。途中で握手をされたと思ったら、ジェニ・メロだった。あの子たちと護衛もそのまま連れて、前にいく。


「このたびのラオメイが春龍様に会うことができたのも使者どのたちの尽力ゆえ。感謝の拍手を!」


 わあっと声が上がって、鳴り止まない拍手を浴びた。

 なんだか照れるなぁ。

 こういう時ってどうしたらいいんだっけ。ちらりとフェンリルを見ると、きょとんと首を傾げてこっちを見ていらっしゃる。ああ、こういう政治に対しては私たちって同類だよねえ。

 ジェニ・メロを見てみると、優雅に手を振り返していた。小柄な姿が見えやすいように護衛の肩に乗せてもらって……技あり! なるほどこうするのね。


「少しなら足元を浮かせられそうだ」


 フェンリル、それってすごいね?


 フェンリルがパチンと指を鳴らすと、私たちの桜色だった髪が、氷魔力を使った分だけ白銀に染まる。

 上の方が桜色、下の方が白銀のグラデーションになってるかな。


 1メートルほど浮きながら、私とフェンリルは手を振った。あ、今はパンツスタイルなので下から見られても大丈夫です。


 おや?

 後方でポツンと立ち尽くす高官らしき人々がいる……大方、今回の騒動を起こしてしまって反省している役員ってところだろうか。

 私たちがこのラオメイに氷をぶっ立てたり、空から春龍様を呼んだり、今だって春に使えそうもない冷風で浮かんだりと人離れした技を見せているせいで、すっかりと立ち向かう気力は削がれているみたいだ。


 がっしりした怒り肩はシュンと下がっていて、なんだか可哀想になってくるくらい。

 彼らには、追って国王様が罰を与えてくれるらしい。

 そこはラオメイの法律に任せておくしかないだろう。

 彼らこそが、この土地でこれからも生きていくのだから。


 何もかもずっと私たちが手助けできるわけじゃない。

 …………。


「フェンリル、少しだけ一緒に踊ってくれる?」

「よろこんで」


 フェンリルに手を差し伸べると、当然のように手を添えてくれたので、ホッとする。

 爪先に氷魔力を通して、フェンリルの経験を感じさせてもらいながら──……氷魔法のイメージ。


 それとともに空中でくるっと一回転。


 私とフェンリルは反対方向にそれぞれ回転してから、また見つめあって手を取り合った。


 回転の風は、桜色の雪をはらんだ祝福となって吹きあれる。


 ぶわっと降りかかる雪を、それはそれはもの珍しそうにみなさんは眺めて、子どもは大はしゃぎしていた。あ、タウリィア姫もはしゃいでハオラウ王子に窘められている。二人の順番はまだ先なのに出てきちゃって、平民のみなさんにギョッとされちゃってるよ。


 ジェニ・メロは「これが雪。春のための冬のおすそ分けなのでしょう」と説明をしてくれていた。


 最後尾にいる高官のみなさんのところへも、そっと届くように。

 彼らは頬にあたった雪がすっと解けたことで「信じられない」「つめたっ! 夢ではないのだな……」と唖然としていた。


 最後の祝福は、全員に。


 四季の大精霊のいつくしみはきちんと存在しているのだと、どうか信じてほしい。


 フェンリルや春龍様のことを忘れないでいてください。


 すとん、と地面に降りて、私たちはピシリと気高く背筋を伸ばした。





 国王様は、ハオラウ王子に王位を譲るつもりだと発表した。


 そして、新しい妖精女王ティタリィア様のタウリィア姫を紹介した。


 二人はそれぞれの誠意を持って、宮殿の改築作業に携わっていくそうだ。


 まずは平民のみなさんと宮殿兵団が一丸となって、柱を立てていく。

 木材を運ぶのが大変そうだったので、これについては私が森奥の虫たちに頼んで、いい木材を持ってきてもらった。おそらく休憩中の春龍様が取り計らってくれたようでずいぶんと素晴らしい木々が選ばれていた。

 虫大行列のビジュアルに「うわっ」と引いた反応もあったけれどすぐにみなさん慣れたようだ。

 さすが霧深い森のすぐそばで生活していた方々……!


 柱による土台が組み上がったら、その次に国王様が指示をする。


 建築士さんや大工さんと相談して、かつての宮殿でも必要であった部屋を中心に、新しい構想を組み上げた。

 こんなにも決定が早くていいのかな?って思っていたけれど、作業を見ていたら納得した。


「「”緑の縁リューユェン”」」


 緑色の爪を輝かせた指先で柱と柱の間を撫でると、緑の魔力がしっかりと絡みあった壁が出来上がった。

 これの側面に壁の板を貼り付けていく、という建物の作り方をするらしい。

 なんだか、断熱材みたいだよね。緑の魔力を持つ人々にとって、他の季節でもきわめて快適な室内になってくれるんだとか。


 この壁はすぐにほどける。

 もしも部屋割りがイマイチだったら、カンタンにやり直せるんだって。


「「ラオメイの建築について教えてください!」」

「小さな氷の王子様たち、熱心だね。そいじゃあ見ていくかい」

「儂らは緑の中に仮住まいをするんだ。そしてしっくりくるまで何日も過ごして、緑の場所を整えてゆく。その間はまるで蛹の中にいるように腹が減らない」

「「へええ!」」

「春の緑は生命力の証だからな。作りたての緑の壁は素晴らしいエネルギーになるのさ。それにしたって、ハオラウ王子と姫様はずーっと作ってくれててよくも魔力が尽きないもんだなぁ……」

「ああ。信じられない集中力だ」

「「そんなに難しいんですね」」

「”緑の縁リューユェン”はかなりの修行を必要とするものだから。……努力していらしたんだな」


 うーん、うーん……。

 どうなんだろうか。姫様はとりあえずワガママ育ちって聞いてたけども。

 ……ものすごくいい雰囲気になって大工の皆さんに感動の空気が出来上がっているから、そっとしておこうかな……。


 ジェニ・メロもにっこりと微笑んで無口を貫いているので、それがちょうどよい処世術なんだろう。




 本日分の壁張りが終わり、夕方。


 だいたい10分の1くらいは完了しているから、とんでもなく早い方だよね。

 ハオラウ王子は魔力の扱い方をぐんと理解したらしく、タウリィア姫はシンプルに魔力が多い。


 作業が終わった二人はまっすぐに私たちの方にやってきた。

 ハオラウ王子がタウリィア姫の手を引いている。


「このたびのことへの感謝と、北国への心からの謝罪を、改めて申し上げたい」


「……じゃあ、雪山についてはフェンリルに。雪国についてはジェニメロに……」

「ほらエル、そんなに後ろに下がらないで。オマエこそまっとうに謝られるべきだ」


 あーーーー。

 そうなんですよね。私は、異世界召喚されたようなもので、ラオメイが主な原因だったんだから……。


 けれど謝られるとしても迷ってしまうんだ。

 私の獣耳はへにょんと下がり、まゆも情けなくハの字になっている。


「〜〜〜っ、しばらく後でもいいですか!?」

「……理由をうかがってもよいですか。こちらからの謝罪ですから、もっと必要な物事があれば出来うる限りそろえて差し上げたいですから」

「えーと、この雰囲気の中で言うのは申し訳ないながら、本音を申し上げますと……」


 左手の薬指を、右手でいじってしまうのは私が考えを巡らせているときのクセ。

 幼いときに父から指摘されたときから、変わらない。


「この世界に来てから良い出会いが多かったからです。この世界に呼んでしまってごめんなさい、ということを聞いたときにどう反応するべきか、私は……戸惑ってしまう……。いきなりの場面転換はビックリしたし帰れないけれど、今を、否定したくはないんです。とくにフェンリルの横では。今すごく幸せなので……」


 ええ〜〜と……


 いえば言うほど墓穴というか……生暖かい雰囲気……うわあああ。

 フェンリルの表情がニッコニコしている。微笑なのにごきげんがビシバシ伝わってくる。獣尻尾が現れていたらブンブン振られていたんではないでしょうか。大精霊の威厳がしぬ。


 ……とか別ごとを考えていないと、頭が沸騰しそうなくらい恥ずかしい……。


「ハネムーン、でしたもんね……」

「はい、ソウデスネ……」

「……お幸せに……」

「はい、幸せです……」


 ぐあああああ〜!

 ムズムズする〜!

 みんなめちゃくちゃ聞き耳立ててるううう〜!

 ハオラウ王子が顔真っ赤にしながら「結婚はいいもの、なのか……」って呟いてるのが私の羞恥心のトドメになった。


 このあとはジェニメロがいい感じに話を逸らしてくれた。

 感謝感謝感謝。


 そして平民のみなさんが臨時休憩所として自宅スペースを貸してくださったので、みんなで坂の下へ。


 階段を降りるときにフェンリルが私の腰をつかんで離さなかった。

 そのせいもあってこけかけたら、危ないからと姫抱きになった。

 照れと恥ずかしさと幸せと〜〜〜!!






読んでくれてありがとうございました!



今月25日のコミカライズはお休みです。


12月には予定されていますので、ぜひご覧になってください♪



もう少しで春編もまとまります。

そのあとは夏編に参りますので、引き続きお楽しみいただけると幸いです₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ