反省12:えんがちょでは防げませんでした
「ぬ、ぐぐぐうおおおおおお」
「……何をするつもり?」
胴体、それも人間ならば首があるはずの部位に手を突っ込み唸りながら何かを引っ張り出そうとしている。普通に血が出ているし、収納系の力を使っているのだとしても見た目的にグロい。それならもっと簡単な方法を探せと思ってしまう。
あと、その時の顔が必死過ぎてマジ笑す。
「でやああああ!!」
「って笑っている場合じゃなさそうですね!」
先っぽが見えただけだが、それだけで嫌な雰囲気が漂ってきました。
あれは絶対に外に出しちゃいけない物です。
「さあ、質問に答えなさい! その胴体の中にどうやってしまっているのか!」
以前は空洞じゃなかったが、もしやこのために空洞にしたというの? そうなると首だけが残った空の鎧騎士になるけど。
「あと見た目が倫理的に問題があるのでそれを続けさせるわけにはいきません! 私の精神衛生上のために!!」
「ふっ、どこまでも愚かな女よ」
「言っておきますけど、見た目以上に悶えている顔面がキモイからですからね?」
「きさまああああ!」
「はい。隙ありです」
ふふふ、ギロチンだけが戦闘手段じゃありません。こう見えて鍛えています。だけど、さすがにギロチンがないのは不利だからちょっとだけ裏技。
「どうです? 外せないでしょう!」
「……おい、これはなんだ? 確かに間違いなく不快な感覚はあるが魔法道具ではあるまい?」
「知りたいですか? 知りたいんですか? それを知ったらあなたは阿鼻叫喚の彼方に身をゆだねることになりますが、いいでしょう教えてあげます。その正体は――自称世界一の聖職者である教皇が見習い時代から肌身離さず身に着けていた聖なる衣。それを割いて一本のロープにしたものです」
「聖衣をロープに? 確かに魔族に有効そうだが、それだけでこの俺の動きをここまで止められるものか!」
ふ、ふふふ。聖衣だと誰が言いましたか。
「私は聖衣だなんて言っていませんよ。『聖なる衣』そう言ったんです」
「それが聖衣だろうが!」
「いいえ? 聖衣は聖職者が身に纏う制服のようなもの。私が使っているものはそんないいものじゃありません」
正直話を聞いた時は悲鳴を上げそうになりましたし、それを実行した精神力は常軌を逸していると思いましたが。
「これは教皇の肌着を割いたものですよ」
「……は?」
「つまりですね。さすがに民衆の前に出る修道服などを洗わないのは民衆に変な目で見られるでしょう?」
あとは一応階級が上がれば様相も変わっていきますからね。
「だからこそ変えなくてもバレない。かつ自分は神にその身をささげた清らかな存在であると証明できるものはないかと考えた末の行動として……」
「肌着を洗わなかったと?」
「そうです。ついでに言うと下着も滅多に洗わなかったそうですよ」
「だ、だが、そんなことできるわけが」
「……そうですね。衣類も痛みますからね。だからそれは歴代のモノを束ねたんですよ?」
私もこれを使いたくはなかったんですが、奥の手ということで。
「う、うぎゃあああああ!!」
理解した瞬間になりふり構わず解こうとしますが、それをすると余計に絡まっていく。
顔が浮いているから当たることはないけど、近づかないとどうやって解けばいいかわからないんじゃないですか?
その間に私はデモンモンを拘束しているギロチンに力を注ぎこむ。
罪の穢れを払うスピードが急速に上がり今まで以上に苦しみ、悶えだす。それでもいい。早くしないと拘束が解けてしまう。
力は弱めたとはいえ、相手は魔族の中でもトップクラス。嘘か誠か今ではあの化け物みたいな師匠も振り払ってきたというのだから、武器無しで待ち構えるような真似は出来ない。
「おのれ、なんとなんと汚らわしいマネを!」
「それは失礼ですよ。一応神にささげた清らかさなんですから!」
「黙れええええ! 貴様を屠った後であのババアはもう一度殺してくれるわ!」
「そんな暇を与えると思いますか!」
行きなさい!」
「ぬっ!?」
「とっくにギロチンは自由になってます。さあ、あなたも地獄へ送り返して――」
「ぬるいわあああああ!!」
「そんなっ!?」
「覚悟しろ。私をここまで侮辱して許されると思うなよ!!」
「なんてこと。まさか、師匠の汗と汁がしみ込んだローブが怒りを増幅させて……」
「それ以上言うなーーー!!」
「——師匠、ギロチンをはじくような化け物を生み出すなんてあなたはなんてお人なんですか!?」
「慄くのはこれからだ! もはや前座に用はない!」
「見よ、これが魔王の力だ!!」
血をまき散らしながら、取り出したミイラ。
だが、乾いた身体からは腐ったにおい以上に禍々しい瘴気が漏れ出ていた。
「さあ、古き魔王よ! 我にその力を寄こせええええ!!」
「させない! ギロチンよ。拘束できずとも首を頭部を破壊しなさい!!」
だが、断罪の刃はあっさりと弾かれた。
離れたところにある頭部へと続く途中で。まるで目に見えない首が弾いたように見えた。
「——頭を破壊? まだ貴様には見えていないようだな。我の新しき姿が」
先程まで血を噴き出していた接合部からは黒いオーラが伸び、頭部を引き寄せどす黒い首を形成しデュラハンをその最たる特徴である首無しという呼び名を返上させ、魔王へと変貌させた。
「さあ、これでおしまいだ」
私は見た。
断罪の刃が砕け散っていく様を。
師匠には苦言を。ロープを触る際にはしっかりと手袋をしています。




