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観光2:地獄観光(修業です)

「——さあもっと気合を入れて!!」

「は、はいっ!」

 デュラハンに軽くあしらわれてから一週間。私は法王様に指示し、魔法道具の真の力を引き出すための修業に明け暮れていました。


「魔族に対抗するためにはもっともっと力をつける必要があります。力がなければ魔族に使う前にあなたが力尽きてしまいます」

「はい!」

「私達が力をつけるのはそれによって守れる人が増えるからです。先日の悔しさを思い出すのです。あの憎たらしい魔族の顔を!」


「……顔」

 思い出そうとしたが思い出せない。だって、あいつ首を抱えてましたし……思い出そうとすると憎たらしさが溢れる。くそっ、首が無いからって調子に乗っちゃって!


「雑念を抱かない!!」

「ひゃい!?」

 ……法王様はちょっとスパルタ過ぎます。


「……ちなみになんですけど、秤の真の力は一体どのようなものなんですか?」

「……さあ?」

「『さあ?』って!?」

 いい年齢の方が首を傾げてもぜんっぜん可愛くありませんよ!


「魔族を退ける神聖なる力が宿っていると代々伝えられてはいますが、ありがたいことに我々は長い間魔族に脅かされることのない平穏な日々を送ってきました」

 だから実際の効果は知らないと。

「そんなことで真の力を引き出せるんですか?」

 というか本当に真の力を使えるんですか?


「その辺はぬかりありません。能力を解放すると魔法道具が教えてくれますから」

「……なぜでしょう。急激にインチキっぽく感じてきましたが」

 本当に信じていいのでしょうか。


「それはそうと私も一つ思い出したことがありました」

「なんですか?」

「もう一つの魔法道具の存在です」

「もう一つ!?」


「そうです。王国のギロチン、我が国に伝わる秤。それともう一つの魔法道具が存在するのです」

「で、ですが私は知りませんけど?」

「それはすでに滅んだ国にその宝があったからです。国と一緒に宝もどこかに消えてしまったと聞いています」

「その国はどのあたりに存在したんですか?」


「位置的には帝国やその周辺国が治める地点ですね。ただ、かつての国は五つの国に分かれていますからそこから魔法道具を探し出すのは至難の業かもしれません」

「……見つかったとしても使えるのかどうか」

 誰かの手に渡っているか、そもそも国がなくなっている時点で壊れているかも……。


「魔法道具は使い手を選ぶ傾向にあります。誰にでも使えますが、本当に使ってほしい相手の前に姿を見せるという話も」

「その割には王国も法国もずっと同じ場所にありますよね」


「——こう考えてみてはどうでしょう? 王国のギロチンは王国の民に使ってほしかった。法国の秤は法国の人間に使ってもらいたかったというのは?」

「……こじつけっぽいですね」

 だけど、そう考えれば妥当かな?


「すると滅びた国にあったものは使い手を選ぶ可能性が高いと」

「もしかしたら転々と主を変えて今もどこかにあるかもしれません」

「……ただ探し出すのは大変でしょうね。せめてどのような用途で使うものかだけでもわかっていればいいのですけど」


「時を刻む物——そう聞いたことはあります」

「時を刻む……時計やそれに類するものでしょうか?」

「昔ですからね。砂時計や大雑把な時間間隔で生きていた時代の人間が作り出したものの可能性もある以上は断定はできないでしょうが、その類として探してみるのはいいかもしれません」


「まずはそれを探し出すのがあいつに対抗するために必要なことかもしれませんね」

「ですが、あなたはまず魔法道具の使い方を学ぶ必要がありますけどね?」

「うぐっ!」

「——まあ苛めるつもりはありません。実際、いつ終わるのかわからない修業をするぐらいならばより多くの手段を探しておくべきでしょう。ただし、あいつはあなたを狙っていることもお忘れなく」

「……はい」

 確かにあいつは私を標的にしたことを宣言している。


「私も立場を私的利用していると言われかねませんが、秤を四六時中身に着けておこうと思います。……本当は一緒に行ければいいのですけど」

「仕方ありません。あなたは法王という立場があります」

 宗教という化け物を統べるトップであり、一国の王でもある人物に旅に同行しろなんて言えませんから。


「希望があればできうる限り手助けしましょう。それまで修業ですよ」

「……はい」


「——ダイアナ様は今頃どうしているのかしら?」

「……はぁ。またその話?」

「だって、法国イングラスに行ったのよ? あそこは良い国だけど宗教国家に聖女と呼ばれる人物が行くのは賛成できないわ」

「……それは同意。でも、一緒に行くわけにはいかない」

「そうよね。私達には私達の役目があるのだから」

 まだ幼いリンネ様を守りつつ、スラムースを我が国に取り込む必要があるのだから。


「……王国は戦争に進む」

「ダイアナ様がこの時期に現れたのは意味がある気がする」

「この先にあるのは破滅? それとも?」

「これ以上はやめておきましょう」

 本当になったら困るもの。


「……ナットー様がもう少し魅力的だったら」

「ナットー様がもうちょっと押しが強かったらな~」

 あらま被っちゃった。


「やっぱり、ダイアナ様のことをそんな風に見てた?」

「……もちろん。あの人が奥方様なら文句はない」

「ただ、ダイアナ様かなり身分高いわよ?」

 どうしてこの国があんな素晴らしい方を手放そうとするのか理解に苦しむ。


「……今は平民」

「それはそれで問題でしょう」

 それにあくまでよ。あの人をいつまでも放っておくわけがない。下手したら聖女という称号が認められるかもしれない。まあ、可能性は低いけど。


「——おい! イングラスが声明を出したぞ。魔族に襲われていたところを法王と聖女ダイアナが共に追い払ったと! その功績を称え、彼女を聖女として認定するらしい!」


「「はぁ~」」

 本当にヘタレな主を持つと苦労するわ。

 これで余計に手の届かないところに行っちゃったじゃない。

 タイトルと始まりから修行回かと思いましたか? 残念ですが、修業はしません。ダイアナは成り行き任せなのでじっとしていないのです。

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