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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

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73話 赤壁の戦い 後編


 曹操の敗走。

 その一報が届いたのは、于禁、劉備、ほぼ同時であった。



「曹操軍敗走! 関羽将軍、劉封将軍は追撃を開始!」



「丞相の本軍、敵襲により撤退! 江陵へと逃げておられます!」



 于禁はその報告を聞き、狂わんばかりに叫んだ。

 劉備を、抜くことが出来なかった。あと一歩、そのせいで勝利を逃したのだ。


「命を捨ててでも、劉備に喰らいつけ! 決して、殿の下へ走らせてはならん!!」


 于禁軍は防御も捨て、命を捨てた突撃を開始。

 しかし、劉備軍もまた同時に突撃を開始。先鋒は、張飛。


「兄者! ここは任せろ!」


「張飛、死ぬなよ!!」


 劉備は半数の兵を割き、華容道へ進軍。目的はもちろん、曹操の首一つ。

 于禁は必至に追いすがるが、張飛の精鋭がそれを許さない。


「出てこい! 于禁! 曹操より先に、テメェを地獄へ落としてやるぞ!!」


 張飛がひとたび大刀を振るえば、一面が朱に染まり、数多の首が吹き飛ぶ。

 飛び交う怒号。于禁は、前に出て、矛を振るう。


 それは張飛の大刀とぶつかり、鈍い金属音を響かせる。


「そこをどけ、身の程を弁えろ……このクソ野郎がぁぁあああ!!」


「ようやく兄者が雲を掴み、天下へ飛ぶんだ。その願いは聞けねぇなぁ!?」





 華容道にようやく出たと、思った瞬間だった。

 後方にはためく「劉」の旗。響く銅鑼と、馬蹄。


 何度も見た。忌まわしい程に脳に焼き付く、因縁の男。


「今、勅命によりこの劉備が、曹操の首を貰い受ける!!」


 烏林の方も、関羽と甘寧の軍が集結し始めている。

 曹仁と夏侯淵の姿は見えない。


「殿、このまま江陵へお急ぎください。劉備は、我らが虎豹騎が引き受けます」


 曹純はそう言うと、疾風の如き速さで駆け出した。

 響く喧噪と剣戟の音。曹操は曹純の方を見ず、ひたすら馬を走らせる。


 周囲を囲む兵は百も居ないだろう。

 段々と、弓矢も届く距離になってきた。

 恐らく関羽と甘寧が、追いついてきたのだ。


 許褚は自らの体を曹操の盾としながら、後ろを振り向き弓を放つ。

 その正確無比な弓矢は、敵の弓兵を馬から一人、また一人と落す。



「殿、ここからはお別れに御座います。何とか、お一人で江陵まで」


「虎痴、何を言う」


「長江を上った周瑜の軍が先に居るとの報告が。私がそれを引き受けます」


 周瑜は、もうそこまで。

 許褚は嘘を言う男ではなかった。


 気づけば賈詡もどこかではぐれたのか、姿が見えない。


「大丈夫です。江陵の曹丕様、襄陽の郭嘉殿が迎えを出しておられます。あと少しです」


 前方に、敵影が見えた。

 万を超える大軍勢。もう、逃げられない。


「丞相、お先に失礼します」


「ま、まて! あれは、あれは敵ではない!」



 高く振られるのは「曹」の旗。

 周瑜でも、劉備の軍でもない、あれは江陵に残していた曹丕の軍で間違いない。


 少数の兵が駆け寄ってくる。


「父上、御無事でしたか。もう、大丈夫に御座います」


「そ、曹丕、何故ここが分かった」


「郭嘉殿の言に従いました。既に河は封鎖し、周瑜本軍は曹洪将軍が足止めしております。もう、大丈夫です。後はお任せを」


 全身の力が抜ける程の安堵。

 曹丕はそんな曹操の体を抱きとめる。


 すると後方から馬蹄が響く。

 あれは、甘寧の部隊か。凡そ百を数えるほどの、少数の精鋭達だ。


「父上、さぁ、お早く。将軍も」


「曹丕様、兵を。私が追い散らします」


「いえ、許褚将軍のお力を借りるまでもありません。士幹シカン!」


「はい!」


 曹丕の側にいる、若い武人が声を上げる。

 まだ成人もしていない、十代も半ば程の少年であった。


「百騎与える。初陣だ、見事武功を立てて見せよ」


「三十騎で結構! 追い散らして見せましょう」


 そう言うと少年は、本当に三十騎のみを率いて、飛ぶように駆けだした。

 流石に少なすぎる。しかも、甘寧の兵は孫権の軍の中でも飛び切り勇猛である。


 許褚はたまらず飛び出そうとしたが、曹丕がそれを笑顔で留めた。


「よく見ておいてくだされ。あれは、私の武術の師範となる男です」


 士幹の三十騎は槍の様に尖りながら、甘寧の部隊に突き刺さった。

 しかし、敵も勇猛。貫くまでにはいかずそのまま囲まれ、三十騎は揉み上げられる。


 終わった。そう思った瞬間、いきなり敵部隊が蜘蛛の子を散らすように霧散。

 散り散りになって逃げ始め、士幹は矛先に一つの首を掲げて悠々と帰還した。


「敵の部隊長の首に御座います」


「よくやった。それにしてもよく敵の部隊長が分かったな」


「こちらが少ないと侮り、前に出てきておりました。部隊長ともなると質の良い馬に乗ってますから、一目で分かりました」


「流石だな。まさに天武の才よ」


 馬を見ただけで、敵の部隊長を見極める。

 許褚にはその理屈はよく分からなかったが、それを実現して見せた。それも、少年がだ。


 曹丕は文武に秀でた天才である。その曹丕が認めている。

 この少年もまた、天才なのだろう。許褚は、驚きの表情を浮かべたまま切り離された首を見て、それを確信した。



 曹操は曹丕の部隊と合流。これを旗印に、散り散りになっていた兵も徐々に集まりだした。


 虎豹騎に阻まれた劉備はそれを見てすぐに撤退。関羽もそれに同行。


 周瑜軍は曹洪軍と対峙を続けながら戦線が膠着。江陵の目の前で対峙を続けている。


 赤壁の戦いは、ここに終決。

 郭嘉の一手により、曹操は史実よりも被害を抑えて、帰還することに成功したのであった。



これにて第三章は終結です。

まだ物語は続きますので、今後ともよろしくお願いいたします!


次回は、郭嘉が最後の一手を残します。



面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

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[良い点] 弟くんすごい……大出世ルートやん…………
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