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28:ラオメイの破壊

 


(ハオラウ視点)




 武器での戦闘を止めることは、一瞬で可能だ。


 かつてこの国の王が、春龍様に教えていただいたという奥義を、使うことができれば。


「【悠久冥冥ゆうきゅうめいめい】」


「わあっ」


 僕を中心にして溢れていく目にも鮮やかな緑の魔力に、タウが戯れるように手を伸ばして、声をあげた。


「これ綺麗ねぇ。木々の枝分かれのように緑の魔力が伸びていて、面白いわぁ。全部考えて操っているの?」

「ああ」

「どうしてそんなにも端々の方まで見ることができるの?」

「興味関心があるからだ。今は」


 前は、そんな端々のものにまで、目を掛けることができなかった。


 それを悔いてきたから、見逃したくない一心で、僕はまばたきも忘れて、視覚的感覚をめいっぱいの範囲に伸ばしている。


 タウの表現は実に的を射ていた。


 それぞれの武器に、細長い緑の魔力を纏わせた結果、戦いの最中であった僕の周辺のあたりは緑が密になり、遠方にゆくほど広くなってゆく様は、上から見ればまさしく「枝分かれ」のような光景だ。


 もはや、武器を動かすことはできない。


 この緑の魔力に囚われているところは"成長が停止"するからだ。


 つまり時間が止まっている。


(破滅の禁術)──として古書に記されていたものだ。



 僕に向かってきた弓矢も、僕の周りに漂う薄緑色の霧に触れたら、空中でピタリと止まった。


 射てきた男が「ヒッ」と腰を抜かしている。


「化物ぉ……!」


 確かにそう見えるかもしれない。


 僕の全身は緑の魔力に覆われていて、さらにそこから緑の魔力を伸ばしている様は、大木のようだろう。


 これから何が行われるのかと、心配になるに違いない。民を傷つけたりはしないと訴えるには、僕の姿は、あまりにも人離れしている。


 僕自身だって心配だ。

 この者たちの戦いをやめさせるためとはいえ、使ったのは禁術扱いの呪文なのだから。

 自分の体のわずかでも動かすことができなくなっている。この状況がどれだけ続くのかと、心配だ。


 それでもせめて僕がやらねばと思ったので、行動してよかった。



 民はこちらを見て、恐れて、すっかりと戦いをやめている。

 民を興奮させていた植物のにおいよりも、こちらの緑の力の方が、圧倒的に人体によく効くようだ。


(タウ)


 語りかけて、あの子が気付くだろうか……。

 他所を向いて手を振り回している。


「何よぅ! 化物なんかじゃなくてよ。ただのハオラウだもの。あなたたちは知らないかもしれないけどねぇ、怒りんぼうで落ち込み屋さんで、春龍様をみて泣いていたこともあるし、感情豊かな生き物なのよぅ」


(やめてくれ……!)


 そう語りかけようにも気付いてくれないのだが!?


 僕の私事を、赤裸々に語るんじゃない!



 ……伝わらず、そのあとも、僕の慌てていた過去の様子をタウの視点で、あれこれと語られてしまうのだった。


 たおやかな美女が語る言葉に民の誰もが惹きつけられて、その内容のくだらなさに驚愕してから、どうやら僕のことらしいと気付いた者から、こちらを哀れんだ目で見てくる……。

 目を血走らせていた民にそのような繊細な感覚が戻ったことは、喜ばしいと思っておこう……。

 タウは後で叱る。

 絶対叱る。


 人前でしていいことと人の尊厳の話をたっぷり聞かせることにする……ッ!


 まだこれからも生き残ってタウと会話するつもりでいる自分に気付いて、はあ、と溜息を吐きたい心地だった。

 僕の意思と、動かない体の状態がぶつかったためか、体が跳ねるようになりつつ「ゴホゴホ」と咳が生まれる。


 タウが寄ってきた。

 たっぷりの布地の袖に包まれた手のひらで、僕の頬を包んだ。


「大丈夫?」


 !……同調するような感覚がある。

 今ならば、タウに言葉を伝えられるのではないか。


 これを言うのは平時ならばためらわれたが、今となっては、彼女を頼るしかない。


 この国の姫君としてなんてもう、思っていない。春龍様が、メイシャオ・リーのことを許して妖精女王ティタリィアとして可愛がっていらした存在なのだから。


 僕は願い、手伝ってくれと縋るだけだ。


(タウ、玉座の間に行ってくれないか。僕はしばらく動くことができないようだから)


 どうか……と言う前に、


「分かったわぁ」


 あっけなく頷いて、ピシ、と敬礼のような仕草をするタウ。


「だってあなたが動けないなら、タウはここで一緒に待っているべきなのだけど、そんなのって、せっかく春がやってきたのに退屈じゃないの。これから春風になるわ」


 春の精らしく生命力豊かな笑みを浮かべている。

 その表情の変化1つで甘い香りがただようほどだ。


 いまだ残る雷雲の隙間から差し込んできた日の光が、タウを照らして、それはもうお伽話のように美しい。


 本来であれば死装束である着物をいきいきと揺らして、舞うように、タウは走っていく。

 ラオメイでは死装束を豪華にいろどる風習がある。ラオメイ織りの布地をたっぷりと使った着物、桃の花で染めたフリルを女子であればまとう。この谷で生まれた魂がまた同じところを循環するようにと、願いを込めて。


 里の子は春に生まれるものが多く、ラオメイの魂は、春に再生するのだろうと言われていた。


 タウの走っている後ろには、小さな芽が生まれてゆき、緑の小道が現れていった。


 天からの日の光と、僕が溢れさせた緑の魔力による栄養と、タウの妖精女王としての資質がくみあわさった奇跡なのではないかと感じる。



 この光景がもたらしたものは大きかった。


 戦ってぼろぼろになっていた者たちの心を柔く打った。


 みな、涙を流して地に伏せるようにして、タウに礼を尽くし、大地に生まれたばかりの緑のみずみずしいにおいを嗅いだのだ。





 僕は動けない間、よく考えた。

 この呪文は破滅だと言われていたが、本当にそれだけなのか?

 春の民として、よく考えた。


 春龍様の”ろっくんろーる”を思い出しながら。


 破壊して再生する。


 これはその始まりの方ではないかと、思ったんだ。


 再生の呪文は、王になった父だけが知っている。







読んでくださってありがとうございました!


ラオメイ回収していきますね!


本日、まんが王国様でコミカライズが更新されています。

その記念のため25日に更新していますが、

それ以外でも春夏秋冬と続けますので、どうぞこれからもフラッと読みに来て下さい♪


エルたちの描写力を磨きながら支度しておきますね!(`・ω・´)ゞ




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