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辺境の流刑地で平和に暮らしたいだけなのに ~三国志の片隅で天下に金を投じる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
三章 赤壁の風

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47話 後悔の呻き声


 とりあえず秘密裏に準備は進められていくこととなる。

 まず、急に僕がこの交州から姿を消したとなれば流石に不自然なので、魯陰が配下の間者から僕に似た替え玉を用意してくれた。

 そして交州の南端、僕のお爺ちゃんがかつて治めていた「日南郡」という小さな土地に、赴任するという形となる。


 ここで裏方の仕事を主に行っていれば、流石に歩隲も気づくことはないと思う。

 まぁ、あの人はあまり裏工作に聡いというタイプではない。孫権が直々に調査をしない限りは大丈夫だろう。


 そして、劉備陣営に僕が居ることがバレても問題、というのがあった。

 そこで僕は配下として、あの山越族の「ぜん」を連れていくことにした。

 彼らの部族には独自のフェイスペイントや髪形の風習がある。それを簡単に施してもらうのだ。

 雷家において、主に薬草類の仕入れ・販売を担当しているとして、異民族と交流を深めるべくこういう姿なんだと説明すればいい。


 あとは、戦場になり得るのだから、複数人の医者もつれていこう。主に外科を専門とした者達を、だ。

 技術の向上にもつながると思うし、学び得る者も多いだろう。

 儒教の思想が強い陣営では「外科医」は正直タブーな目で見られるが、戦場に生きる劉備ならきっと治療を任せてくれると思う。


「若旦那! この顔料は、一度塗ったらなかなか消えませんが、良いのでしょうか?」


「構わないよ。少し長い滞在になるからね」


 目の下に黒い円がいくつも描かれ、あごや頬に赤色の模様が走る。

 伸ばした髪は頭頂部にまとめていたが、それは数珠みたいに垂れ下がる様に束ねられた。


「さぁ、どうでしょうか?」


 銅鏡に映し出される僕の姿は、がらりと雰囲気が変わっていた。

 なんというかイメチェンをして大学デビューを意気込んだ、あの苦い記憶が蘇るな。

 にしても、これはまぁハッチャけ過ぎだけど。


「蝉の部族はみんなこれを?」


「役によって違いますね。戦闘や狩りをする大人は顔全体を黒くし、白い文様をそれぞれ描きます。まるで、骸骨のように」


「それは、夜に見かけると腰を抜かしそうだな」


「そもそもが威嚇の目的でしたので。姐さんも若い頃は狂戦士として活躍していたので『紅の骸骨』の異名を持っていたこともありました!」


「えぇ……あー、えっと、じゃあ僕のこれは?」


「主に裏役の男に施すものですね。儀式や交易、部族の運営に関わるような、そういった役の人間の模様です。太陽の意味が込められています」


「なるほど」


 こういうのも話を聞いているとなかなか興味深い。

 部族ごとに文化も伝統もことごとく違うのだ。

 こういうのを根気強く理解していくことが、多民族が入り混じる交州の運営にも繋がるんだろうね。



「やぁ、久しぶりだねシキ! って、うわぁ!?」


「あぁ、雷華か。丁度良かった」


「もしかして、シキかい? どうしちゃったの、それ。まるで別人じゃん」


「そう思ってくれてるなら、ひとまずこれは成功だな」


 驚いたままの雷華は後にして、蝉にひとまずお礼を言って、下がらせる。

 蝉には僕の護衛を頼むことにしようと考えています。


「いやぁ、でも、何だかすっかり別人だね」


「しばらくはこのままだぞ。洗っても取れない顔料だとよ。試しに一緒に湯浴みでもして、落ちないかどうか試してみるか?」


「え、あ、いや、それは、ちょっと」


「冗談だよ」


 男同士なんだから別にそこまで遠慮することないじゃないか。

 少し傷つくな。それとも、他の理由が、とか。うーん。

 以前にシシ兄上が言っていたことがまだ引っかかっている。


「あ、そうだ。今後だが、僕の事は『ほう』、もしくは『従兄上あにうえ』と呼んでくれ。間違ってもシキとは呼ぶな」


「そういえば、父上にもそう言われてた……注意するよ」


 互いに歳は、十八になっていた。

 雷華は相も変わらず鋭いまでの美貌であったが、そこに色香も感じるような顔立ちになってきている。

 さぞやおモテになるのでしょうな。良い商家の出身だしね。


 このまえ、歳も近い陸績殿が一児の父となったことで、そういったことも考えていかないとな、と。

 何となくだがふんわりと思うようになってきている。シシ兄上だって、なんか色んな商家と婚姻結んでたな、確か。


「まぁ……そんなこと考えてる暇なく、劉備陣営に赴くんだけどね。とほほ」


「え、何か言った?」


「別に。友人がますますイケメンになっているせいで、僕の肩身が狭いなぁと思ってね」


「ふぇ?」


 僕に女性が言い寄ってこないのも、コイツが原因じゃない?

 なーんて。


 何が悲しいって、この前、陸績さんに言われたんだよね。

 このままずっと相手が居なかったら、我が娘を、って。いやいや、勘弁してくれ。

 ついこの前、生まれたばかりの女の子でしょうよ。




「じゃあ、雷華。この書状を君のお父さんに渡してくれ。必要になるだろう商品を列記している。旅費なんかはこっちで出すからって、伝えておいてくれ」


「あ、あぁ、分かった」


「じゃあ僕は仕事に戻るよ。この顔を見て驚く陳時ちんじさんや、文官達の反応が楽しみだ」


 シキはそう言って、ワクワクしながら部屋を出た。

 残された雷華は、思わずその場にしゃがみこんでしまう。


「あぁ……今日こそ言わないとって、思ってたのに、言えって父上にも言われてたのに。うぅ……」


 後悔の呻き声が、静かな部屋に響いた。



色んな人の思惑が混ざり合って、重なり合って~♪(ぇ

あ、顔の塗料が取れないで思い出したのはナスDです。はい。


次回のタイトルは「長坂の戦い」です。



面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価・コメントよろしくお願いします!

また、誤字報告も本当に助かっています!


それではまた次回。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 後書きのは「長板」ではなく「長坂」ですね [一言] このペイントは儒教にこだわる名士サマ方にはあんまり評判良くないだろうなぁw まぁ荊州はそれどころじゃないだろうけれど
[一言] 劉備どんなだろ。作品によって全く違うキャラになるから、楽しみです
[一言] なるほど、そういうことね。 しかし劉備に気づかれたらどうなるやら・・・気づかれそうな気がw
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